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バルディオス 閃光

森の奥。

荷馬車は、不意に止まった。

「……止まったな」

木の影に身を沈めたまま、シンが小さく呟く。

距離は保っている。

気配も殺している。

問題ない。

視線の先――

男が一人。

荷馬車の前。

「……」

懐から何かを取り出す。

月明かりに反射する、小さな円形。

「……時計?」

シンが目を細める。

男――ガリューンは、懐中時計を静かに眺めていた。

まるで、“時間を測っている”かのように。

その時。

空気が、揺れた。

「――っ?」

シンの表情が変わる。

何もない空間に――

魔法陣が、浮かび上がる。

淡い光。

複雑な紋様。

次の瞬間。

そこから――人影が現れた。

「やぁ……待たせてしまったかい?」

軽い声。

どこか余裕を含んだ響き。

フードを外す。

月明かりが、その顔を照らす。

「……っ」

シンの目が見開かれる。

(……セイル!?)

見間違えるはずがない。

あの男だ。

「今回の品はこれで全部かな、ガリューン」

セイルが淡々と言う。

ガリューンは短く答える。

「……あぁ」

一歩、荷馬車に視線を向ける。

「これを渡し次第、他の奴らと合流する」

そして、少しだけ間を置いて――

「例の奴を捕まえに行く」

その言葉に、シンの眉がわずかに動く。

(例……?)

だが思考を挟む暇はない。

ガリューンは続ける。

「それよりも」

セイルに視線を戻す。

「わざわざこんなところに呼ばなくてもいいだろう」

淡々とした口調。

「お前の魔法なら、直接アジトに来れるはずだ」

もっともな疑問だった。

セイルは肩をすくめる。

「国の中じゃね」

軽く笑う。

「指定登録された転移魔法以外は感知される」

指先で、空をなぞるように。

「万が一、バルディオスの連中に見つかったら面倒だろ?」

そのまま、術式を展開する。

再び浮かび上がる魔法陣。

今度は、先ほどよりも大きい。

「……」

離れた場所。

梟の姿で様子を見ていたヒルデの目が細くなる。

(転移……?)

だが次の瞬間――

その目が、明確に見開かれた。

魔法陣が、荷馬車を包み込む。

馬も、荷も、そのまま。

光が収束し――

“消えた”。

「……っ」

ヒルデが息を呑む。

(あり得ない……)

通常、転移魔法で運べるのは――

せいぜい人一人、あるいは小型の荷物程度。

熟練者でも、木箱ほどの大きさが限界。

それ以上となれば――

複数人での同時詠唱か、魔力を蓄積する装置が必要になる。

それが――

(単独で……荷馬車ごと……?)

理解が追いつかない。

だが一つだけ、確信できることがある。

(魔力量が……桁違い)

規格外。

常識の外側にいる存在。

この戦乱の中で――

(あれは“放置していい存在じゃない”)

ヒルデの思考が、一瞬で結論に至る。

排除。

ここで。

今、この場で。

梟の身体が、揺らぐ。

羽が消え、輪郭が戻る。

人の姿へ。

同時に――

右腕が変形する。

骨格が歪み、形を変え、滑らかな砲身へと変わる。

照準。

迷いはない。

「――ッ!」

次の瞬間。

魔弾が、夜を裂いた。

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