49 探索の旅(王国編-15)
寄生虫が鳥を媒介して祠に侵入、それが鮫兄の体内に入ったのではないかと推測した聡慈は、その考えを姉弟、ライオホーク、アスクレスに伝えた。
「さすがソージ先生!」
『え〜、鳥は良くて私たちはダメなの?』
ライオホークは聡慈を称賛し、姉弟は納得し難い様子だ。
「なるほど! それで、次はどうやって寄生虫の存在を明らかにするんですか?」
アスクレスは手を打って感心している。
「ええと、それを考えてもらおうと思って推測を伝えたんだが……」
聡慈は困り顔で頭を掻いた。
周りは期待したような目で彼を見ている。
彼は苦笑して考え始めた。
聡慈は慎重に摘んだ鳥の羽根を真水に浸した。
明かりの下で観察すると、器の中で埃がキラキラと沈殿していくのが見える。
埃が底に沈み切った後、まだ水の中で動いているものがあった。
体長僅か五ミリメートル程度の黄色い虫である。
「ソージ先生、これが寄生虫ですね!?」
『うええ、これが兄さんのお腹に?』
ライオホークは興味深そうに器に顔を近づけ、姉弟は嫌悪感露わに器から顔を離した。
『まだこれがお兄さんを苦しめている寄生虫かどうかは分からない。他にも同じ要領で確認できないか試してみよう』
部屋に溜まった泥水、修繕前の祠の破片等々、聡慈の提案に従い、採集は行われた。
また、鮫兄の吐瀉物も採集の途中で手に入った。
調査の結果鮫兄の吐瀉物から緑色の小さな虫が発見され、同様の虫は泥水から発見された。
泥水は鳥の羽根が落ちていた水溜りであるが、その水溜りを作っていたのは、壁の亀裂から染み出した水である。
そして、最終的には染み出した水そのものに虫が潜んでいることが判明した。
「吐瀉物が無かったら、鳥の羽根に付いていた虫を原因だと誤って判断したかもしれないな」
聡慈が安堵したような苦々しいような、複雑な表情を浮かべる。
もちろん誰も聡慈を責めたりはしない。
それよりも体調不良の原因となる寄生虫と思われる虫を発見したことの功績が大きいのだ。
『これで原因は分かったのよね? で、これからどうすればいいのかしら』
鮎姉は期待を大きくしている。
「アスクレスさんどうだい? 何かいい方法はあるかな?」
そろそろ本職の医師の出番かと聡慈は尋ねた。
「え、あの、僕はですね……あ、そうだ! もし切開が必要ならやりますよ!」
ハッと思いついたようにアスクレスは胸を叩いた。
「なるほど、外科的に取り出す……ならアスクレスさんには行き詰まった時の最終手段で手術の準備をしておいてもらおうかな」
聡慈が真面目に答えるのにアスクレスは顔を引きつらせて笑う。
本当に腹を切ることになったらどうしよう、そう心配になるのだった。
ポンポンとライオホークがアスクレスの尻を叩いた。
ライオホークの嫌らしい笑みとアスクレスの引きつった笑みがぶつかり、二人の間にバチっと火花が散っていた。
本当は時間をかけて虫を観察せねばならないのだろうが、鮫兄の調子は芳しくない。
早期に寄生虫を駆除する方法を考えていく。
「魔法で何とかならないの?」
ライオホークがアスクレスに尋ねる。
「う〜ん、回復魔法は患者の体を修復するのには役立つだろうね。ただ今回は回復魔法が寄生虫にどんな影響を及ぼすか。もしも寄生虫が成長して患者の臓器を食い破ったりしたら大変だろ。安易には魔法を使えないよ」
「へえ〜、そうなんだ」
難しいんだね、とライオホークは言った。
しかしそんな言葉と裏腹に、彼は気楽とも見えるリラックスした態度を取っていた。
(“水辺の人”はツイテるよ。ソージ先生と会えたんだからさ)
ライオホークの中では問題は解決されたも同然だった。
彼が絶対的な信頼を置く師匠、聡慈がここにいるからである。
聡慈が本気でことに当たれば、解決できない問題は存在しない。
彼は本気で思っているのだった。
