エピローグ 朱印
駅前の商店街を抜けた先、古い雑居ビルの二階。看板は、相変わらず小さい。
噂は、いつからか、静かに広まっていた。
すべてを終えた者は皆、あの事務所の机の上で、赤い「済」の判を見ている。押した男は、礼を受け取らない。名を売ることもしない。それでも、困っている者たちの間でだけ、いつしか言葉になっていた。
――あの判を見るまでは、まだ終わりじゃない。
誰が言い出したのかは、分からない。黒瀬零司の「零」を取って、その男をゼロと呼ぶ者がいた。取りすぎを、一円残らずゼロにして帰すからだ、と言う者もいた。本人は、その呼び名を、一度も名乗ったことがない。
◆
夕方、階段を上ってくる足音がした。
黒瀬は、机の書類から顔を上げなかった。机の上には、朱肉と、「済」の印。そして、まだ判の押されていない、一枚の古い紙が、そのままになっている。
ドアが開いた。
「あの……税金のことで、相談したいんですが」
黒瀬は、顔を上げた。
「どうぞ」
完
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・企業・地名・事件は、実在のものとは一切関係ありません。作中の制度・業務の描写には、物語上の創作が含まれます。
作中の税法・制度に関する記述は、個別の税務・法律・社会保険の相談に代わるものではありません。実際の手続きについては、最新の法令をご確認のうえ、専門家または関係機関へご相談ください。
本作は、脱税その他の違法行為を推奨・助長するものではありません。
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