暴走列車 清水ユリ 第2部 17
「…前は、今のようじゃなかったって…」
アタシは、山田の言葉を繰り返した…
山田は、
「…今にわかるよ…」
と、だけ、言った…
「…今にわかる?…」
「…そういうこと…」
アタシは、それ以上、聞いても、この山田は、なにも、言わないと思った…
それゆえ、山田を、置いて、教室を目指した…
まっすぐに、自分の所属する教室を目指した…
教室に戻って、自分の席に着いた…
相変わらず、活気がなかった…
まるで、お通夜のように、活気が、なかった…
…以前は、こうじゃ、なかった…
と、山田が、言ったが、だったら、一体、なにが、あったんだろう?
謎が、残った…
きっと、みんなのやる気をなくす、なにかが、あったはずだ…
一刻も早く、それを、知りたかったが、別に、急がずとも、良いと思った…
山田が言うように、どうせ、まもなく、わかることだからだ…
だから、どうでも、よかった…
午後の授業が、始まった…
授業を教えるのは、相変わらず、あの村井だった…
ホント、信じられないことだった…
一人の教師が、いくつもの教科を教える…
まるで、小学校だ…
ありえないことだった…
そもそも、そんなことが、できるのか?
文部科学省の許可を取っているのか?
教師の免許を持っているのか?
それが、疑問だった…
普通、教師の持つ、教員免許は、一つ…
一つだけ…
社会なら、社会だけ…
国語なら、国語だけだ…
そもそも、自分の担当以外の教科は、高校にでも、なれば、難しくなり、教えることが、できない…
にも、かかわらず、教えている…
この学校では、教えている…
…ふーむ…
…謎がある…
…金田一では、ないが、謎がある…
…そもそも、国の許可を得ているのか?…
それが、怪しい…
実に、怪しい…
が、
現状を見る限り、問題はない…
まったく、問題は、ない…
ノープロブレム…
問題は、ない…
なぜなら、誰も、聞いてないからだ…
生徒が、誰も、授業を熱心に、聞いていないからだ…
大半が、スマホをいじっているか、寝ているかだ…
しかも、それを、村井は、注意をしない…
まったく、注意をしない…
もちろん、一部には、熱心に、村井の講義を聞いているものも、いるが、それは、ほんのひと握り…
一握りの人間だけだ…
大半は、今も言ったように、寝ているか、スマホをいじっているか?
その二者択一だ…
なんというか…
言葉にならない光景だった…
アタシも、頭が、悪く、勉強ができる方ではない…
しかしながら、この光景は、異常…
なにより、この光景を見るのが、辛かった…
が、
同時に、気付いたのは、アタシ自身、遠からず、この光景に馴染むだろうという事実だった…
元々、アタシは、勉強が嫌い…
勉強ができないから、嫌い…
嫌いだから、余計に、勉強をしなくなる…
その悪循環だ…
これが、勉強ができるひとは、真逆…
勉強が、できるから、周囲から、褒められる…
褒められるから、嬉しくて、余計に、勉強をする…
それゆえ、いつも、勉強ができる…
この好循環だ…
これは、勉強に限らず、スポーツも同じ…
野球でも、サッカーでも、水泳でも、できるから、周囲から、褒められる…
褒められるから、嬉しくて、もっと、頑張る…
それゆえ、うまくなる…
だから、余計に、褒められる…
それが、嬉しくて、今以上に、頑張って、うまくなる…
その繰り返し…
その繰り返しの好循環だ…
アタシは、思った…
アタシは、考えた…
そして、考えたのは、親に悪いということだった…
父にすまないと、言うことだった…
アタシ自身、この学校に、入って、初めて、知ったが、この学校に入るには、高額の寄付金が、必要だった…
百万を超える大金が、必要だった…
その大金を、父は、用意した…
アタシのために、支払った…
それを、考えると、辛かった…
アタシが、このまま、なにもせずに、のんべんだらりと、過ごして、いいのか、悩んだ…
もちろん、アタシは、勉強ができない…
勉強が、嫌いだ…
しかしながら、父のことを、考えると、辛かった…
このまま、周囲の生徒のように、授業中にもかかわらず、寝ているか、スマホをいじっているのか、二択を続ける生活をしていいのか?
