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10話

「早漏なのに、なかなか姉の情報は出しませんでした」



 ロリサキュバスは観念した顔で語る。

 女将は、目を閉じ、深く息を吐いた。



「……それで、結局、お姉さんのことはわかったのかい?」

「いいえ。下の口はゆるいくせに、上の口は固かったんです」



 女将は再び息を吐く。

 長い、長い呼気だった――ことの顛末を聞きたかっただけなのに耳に入ってきた、いらない男の性情報をはき出すような息だ。



「アンタ、わかってるのかい? ヒトの村で、魔族のアンタが、ヒトを殺す……この行為の意味が」

「ええ。でも、殺意はなかった……これは、本当です。姉のことを聞くために、脅しをかけただけでした。たった三発出しただけで死ぬとは思わなかったんです」

「……殺意の有無は問題にならないだろうねぇ。まったく……アンタがまさか、そんな決意を抱いてここに来てたなんてね」

「……女将さん、私をどうするんですか?」

「そりゃあ、アンタ、ヒトの世界でのルールに照らし合わせて――」



 その時だった。

 宿屋(ほぼ定食屋)のドアが勢いよく開き、何者かが現れる。


 女将とロリサキュバスが視線を向けた先にいたのは、



「短小さん!?」



 昨日、ロリサキュバスにより殺された青年であった。

 ヒトは生き返るものだが、これには女将もおどろく。



「アンタ、もう生き返ったのかい!? 蘇生できる連中は今ごろ、アンタの蘇生権利をめぐって殴り合いをしてるはずだろう? もう真夜中だっていうのに、さっきから肉で肉を叩く音が聞こえているじゃないか」



 わりとうるさい。

 しかし描写する雰囲気ではなかったので、ロリサキュバスも女将も無視していたのだ。



「実は、俺自身も蘇生を使えるんだ。しかも、あらかじめかけておくタイプの蘇生を」

「アンタ、そういうのは先に言わないと……蘇生できる連中に殺されるよ。連中、暇にあかせて改造した蘇生術を試したくてウズウズしてるんだから」

「それでもいい……でも、聞いてくれ! その子は、悪くないんだ! 悪いのは俺なんだ!」



 男は扉の前で膝から崩れ落ちた。

 そして、両手で顔を覆い、



「ただ、ロリサキュバスが来た時、恐くて村から追い出したかっただけで……俺、本当は、サキュバス大好きなんだよ!」



 熱い涙が、手のひらの隙間からこぼれ落ちる。

 その彼に向けて、ロリサキュバスが席から立ち、歩み寄った。



「短小さん……じゃあ、なぜ姉を殺したんですか!?」

「ち、違う、全力で膨張した時、俺のはきちんと大きいんだ……!」

「どうでもいい情報を私の耳に入れないで! 男はみんなそう! 膨張に夢を見すぎている!」



 そばで聞いていた女将は『アンタの言葉もどうでもいいよ』と言うのをこらえた。



「違う! だ、だって、俺の膨張率をきちんと認めてくれる相手がいる!」

「嘘よ!」

「本当だ! し、しかも、しかも……その相手は、君の姉なんだよ!」



 その言葉には、さすがに、ロリサキュバスも言葉を失った。

 どういう意味だか、咄嗟に理解ができない。


 だから、じっくり沈黙し、時間をかけて、その言葉を飲み込んで……



「……どういう、ことなの? まさか、お姉ちゃんは、生きて……?」

「彼女は……君の姉は、今、俺の家で、俺だけのメイドさんをやってもらっている」

「……そんな! サキュバスはメイド服なんか着れない! 着たら死ぬもの!」

「着ることができるんだよ! ロングスカートのメイド服を!」

「嘘!」

「嘘じゃない! お、俺も最初は、死ぬだろうって思ってたさ……! でも、君の姉は、見事にロングスカートをはきこなしたんだ!」

「命懸けでしょう!? 死ぬたびに蘇生して使ってるんでしょう!?」

「違う! そんなに蘇生はしてない! か、彼女は……創り上げたんだ! サキュバスでも着ることのできる、ロングスカートのメイド服を!」

「どうやって!?」

「スカート部分はロングのままに、上半身の布を大胆に減らして乳首以外をさらし、手首にカフス、頭にヘッドドレスだけをつけることで、メイドでありつつ露出度を維持したんだよ!」

「……」

「邪道だと思ったさ! 清楚系メイドが好きな俺には、絶対刺さらないと思ったよ! で、でも……すごく、いいんだ」

「……」

「その服装を見た時、思わず口走ってしまったんだよ。『結婚して』って……」

「……」

「でも、そのあとすぐ、俺は勇者パーティーを追放されて……休息地にサキュバスなんか連れ込んでるってバレたら、きっと、君の姉は追い出されるし、俺もどうなるかわからない……だから隠して、ずっと家で俺だけのえっちなメイドさんをやってもらってて……」

「……」

「恐かったんだよ! 俺の性癖がバレるのが! 君の入村を反対したのだって、サキュバス同士の感応能力みたいなので、俺の家にサキュバスがいることがバレたらやだなって思って……」

「どうして、私に脅されても、姉のことを話さなかったの……?」

「気持ちよすぎて言葉が出なかったんだ……」

「……」

「ロリサキュバスに責められるのは初めての経験で……俺は自分のことSだと思ってたけど、君にMの扉を開かされて、それで……話そうと思ってたんだ! でも、快感に耐えるのに精一杯で、耐えきれなくって、死んでしまったんだ……!」



 この会話のあいだ、女将は耳を両手でふさいでいる。



「……お姉ちゃんは、無事なの?」

「毎日きちんと精を注いでるよ。三回で君にノックアウトされたのは、あれはそう、なんていうか……精が全回復していなかったからで、きちんと一日溜めればもっと……」

「会わせて」

「……でも……」

「お姉ちゃんに、会わせて、この早漏」



 ロリサキュバスの白い黒目には、ゆるがぬ意思が宿っていた。

 青年は、ガックリと肩を落とす。



「……わかったよ。……君たちは、どうするんだい? 再会した君たち姉妹は、ひょっとしてこの村を出て行くのかい?」

「わからない。全部、お姉ちゃん次第よ。……あなたがお姉ちゃんにひどいことしてたら、私、お姉ちゃんを連れて出て行くから」

「ひどいことなんかしてない! ちょっと外に出さないで監禁してるけど、それは村のみんなに見つからないためで……あっ、あと家事とかもきちんとたまに手伝ってるし……」

「全部お姉ちゃんに聞くわ。その代わり、お姉ちゃんがあなたといることに文句がなかったら……」

「……」

「あなたのこと、『お兄ちゃん』って呼ぶから」

「ウ”ッ」



 青年はビクビクと痙攣した。

 女将は耳をふさいでいた手をスライドさせて、今度は目をふさいだ。

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