1.プロローグ
ある日、世界のどこかで、小さな穴がうがたれた。
とある小さな穴からは、醜い子鬼が這い出した。
子鬼は人の皮を被って街に溶け込み、そこに住む人々を喰らいつくしてしまった。
とある小さな穴からは、見目麗しい妖精が産み落とされた。
妖精は枯れてしまった森を青々と蘇らせたが、不思議とその森に迷い込んだ生物は帰ってこなかった。
とある小さな穴からは、自律して這いずる液体が一滴したたった。
それは雨に溶け海へと流れ込んだ後、意志を持つ大海嘯となって島を一つ水底に沈めた。
怪異、幻想、おとぎ話の原型となった、異形の生物たち。彼らの通り道である小さな穴―――後に『断界』と呼ばれる空間の亀裂は、知る者いわく、はるか昔から世界中に点在していたのだという。
ここで言う知る者とは、魔術師であったり、教会であったり、あるいは秘密結社のような、人知れず断界の修復を担ってきた胡散臭い連中のことだ。……なに、言葉が強い? 世に出た時の軋轢?
知ったことか。こっちは忙しいのに、馬鹿向けの教本なんて作らされてムカついてるんだ、リテイクなんて絶対にしないからな。……あイタっ、天才的ブレインにゲンコツとはなんたる暴挙。私が馬鹿になって、人造世界計画が頓挫したらキミのせいだからな。
………………………………。
…………………………。
………………。
……まぁいいや、なんだっけ。
あぁ、人知れず断界に対処していた連中がいたって話だ。
そう、人知れず。あくまでも秘密裏に。
神秘を神秘として維持すべく、当時の連中が涙ぐましい努力をしていたのは想像に難くない。それは最終的には無意味な努力であったし、個人の見解を述べてよいなら悪手ですら……いや、現在の科学技術の発展と、停滞を考慮すれば全くの無意味でもないのだが。とにかく彼らの行動によって、普遍的人々から神秘が遠ざけられたのは事実だ。
故に当時の人々にとって、子鬼などオカルトに過ぎず。
妖精もしょせんは空想の産物で。
生きている海なんてものは、おとぎ話にしか登場しなかった。
あの日までは。
おびただしい数の断界が、世界中で同時発生したその日。
オカルトが衆目にさらされ、幻想と現実の境が崩れ、おとぎ話の正体が単なる子供向けの教訓ではないと知れ渡たる契機となった、未曾有の大災害―――後に『大侵食』の名で知られる、世界終焉規模の空間崩壊である。
エルマ=ミナツキと思われる人物の思考データより一部抜粋。
拙作をよろしくお願い致します。面白かったらブックマーク等、何かしらのリアクションがあると創作活動も捗りまする。




