17 勇者様は養女
「それ、何て書いてあるだ?」
紙切れを見せられても白の賢者には分からない。巫女にも読めなかった。
「育てて下さい、女の子ですって書いてるね多分」
「おお!さすがリューヤ。読めるのか」
「全部じゃないけど、分かる所があるから」
赤ん坊が凍えてはいけないと場所を室内に移した。
焚き火を囲むように三人が座っている。白熊が抱いた赤ん坊をペンギンが覗いていた。
「捨て子じゃ戻しても、安全か分からんなぁ」
白の賢者がため息をつく。
施設のような所に置かれていたのなら良いが、ここと同じく寒空の下なら命の危険がある。
「この辺りには我と賢者ぐらいしか居らんし、町まで赤子を連れて行くのも危険だ」
「大分遠いからね。道中に魔物も出るし」
三人で知恵を絞るも、中々良い案は浮かばない。
「いっそヨルンと勇者様の子として育てるってのはどうだ?」
「なっ、何を言っているー!?」
ごすっと、賢者の顔に拳がめり込んだ。
「せめてビンタにしておこうよ」
「いや、止めろよな」
顔をさすりながら賢者はヨルンに恨めし気な視線を送る。
「馬鹿な事を!我は巫女の役目が、リューヤには勇者の使命がある!赤子など育てられるか!」
「顔赤ぇぞ」
「うるさい!リューヤも我と同じ意見であろう!」
とは言いつつも、ヨルンの目には少しばかり期待が込められていた。
「そうだね、ヨルンの言う通りだ。僕に子供を育てる資格は無い」
「へ?」
「僕は未熟だ。勇者としても、人間としても。この子の命と将来を預かる覚悟も無い」
「そんな真面目に返されっと困るんだけど」
二人をからかってやろうという魂胆だったが、勇者は真っ直ぐ過ぎた。
「ふ、ふふ、そうだ。やはり全ては我の責任。勇者に重荷を負わせるなど間違っている」
「おーい、落ち込むんじゃねぇ」
こちらはこちらで一方通行、猪突猛進の巫女。
ヨルンは土間に膝をついて俯き、ぶつぶつと呟きながら土に爪を立てていた。
「だからさ、見守ろうと思う」
白の賢者を見つめたリューヤの目は真剣だった。
「この子が大きくなって、自分の事や世界の事が分かるようになるまで」
「あー、どった意味だ?」
「どうしてここに来たのか、理解出来るようになってから決めようと思う」
雲行きが変わったのを察したヨルンも顔を上げる。
「それまでに僕は一人前になる。親子になってもいいって、この子が言ってくれるなら」
巫女に微笑む勇者の顔は、少年から大人へと変わろうとしていた。
「何だ、同じでねぇか」
呆れる賢者とは対照的に、巫女の表情は明るさを取り戻した。
が、先程の事もあるのでおずおずと少年に近付く。
「それは、リューヤが我に愛想をつかしたのではないと思っていいのだな?」
「え?大好きに決まってるじゃない」
パーン!と、リューヤは初めての平手打ちを受けた。
受けた方も、叩いた方も顔が赤くなっていたのは言うまでもない。