(体内のどこにどれだけ潜んでいるのか分からないのだ。外科的手段は現実的ではないな。やはり服薬になるか)
聡慈は今まで幾度も自分を助けてくれた薬草の調合に活路を見出そうと考えた。
「ちょっと外を見に行くよ」
まずは植物等の採取からだ。
彼は“水辺の人”の住処から地表へと移動し、周辺の植物を見に行った。
アスクレスも多少薬草の採取に関して心得があったようだ。
彼とライオホークの助力を得て、聡慈の手元には早くもそれなりの材料が集まった。
「さて、では人体への悪影響を極力抑えて、寄生虫を駆逐する薬を見つけるとするか」
「はい!」
聡慈が採取した物をどかっと置くと、ライオホークは目を輝かせ道具を用意し、手際良く採取した物を並べ始めた。
聡慈が問題を解決する過程もライオホークにとっては見逃せない。
彼の熱のこもった眼差しは聡慈も気づいており、聡慈はライオホークが自分の言いつけ通りに勉強熱心なのだと感心している。
実際にライオホークには聡慈から学ぼうという熱意は強い。
しかし彼の熱い眼差しの出所は、聡慈の行動を英雄物語を見ているように感じる心情に在るのである。
聡慈の経験と知識により数種類の薬を調合した。
次はそれらの薬を、鮫兄を苦しめているであろう虫に投与し効能を確かめる実験だ。
小分けされた容器内の水に該当の虫を数匹ずつ浮かべる。
それらの容器ごとに異なる種類の薬を投与した。
「この二つが良さそうだな」
聡慈が指したのは、一つは虫の方から積極的に食べに来た薬。
もう一つは虫自体は関心を示さなかったが、薬を水に溶かしてから虫が死ぬ時間が最も短かった薬だ。
「この二つを患者さんに上げるんですね!」
「リオ待て。まだ準備は整っていない」
「え?」
聡慈は選ばれた薬を持って行こうとしたライオホークを呼び止めた。
「二つの薬をそのまま粉末で投与するのと、もう一つの方法で投与したいんだ」
聡慈は薬を胃で溶けても良い物と、腸まで届く物とを用意したいと考えていた。
そのために二つの薬を粉末のまま飲ませて良い物と、胃で溶けないようにコーティングする物とで分けようと提案した。
「と、いうことで何か、薬を包むのに適当な物があるなら教えてほしい」
聡慈が一同の顔を見る。
ライオホークは目を輝かせているだけだ。
アスクレスは申し訳無さそうに頭を下げた。
『要は消化に悪くて粉を包めるような物ならいいのね』
鮎姉は何か心当たりがあるようだ。
『そうだな。そのまま用便の際に出て来てしまっては困るが、程良くできそうか?』
『ま、厚みを調節すれば何とかなるんじゃないかしら』
鮎姉はそう言い弟を連れて場を離れた。
聡慈たちは薬草を調合しながらその場で待つことにした。
『お待たせ。これ、“川浚い”って魚の皮を叩いた物なんだけど、これに薬を入れて小さく丸めてみたらどうかな、って思うの』
鮎姉たちが持って来たのは、生臭いペースト状の物だった。
『これが胃で溶けにくい物?』
『そう。こいつの皮を食べちゃうと暫くお腹がゴロゴロと変な感じになるの。そのままの皮だと厚いしツルツルだから叩いて来たわ』
そう聞いた聡慈は、鮎姉が持って来た物を使うことにした。
しかしペースト状のまま薬を包もうとすると嵩が増して飲み込みにくそうだ。
一旦乾燥させることにした。
乾燥を待ち、餃子の皮のようになった魚の皮に薬を包む。
「できたんですね、ソージ先生!」
大豆程の大きさに丸めた皮包みの薬を見て、ライオホークは身を乗り出してきた。
「そうだ。後は効果が現れることを祈って患者に服薬してもらうだけだな」
ライオホークがガッツポーズしかけるのを止めさせ、聡慈は表情を緩めず言った。
(もし血管に潜ったり脳に行くような寄生虫であった場合は……)
寄生虫が胃腸以外に行っていることを恐れ、聡慈は安易に喜べずにいた。




