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幼馴染のテイムモンスターですが何か?~VRMMOでキャリーしてたらユニークモンスター扱いされて世界中から追われてる件~  作者: あずーる


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第一話 始まりはいつも通りの強引さで

 ピンポンピンポンピンポーン!!

 けたたましい電子音が熱のこもり始めた自室に鳴り響く。


「あー……うっせえな、誰だよ」


 枕を頭に押し付け、重い瞼をこじ開ける。枕元の時計は午前八時を回ったところだ。額に張り付いた前髪を鬱陶しく払いながら立ち上がり、二階の窓を開けて下を覗き込んだ。


 じりじりとアスファルトを焼く朝の陽射しの中、見覚えのある白い日傘が揺れている。

 傘の隙間から覗いたのは、小奇麗に整えられた茶髪と、勝ち誇ったような笑みを浮かべた見慣れた顔だ。


 山田桃花。

 隣の家に住む、物心がつく前からの腐れ縁だ。


「なんだヤマモモかよ。こんな朝早くに何の用だよ」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!」


 桃花は日傘を器用に肩へ担ぎ直すと、持っていた四角いパッケージを時代劇の印籠のように突き出してきた。


「じゃっじゃーん! これ、なーんだ!」

「……光ってて反射して、何も見えねえよ」

「えっ、嘘、眩しい?」


 うろたえる幼馴染の顔を見て、ふっと鼻で笑う。そのまま窓枠に手をかけ、一階の屋根の(ひさし)を経由して、庭の芝生へと飛び降りた。


 ドガッ、と足裏に重い衝撃が走る。

 固い土と、刈り取ったばかりの芝生のツンとした青臭い匂い。裸足の裏にじんわりと伝わる熱と、骨を震わせるような微かな痛みが、ぼんやりとした脳を強制的に覚醒させる。この着地の瞬間特有の痺れるような感覚は、妙に癖になってやめられない。


「いって~……」

「ちょっと、マキマキは相変わらず野生児だねぇ。普通に階段使いなよ」


 呆れたように眉をひそめる桃花。

『マキマキ』。俺、小田巻真樹(おだまきまさき)にこいつが勝手につけた不名誉なニックネームだ。小学校の入学式の日、名簿を読み間違えられて以来、こいつの前ではずっとこの呼び名のままで定着している。


「で、それ何なんだよ」

「ほら、マキマキの大好きなモンスターを狩るゲーム! 最新作の『モンスタースレイヤーズ:レジェンド』!」


 目の前に突き出されたパッケージには、猛々しい黒竜のレリーフが施されていた。

 胃の奥が、すっと熱くなる。歴代のシリーズをすべてしゃぶり尽くし、全武器種を極め、プレイ時間がカンストするまでやり込んだ、あの伝説の系譜。


「あー……最新版のVRのやつか。でも俺、プレイするためのVRゴーグル持ってないんだよな」

「えーっ!? マキマキ、まだVRゴーグル持ってないの!?」


 桃花がわざとらしく目を見開く。


「だって、あれ酔いそうじゃん。俺、ちっちゃい二次元の画面をコントローラーでカチカチやってる方が性に合ってるんだわ」

「うわー、出たよ懐古厨。バーチャルの良さを知らないなんて、人生の半分は損してるよ?」

「その、画面のドットが見えるか見えないかくらいの安っぽい感じが最高にいいんだよ」

「もう、つべこべ言わないの! ついてきて!」


 有無を言わさず、細い指が俺の手首を掴む。

 ぎゅっと握られた手のひらは、日傘をさしていた割にほんのりと熱を帯びていて、汗ばんでいた。抵抗する間もなくずるずると引っ張られ、隣の山田家の門をくぐる。


「おじゃましまーす」

「あら、真樹くんいらっしゃい。上がって上がって」


 居間から顔を出した桃花の母親が、慣れた様子で手を振る。幼い頃からお互いの家を行き来しているから、もはや我が家のようなものだ。


「ほら、早く、私の部屋行くよ!」

「待てって。俺、裸足のままだから足の裏汚いんだけど」

「バカじゃん、なんで裸足で外出てきてるの。ほら、これで拭いて!」


 桃花が洗面所からひったくってきた、少し柔軟剤の匂いがするタオルを押し付けてくる。


「悪りぃ、助かる」


 足を拭き終え、階段を駆け上がって彼女の部屋に入る。女の子の部屋にしては少し男勝りな、ゲームのポスターやデバイスが並ぶ一角。桃花は部屋の隅から、バイクのヘルメットを近未来的にしたような重厚なゴーグルを引っ張り出してきた。


