不穏分子
★sideライアン
豪華絢爛な王城での夜会
今日は私の主君であるリスキャリー様の婚約発表の場だ。
勿論私も記念すべきデビュタントでもあるし最近婚約を結んだカーティー侯爵家のフィオナとの初のダンスを披露する場でもあるから、それなりに私も緊張はしている。
だけどそれ以上にリスキャリー様が心配だ。
私とリスキャリー様の出会いは6歳の時、王妃様主催のお茶会だった。
私の家はこのロッサルト王国で三公爵の一つであるサバイア公爵家だ。
だから事前にその場は次期王太子であるリスキャリー様の側近と婚約者候補を選ぶ場であると父上から言われていた。
止むに止まれぬ事情で時期が早まっているが、間違いなくお前は選ばれるから粗相のないようにと言い聞かされていた。
母上と一緒に王妃様とリスキャリー様に挨拶した時、王妃様が母上に目配せをした。
すると母上は周りにはわからないように軽く頷き、私はリスキャリー様の後ろに立たされた。
私のようにリスキャリー様の後ろに並ばされたのはもう二人いた。
ハシュティ侯爵家の双子だった。
令嬢の方は皆自分たちの席に着き始めるが令息は皆一旦王妃様の顔を伺っていた。
結局、全員の挨拶が終わった時に立てたのは3人だけだった。
すると私達はリスキャリー様に改めて紹介された。
リスキャリー様はこの国では珍しい陛下と同じ黒髪、サファイアブルーの瞳は子供ながらに綺麗だ!と思った。
ただ少し目が鋭かったからちょっとだけ怖いなぁと思ったけれど、挨拶のあととても親しみやすい笑顔で対応してくれて嬉しかったのを覚えている。
その場で3人は側近に決定したと王妃様に言われたけれどおそらく事前に決まっていたのだろうと今ならわかる。
王妃様に指示されたのは今から王家の護衛が案内する場所で楽しく会話をしてくるようにとの事だった。
楽しくとは?
よくわからなかったけれど話せばいいんだなと思ったが、最初に案内された場所で私は不覚にも固まってしまった。
その場所は既に人だかりが凄かったからだ。
私の後ろから双子のどっちかが(今思うとルーカスだと思う)アシュリー公爵家のエルファイア様だと教えてくれた。
それを聞いてもう一人が公爵家に引き取られたタイオール伯爵家の息女だとわかった。
この二人の情報は前日わが家の執事兼私の家庭教師であるサバスから教えてもらっていたから頭の中で復唱した。
あの中に割って入るのが難しくて躊躇していたけれどリスキャリー様が双子のもう一人(今思うとサイゼルだと思う)に耳打ちをしてから、自ら声をかけて割り込んだ。
アシュリー公爵夫人が気を利かせてリスキャリー様を二人の間に座らせてくれたので私達は立って見守ることにした。
何故立ってたかというと他の席に座ってる者が譲ってくれなかったからだ。
その後、和やかに話していたら無礼な令嬢がリスキャリー様に話しかけてその場を離れる事になった。
その時双子が「あれがマリエーヌ嬢だ」と小声で教えてくれた。
その名前はサバスから要注意人物として教えられていた名前だった。
なるほどなぁと思っていたら事件が起きた。
あれには吃驚したけれど、護衛の素早さにも吃驚した。
皆が一斉にリスキャリー様を囲いこんだのだ。
そんなの初めて見たから目が点になった。
あとからの側近教育で如何にリスキャリー様の御身が尊いものなのかを、執拗いくらいに叩き込まれた。
だからかもしれないが我々側近は過保護が身に染み付いてしまっている。
リスキャリー様が少しでも不快な思いをしないようにとは気をつけているつもりだがどうしてもそれ以上に構っているみたいで時々溜息を吐かれることもある。
わかっているけどやめられない。
そのリスキャリー様が子供の頃からずっとエルファイア様の事を好きだと聞かされていた。
あのお茶会以前に見かけた事があって一目惚れしたそうだ。
そしてサイゼルに聞かされたのがあの耳打ちの真相。
照れて話すのが恥ずかしくて必要な情報を聞き出せないから、サイゼルにエルファイア様の好きな物とかを聞き出すように言ったらしい。
でもサイゼルも恥ずかしくて(そりゃそうだ初めて会うんだから)肝心なことは話せず役に立てなかった。
あの後直ぐに一回目の婚約の打診を断られて物凄く落ち込んでいた。
何回申し込んだのだろうか?
リスキャリー様は断られるとわかり易いほど落ち込むから、なんとなくわかる。
正確ではないだろうが優に20回は超えていると思う。
まさに粘り勝ちだと思ったら結局王命を出してもらったそうだ。
王太子妃教育を考えたら進捗にもよるがリスキャリー様の目指す20歳までの婚姻に間に合わないかもしれないと連日愚痴っていたから、陛下に泣きついたんだろう。
リスキャリー様曰く情けないけれど後で泣くよりマシだと思ったそうだ。
そんなに好きな相手とのお披露目だ。
緊張しているんじゃないか?
ダンスは大丈夫か?
また《《あの》》女が邪魔するんじゃないか?
心配は尽きない。
無事に終わる事を祈るしかないのだが⋯⋯。
マリエーヌの様子がおかしいのが気になる。