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巡り求めて  作者: みおま ウス
50/164

50 探索の旅(王国編-16)

 一同は薬を携え鮫兄の元へと戻って来た。

 太刀魚弟が鮫兄の看病をしていたが、相変わらず鮫兄の容態は良くなかった。


『兄さんお待たせ。ちょっと苦しいかもしれないけど、体起こさせてもらうね』


 鮎姉が弟と協力して鮫兄の上半身を寝床から起こす。


『さあ、このお薬飲んでみてね』


 苦しそうにしながらも抵抗も無く服薬した鮫兄は、そのまま静かに横になった。


『さあ、薬が胃に留まる時間がどれだけあるか。暫く様子を見よう』


 聡慈が言うと、姉弟は、『じゃあその間寛いでいてほしい』と言い、聡慈たちを別室で休ませた。


 その日一日中姉弟は鮫兄に付きっきりで、聡慈たちは時折様子を見に行くだけだったが、様子を見に行く毎に鮫兄の顔色は良くなっていた。






 念のため約六時間おきに計三度薬を飲ませ、翌日。

 鮫兄は一人で立ち上がれるぐらいに体調を回復させていた。


『兄さん、こちらがお薬を作ってくれた野人種の方よ』


 鮎姉が恭しい仕草で鮫兄を聡慈たちに紹介した。


『おお、あなたが……』


 鮫兄は感激した様子で言葉を詰まらせる。


『起きても平気かな? 虫を駆逐しきれたか心配だったんだが』


 聡慈は自分の腹をさすって、腹の中はどうかと尋ねた。


『おお! あのような虫がこの体内に居たのかと思うと何と悍しい』


 鮫兄は身震いして振り返る。


『この腹で虫がのたうち回るのが分かりました。ああ忌々しい、断末魔の如く最後にひと暴れされた時の苦しさと言ったらなかったですよ。その後上からも下からもその虫が出て来まして……全く気色の悪い思いをいたしました』

『ごめんなさい。兄さんったら、野人種の賢者に挨拶すると言ったら興奮しちゃって。普段はこんなにおしゃべりじゃないのよ』


 鮎姉が肩を竦めて言う。


『おいおい、興奮するなって方が無理だろう。これで今後同じ症状が出る者がいても助かるんだ。この人は賢者であり我々にとっての救いの主じゃないか』


 鮫兄はそう笑って聡慈に握手を求めて来た。


『いや賢者などと、私にはとてもじゃないが荷が重いよ』


 謙遜だとは思わない。

 ミルドラモンの姿を浮かべれば自分などは到底足元にも及ばないと、聡慈は心から思っている。


 それよりも、だ。


『ところで原因となったあの水漏れの箇所だが。何か処置をしておかねばならないだろう』


 祠の部屋にあった亀裂を塞ぐのか、中を広げて寄生虫の発生源に何があるのか特定するのか。

 ここを去る前にそのことに言及しておかねばと思い聡慈は口にした。


『そうですな! 賢者殿のおっしゃる通り、あの虫が出る場所など放置できません』


 鮫兄は一も二もなく同意して、早速その部屋へと向かう。


 聡慈たちも早足の彼の後について行った。






 鮫兄の処置は早かった。

 彼が黒い魔力を出すと部屋が僅かに涼しくなった。

 亀裂の中を凍らせたらしい。



 魔大陸での記憶が蘇る。

 魔力を手足のように使い敵を押さえつけた鬼、風を操った鳥人間。


 聡慈は久々に、魔人種が魔法陣も用いず魔力を使って、その固有の能力を発現させるところを見たが、動揺はしなかった。

 魔大陸のことがそれだけ過去の出来事になったと言うことなのだろう。



 鮫兄は亀裂の辺りを凍らせたまま、妹と弟に指示をして補修の道具を用意させた。

 粘土や石灰石を水で混ぜた物、セメントである。


 それを手早く亀裂に塗り込み再び凍らせ、あっと言う間に補修は完了した。






『野人種の賢者よ、本当にありがとうございました。もしあなたの言う銀の髪の少女と会えたなら我々で丁重に保護をすると誓いましょう。それと船に関してですが』


 問題が解決し、“水辺の人”の住処から出て行こうとする聡慈たちの両手を包むように握って、鮫兄たちは感謝を示した。


 聡慈はエウリアのことを彼らに話し保護を要請し、併せて船着場への道を尋ねた。


 鮫兄たちはエウリアの保護を誓った。

 そして船着場に行くならば歩くよりも別の手段が良いと言った。


『我々の友人に近くの人里まで運んでもらえば良いでしょう』


 鮫兄は泳ぎの達者な友人がいると言った。

 その友人は背に人を何人も乗せて泳げるらしい。


 聡慈たちは『案内する』と言う鮫兄たちについて外へ出た。






(絶対“賢者”って言ってた! あいつら絶対言ってたよね! 分かってるじゃん“水辺の人”!)