「ちょっと頭下げて」

「おい、心の準備が──」


 頭にずしりとした重みが載る。

 カチリ、と耳の後ろでロックが締まる音が響いた瞬間、脳髄の奥を冷たい電流が通り抜けたような感覚に襲われた。


 直後、世界が一変する。


「──なっ、」


 喉が張り付いた。

 狭い、エアコンの効いた桃花の部屋にいたはずだった。

 しかし今、俺の目の前にあるのは、鬱蒼と生い茂る巨大な木々と、視界を覆う濃い霧だ。


 ひんやりと冷たかったはずの肌に、まとわりつくようなネットリとした熱気が絡みつく。

 鼻腔をくすぐるのは、立ち込める泥の臭気と、腐敗した落葉のツンとした匂い。

 足元はフローリングの硬い感触ではなく、じっとりと水を含んだ沼地のぬかるみだ。一歩踏み出すと、泥が靴底に吸い付く「じょり、」という湿った音が鼓膜を揺らす。


「おい、これ……」


 信じられない思いで、自分の両手を見る。

 そこに現れたのは、肉厚な黒鋼の鱗に覆われ、淡い光を放つ魔石が埋め込まれた籠手だった。


「これ……『GRエンシェントドラゴングローブ』じゃねえか。胴は『カオスエンジェルメイル』か?」


 胸元に触れると、冷徹な金属の質感と、内側に仕込まれた細かな鎖帷子の感触が指先に伝わる。過去作で親の顔より見てきたあの装備が、まるで自分の皮膚の一部であるかのようにそこに存在していた。


