拝啓
魔界市
五月○○日。
背景 義妹と両親へ。
前略。
お元気ですか。俺は今の所元気です。これが遺書となっていない事を祈ります。
春の麗らかな日差しの中、美しい花々が咲き乱れ、青々とした木々が当たり一面に広がり、隣接した海が若干眩しく見える今日この頃です。
さて、さっそくで悪いのですが、俺、死ぬかもしれません。
新生活に自ら望んで進み、親元を離れた俺ですがそろそろ日常が恋しくなりました。恋しいというよりはもはや渇望に近いです。
………………それというのも、俺は今、確実に死に瀕しているからです。
ええ、ええ、分かります。こんな事書いて頭がおかしくなったとか思うでしょう? 俺も思います。出来れば夢であって欲しいとも思います。体がギシギシと痛いのが妙に現実染みて嫌です。間違いなく悪夢です。今も厳しい監視の中、この手紙を書いていますが正直これがあなた方の手に届くかどうかは甚だ疑問です。届く前に俺が息絶える方が早い気もします。そうで無かったら幸いです。
先程述べたように、俺の身辺の状況はとても芳しいとは言えません。しかし、その理由は他人に話して信じてもらえるかどうかは、書いている俺自身、自信がありません。話半分ではなく真剣に書いているのでどうかそのつもりで読んでもらえたら幸いです。
――――どうやら俺は『化け物』の巣にむざむざ足を運んでしまったみたいなのです。
比喩ではありませんのであしからず。
見た目だけ人間に化けた、まさしく化け物魑魅魍魎が跋扈し、日々俺の生命を脅かし俺の精神は痩せこけるばかりです。冗談ではありません。いつ腹に収められてしまうのだろうかと怯える毎日です。
何度も脱走を試みましたが、包囲は頑丈でとても一介の高校生では抜け出す事は出来ません。これでもう義妹の顔が見れないと思うと涙が溢れるばかりです。
俺をエサと呼んで憚らない吸血女、物凄い威圧感を持つ糸メイド、捕食者の蜘蛛女、怪力青色の親子、何か銃やら刃だかをやたら振り回すイカレ野郎、獰猛な狼女、そして俺の後ろのアレを狙う変態。
しかし何よりも恐ろしいのは、化け物の親玉にして、もっとも最強最悪の存在です。
とにかく俺は未だに五体満足ですが、それも何時までなのだろうか分かりません。
そもそも、こんな事になったのは俺があんな事を言い出したからですが、今は後悔して止みません。
それでも、引き返す余地は幾つもあった筈だったのに俺はどこかで選択を間違ったのかと考えて辿りつくのは何時も決まっています。
そう、事の発端は、四月上旬のまだ少し肌寒いあの日の事です。
おつかれさまです




