奇妙な現象2
「——そうだ。三階から茂みの中や土の上に落ちたのであれば、もしかしたら助かっているかもしれないんだ」
助かっているかもしれないのであればと、急いでポケットの中のスマートフォンへと手を伸ばす。
「救急車を呼ばなくちゃ……」
そう思い、手に取ったスマートフォンを操作しようとするが、手が震えてしまってパスを解除することすら出来ない。
「とまれ……、とまれって……もう!」
必死に指をテンキーに合わせようとするが、どうしても目的の数字からそれは大きく外れてしまう。何度も入力に失敗し、市岡は苛立ちから端末を投げ捨てた。
通報をすることも叶わず、足も微動だにしない。市岡は自分の情けなさに打ちひしがれて俯き、ただ涙を流すことしか出来なかった。
「誰か来てください……」
結局、彼は項垂れたままその場に座り込んだ。ちょうどそこに、先ほど別れたばかりの新人教師の声が聞こえてきた。
「市岡先生ー!」
「——才見先生?」
市岡の声を聞きつけて、才見が慌てた様子で校庭を突っ切り、寮棟の方へと走って来る様子が見えて来た。
若い彼は、驚くほどの速さで校庭と寮棟を仕切っている生垣の間を通り抜けると、第三寮と第二寮の間の通路へと入って来る。
「市岡先生! どうされましたか? どちらにいらっしゃいますか!」
どうやら、へたり込んでしまった市岡は、才見には見つけにくいらしい。声はするのに姿の見えない市岡を探して、敷地の隅々まで視線を巡らせながら走っていた。市岡はそんな才見を見て、ヒーローが現れたような気がした。
自分に出来ないことを、彼はきっとやり遂げてくれるだろう。そう思うと、力が湧く。座り込んだまま彼に向かって大きく手を振り、少しでも早く見つけてもらおうと大きく手を振り上げた。
「さ、才見先生! こっち! こっちです! 階段室の入り口のドアのところです!」
市岡が涙で顔を濡らしたまま才見に向かって大きく手を振っているのを見て、彼は何か問題が起きたのだろうと気がついたようだ。即座に表情を引き締めると、さらにスピードを上げて市岡の元へと急ぐ。




