妃教育始動
暑い、暑い、⋯熱い?
これ、これが王太子妃教育の初っ端?
嫌がらせ⋯⋯いやいやいや
初めっからそんな穿った見方をしちゃいけない。
いけないけど⋯⋯。
「エルファイア様、お顔が崩れておりますわ、初日ですので汗はよろしいですが、表情は固定でお願いします」
本日私は王太子妃教育の為に登城しています。
陛下と王妃様にご挨拶の後、講師であらせられるストマイク伯爵夫人に紹介頂きました。
それからこの部屋に連れてこられたのですけど⋯。
部屋は前世で言うところの3畳一間、それの密室。
その真ん中に置いてある椅子に座るように言われてカレコレどれくらい?
時計も無いから時間はわからない。
でも夏期休暇というくらいだから暑いんです。
おまけに密室。
そこで座ったまま表情筋を鍛えるとかなんとか。
先程から暑さで汗が流れて目に入るから顔を顰めてしまうのだけど、それアウトなんだって。
王太子妃は
汗をかかない!
表情を崩さない!
常に微笑みを!
何だそれ~~~~
どんなに暑くてもどんなに寒くても表情は常に一定と言われたけれど、暑さが熱さに変わってると思う。
どんな拷問だよ!
私⋯そんなに異世界の話、読んでなかったけどいくつかは読み切った物もある。
その中に、幼い頃から未来の王妃になるべく王太子妃教育を頑張った婚約者が、ヒロインに王太子を掻っ攫われる話があったの。
婚約者はヒロインに嫌がらせして断罪されるんだけど、読んだ時はただの小説と思って「ふ~ん面白かった」で終わらせた私。
今ならザマァされた数多の婚約者達の気持ちが解る。
そりゃあ嫌がらせもしたくなるでしょう。
今日以降、リスキャリー様が私以外の誰かと恋仲になって婚約解消とか言われたら、絶対にリスキャリー様毎嫌がらせしてやる!
それくらいホントにホントに苦しいよ。
そんな事を無表情を心掛け考えていたらストマイク夫人がコップに水を入れて渡してくれた。
「どうぞ」
「あっありがとうございます」
思わず一気飲みしたら凄い顔で睨まれてやり直しさせられた。
「エルファイア様!お気を付け下さい。今渡した物に毒が入っていたらどうされるおつもりですか!」
「は?」
「どうされるお・つ・も・り・ですか」
「えっ?死にます」
「そうではなくて!王太子妃は簡単に死んではなりません!」
そんな馬鹿な!
王太子妃じゃなくてもかんたんに死にたくはないけど、毒盛られたら死んじゃうでしょう。
「先ず飲み物を渡されたら相手を見てください。見かけない侍女なら毒味を本人にさせる、これ基本です」
「へ?」
「何ですか!その返事は!」
怖い怖い怖いストマイク夫人が怖いです~
「知り合いというだけの関係なら飲まない、これも基本です。エルファイア様が断れない相手はこの国では陛下と王妃様、そして王太子様のみです。あとは断っても無礼には当たりません」
「⋯⋯⋯」
「先程私から渡された飲み物は、本日初めて会った者から渡されたので私に毒味をさせるのが正解です。これでもし私が反論したら不敬罪で捉えてもいいのです!」
そんな無茶な!
でもストマイク夫人の妙に説得力のある言葉に私は少しだけ尊敬してしまった。
「エルファイア様、貴方様は準王族なのです、いつ如何なるときにも警戒を怠らないでくださいませ。これが幼い頃でしたらここまで申しません。ですが貴方様は既に学園に通う年齢で準王族になられました。ですから先ずは公爵令嬢ではなく準王族だという事を肝に銘じて励んでくださいませ」
いつの間にか私の汗は止まってた。
こんなに暑いのに。
いつでも命を狙われてしまうそんな存在。
公爵令嬢の私は同じような事を父に言われた事がある。
まだ幼い時だった。
初めて護衛達と気晴らしに王都の街に買い物に出かける時には義母に言われた。
私は何もわかっていなかったように思う。
ストマイク夫人⋯凄い。
初日から死にそうなほど辛いけど私貴方に付いていきます!!