 ライオホークは一人浮かれていた。

 まだほとんど分からない魔言語であるが、“水辺の人”が聡慈に感謝し讃えていることは分かった。

 聡慈は自分の褒められていることまでは恥ずかしがって通訳してくれない。

 だがライオホークは聡慈が称賛されていることこそ知りたいのだ。

 だから彼は“水辺の人”が聡慈を称賛していそうな時に特に集中力を高めた。


 その結果、“水辺の人”が聡慈に対して“賢者”と言っているのが分かったのである。

 ライオホークは無性に嬉しくなった。


(やっぱりソージ先生が解決してくれた!)


 敬慕し、憧憬さえ覚える師は今回も人を助けてみせた。

 師は褒められても困ったような顔をするばかりだが、ライオホークはもっと師は周囲に称賛されても良いと思っている。


 今回“水辺の人”が用いた“賢者”と言う称号は正に師にピッタリだ。

 ライオホークは気分が良くなり、知らない内に笑顔になり体も勝手に動いている。

 ニヤニヤしながらシャドーボクシングをするライオホーク。

 彼はアスクレスたちから怪訝な目で見られていることには気がつかず、師の背中を見て後をついて行くのであった。






「どうかしたかね、アスクレスさん? 顔色が優れないようだが」


 “水辺の人”に案内を受けて歩く道中、聡慈は尋ねた。

 アスクレスの表情が曇っていたからだ。


「いえ……何でもありません。少し考えごとをしていただけで……」


 見間違いではなく、アスクレスは上の空になったり、難しい顔をしたりと表情をコロコロ変えている。

 それに全く晴れやかな表情が無いのが気になる。


「そうか。悩みがあるなら話してみないかね。ほら、もし恥ずかしいことで普通なら言いたくないことでも、旅の途中でたまたま会っただけの私たちに話すだけなら、それほど気にならないだろう?」


 すれ違って行く程度の人に悩みを打ち明けてスッキリするなら、安上がりじゃないかね、と聡慈は冗談めかして言った。


「すれ違って行く人、ですか」


 アスクレスは心ここに在らず、といった様子で呟く。


(ん? 気に障る言い方だったかな? 船の上で最初に顔を合わせた時は、それほど出会いを大事にするように見えなかったがなぁ)


 聡慈は首を傾げた。


「あ、分かった! アスクレスさん俺たちと別れるのが寂しくなっちゃったんだろ?」


 ライオホークが思いついたように言って、アスクレスを揶揄うように指で突く。


「別れる……このまま探してこれ以上の人が?」

「おーい、アスクレスさーん?」


 ブツブツ呟くアスクレスの顔の前でライオホークが手を振るが、それすらも気づいていない。


「ダメだこりゃ。ホントに寂しかったんでしょうか」


 ライオホークは聡慈の顔を仰ぎ見る。


 聡慈は微苦笑して首を傾げるしかなかった。






『さて、着きました。では友人を呼びますが、近くの大船が停泊している所まで連れて行ってくれ、と伝えればいいのですよね?』






 周りと特に変わった所の無い川辺だが、ここが“水辺の人”の友人が居る場所らしい。

 聡慈は返事をする前に、一応アスクレスとライオホークに向かって今の言葉を訳し伝えた。



「すいません! お願いがあります!」


 聡慈が鮫兄の言葉を伝え終え返事をしようかとした矢先、突然アスクレスが地面に膝を突き頭を下げた。


 「うわ! どうしたんだね? アスクレスさん……」

「どうか、僕たちの領土に来て、領主様を助けていただけないでしょうか!?」

「え……?」


 一体何の話を始めるのだろうか。

 真剣なアスクレスの表情を見て、聡慈は幾分警戒するような気持ちになっていた。

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