それが、わからなかった…
実は、そうは、いいながらも、アタシも、このクラスの生徒たちと、同じ…
前の学校では、同じだった…
授業中は、寝ているか、スマホをいじっているかの、どっちか…
勉強なんて、全然しない…
授業なんて、全然、聞いてなかった…
見ても、いなかった…
しかし、今は、違う…
前の高校とは、全然、違う…
なにが、違うかと、言えば、金を出している…
百万を超える大金を、この学校に、寄付している…
それが、違う…
全然、違う…
要は、お金を出しているのに、こんな態度でいいのか、ということ…
前の学校と同じように、のんべんだらりと、毎日を過ごしていいのか、ということだ…
だが、勉強は、難しい…
アタシには、難しい…
マンガではないのだから、これから、アタシが、別人のように、猛勉強をすれば、東大に入れるわけがない…
京大に入れるわけがないからだ…
だから、難しい…
これから、この学校で、どうやって、過ごせば、いいのか、難しい…
実に、難しい…
それが、難問だった…
解けない難問だった…
結局、授業中は、ぼんやりと、ずっと、そんなことを、考えていた…
そんなことを、考え続けていた…
が、
それと、同時に、気付いたことが、ある…
それは、なにか?
それは、父が、警察官と、知り合いだということだ…
今朝、アタシが、この担任と同じ苗字の村井に、電車の中で、乳を揉まれて、それを、訴えた…
その結果、あの村井は、駅員室に連れて、行かれ、警官がやって来た…
そして、その警官が、アタシの父を知っていた…
アタシの父が、警察に、定期的にやって来ると、言っていた…
警察のある機器の納入業者として、やって来ると、言っていた…
これは、初耳だった…
アタシは、父が、会社で、どんな仕事をしているのか、知らない…
高校生にも、なっているにも、かかわらず、知らない…
いや、
いくら、高校生になっても、自分の父親が、どんな仕事をしているのか?
具体的な仕事の内容を知っているものは、いないだろう…
誰も、いないだろう…
せいぜい、知っているのは、会社での地位や肩書…
課長だったり、部長だったりする肩書だ…
それすら、家族に言わないものも、いる…
それは、なぜか?
それは、家庭に会社の話を持ち込まないからだ…
だから、家で、会社の話を一切しない…
だから、わからない…
父が、どんな会社に勤めているか、会社の名前は、わかるが、その会社で、父が、どんな肩書で、どんな仕事をしているのか、わからない…
さっぱり、わからない…
それは、アタシも、同じ…
同じだ…
父が、警察に出入りしているなんて、初めて、聞いた…
そして、それを、考えると、もうひとつ、謎が、浮かんだ…
父と母の出会いだ…
父と母の出会いのきっかけだ…
父と母は、性格が、真逆…
いや、
性格ではない…
学歴が、真逆なのだ…
父は、何度も言うように、東大卒…
母は、高卒…
高卒出のヤンキーだ…
それが、結婚して、夫婦になったのも、驚きだが、そもそも、どこで、知り合ったか、家族に、一度も言っていない…
母は、父にべた惚れ…
家の中でも、のろけ話が、しょっちゅうだ…
にもかかわらず、出会いの経緯を一度も、アタシや弟のユキオに話したことがない…
いつも、のろけ話をしている母が、どこで、父と出会ったのか?
肝心の出会いの場所を話したことがない…
これは、怪しい…
実に、怪しい…
普通、普段、娘のアタシや、息子のユキオの前で、あんなのろけ話をするなら、どこで、父と出会ったのか?
普通、話をするはずだ…
それが、ないのが、怪しい…
実に、怪しい…
なにより、普通なら、二人が出会う機会がない…
それは、住む世界が、違うからだ…
仮に、同じ会社に勤めていても、接点は、ないだろう…
父は、東大出のエリート…
母は、高卒出のヤンキー上がり…
例え、同じ職場で、働いていても、会話も、しないだろう…
そもそも、頭が違うのだから、話が、合わない…
当たり前だ…
頭が違うのだから、互いに、興味のあることが、違う…
日本の最高学府である、東大出の父と、偏差値40そこそこの高校出の母とでは、話が合うわけは、ない…
当たり前だった…
しかしながら、それが、結婚した…
どういう経緯か、知らないが、知り合って、結婚した…
それが、謎…
実に、謎だった…
<続く>