「ガチのモンスタースレイヤーズの世界じゃん……!」


 鳥肌が立つのを感じた。この森の湿り気、装備の重み、すべてが本物だ。

 その興奮の絶頂で、突然、視界がぶつりと暗転する。


「どうだった!?」


 目の前には、いたずらっぽく笑う桃花の顔。

 頭からゴーグルが外されていた。急速に引き戻される現実。フローリングの乾いた冷たさと、エアコンの無機質な風。


「……びっくり、した」

「あはは! 語彙力失ってるじゃん!」

「っていうかお前、いい装備つけてんな。もう中盤の難関ボス越えてるだろ。ヤマモモのくせにやるじゃん」

「でしょー! 頑張ったんだからね。──ね、どう? やりたくなってきた?」


 桃花が身を乗り出して、目を輝かせる。


「いや、めちゃくちゃ面白そうだけどさ……。俺、今月バイト代入るまで金欠なんだよ」

「ふふん、そう言うと思ってね!」


 桃花は勝ち誇った顔でクローゼットを開けると、そこから少し小ぶりな、ピンク色のVRゴーグルを取り出してきた。


「はい、これ私のお古! 貸してあげる!」

「は? なんでお前、こんな高価なもん二個も持ってんだよ」

「ちっちっち。私が今使ってるのは最新版。こっちは旧型なの」

「はあ!? あの予約瞬殺だった超高倍率の抽選当たったのかよ。エグすぎだろ」

「でしょー? わたし日頃の行いがいいからね! というわけで、マキマキはその古いゴーグルでみじめに楽しんでね! これが身分の差、というやつですのよ。おーほっほ!」


 わざとらしい女王様ポーズを取る桃花に、俺は苦笑交じりにゴーグルを押し戻そうとする。


「いや、さすがに申し訳ねえよ。こんな高いもんタダで借りるわけにいかないって」

「じゃあさ、マキマキが私をキャリーしてよ。それでチャラってことでどう?」

「キャリーって……俺、レベル1の初心者データから始めるんだぞ?」

「でも、マキマキうまいじゃん」

「まあ……確かに、うまいけど」


 このシリーズに関しては、誰にも負けない自負がある。モンスターのモーション、弱点属性、フレーム回避のタイミング、そのすべてが脳に刻み込まれている。


「はい、決まり! これがマキマキ用のソフトのチップね」

「おい、まだやるとは言って──」

「つべこべ言わずに始めるの!」


 おでこに冷たいプラスチックの感触。強引にゴーグルが押し当てられ、視界が光に包まれる。


「おわっ!?」


 耳の奥で、システム起動を告げる澄んだ電子音が鳴り響いた。


『──Welcome to Monster Slayers: Legend──』


 目の前に半透明のブルーのウィンドウが浮かび上がる。


「キャラメイクの画面、出た? 最初に適性を測るランダムな種族が3つ表示されるはずなんだけど、何て書いてある?」


 ヘッドホン越しに、桃花の少しこもった声が聞こえてくる。


「種族とか選べるんだな。やっぱりステータスとか違うのか?」

「うん。初期値とか結構変わるよ。でも後からアイテムで変えられるから、ぶっちゃけ何でもいいよ。適当に選びなー」


 どれどれ、と表示された選択肢を見つめる。


 ・モフシープ

 ・ブラックエイプ

 ・ロックホーン


「ん……?」


 俺は思わず、その名前に眉をひそめた。


「なあ、ヤマモモ。お前、最初に表示された種族って何だった?」

「わたし? 私は『リザードマン』だよ。トカゲの戦士っぽくてかっこいいなーって思って」

「リザードマン……。じゃあさ、他には何があった?」

「えっと、ヒューマンとエルフとドワーフ。まあ、王道ファンタジーのやつらだね。それがどうしたの?」


 画面に並ぶ文字を見つめ直す。


 モフシープ――突進の前に必ず後ろ脚で地面を掻く、あの間抜けな羊。こいつはないな。

 ブラックエイプ――木の上から糞を投げてくる、序盤で誰もが一度はブチ切れる猿。

 ロックホーン――視界の端に映った瞬間にはもう突っ込んでくる、鬱陶しいサイ。


 どれも過去作で、いやというほど狩り倒してきた、まごうことなきモンスターの名称だ。


「……いや。なんでもない。じゃあ俺、ブラックエイプにするわ」

「え、お猿さん? まあ、マキマキにはお似合いかもね」

「うるせえよ。……っていうか、このブラックエイプとかの選択肢って、そんなに出てくるもんなのか?」

「うーん? 私は聞いたことないかな。攻略Wikiでも見かけなかった気がする」

「へえ、もしかしてレア枠か。ラッキーだな」


 旧型のゴーグルだから、何か特殊な初期キャンペーンコードでも入っていたのだろうか。あまり深く考えず、俺はブラックエイプの文字を人差し指でタップした。


『種族:ブラックエイプ を選択しました。ゲームを開始します』


 システム音が、心なしか重苦しい低音で響く。


「じゃあ、始まりの街インテルで集合ね! 先に行って待ってるから!」

「おう、すぐ行くわ」


 視界が激しい閃光に包まれ、俺の意識はデジタルな深淵へと沈み込んでいった。


【モンスレ雑談スレッド Part 15】


 10:名無しのスレイヤー

 種族みんな何にした?


 11:名無しのスレイヤー

 俺はヒューマン。やっぱ一番操作が馴染むわ


 12:名無しのスレイヤー

 リザードマン選んだけど、尻尾を使った回避モーションがかなり優秀で大正解だわ


 13:名無しのスレイヤー

 エルフにして弓使いやってる。めちゃくちゃ遠距離楽ちん


 14:名無しのスレイヤー

 ドワーフは鍛冶補正があるらしいから、生産職やりたい奴はドワーフ一択だな。近接の防御力も高いし


 15:名無しのスレイヤー

 結局、最初に選ぶならヒューマンが一番安定なん?


 16:名無しのスレイヤー

 だな。ステータスが平均的だからどんな武器でも使えるし。

 ちなみに種族は後からでも変えられるけど、育成度がリセットされるから最初に一つに絞って育てた方がいいぞ。種族を極めると上位種族に進化できるらしい


 17:名無しのスレイヤー

 モンスターとか選べた奴っている?


 18:名無しのスレイヤー

 は? モンスター?


 19:名無しのスレイヤー

 何言ってんだこいつw


 20:名無しのスレイヤー

 それ討伐対象だろwww


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