表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
173/203

温泉

宿へ戻ったレオン達は、それぞれ買い集めた荷物を部屋へ運び込んでいた。


縄。


保存食。


ランタン。


探索道具。


洞窟探索に必要な品々はほぼ揃い、準備も順調に進んでいる。


「……よし!」


荷物を置き終えたアッシュが大きく背伸びをした。


「それじゃ温泉だ!」


「急に元気になったな」


レオンが呆れたように笑う。


「温泉は別だろ、温泉は!」


「さっきまで疲れたって言ってた奴とは思えないな」


「疲れてるからこそ温泉なんだよ!」


そんな他愛のないやり取りをしながら、一行は宿の近くにある温泉施設へ向かった。



温泉施設は、岩山を削って作られたような造りだった。


入口からすでに白い湯気が漏れ出している。


中に入ると、店番らしいドワーフが無愛想な顔のまま男女の暖簾を指差した。


ヒルデとレイは自然に女湯へ向かう。


「それじゃ後で」


「はい」


二人が暖簾をくぐろうとした――その時。


その後ろを当然のようにケンジャがついていく。


「……」


「……待てゴラァ!!」


アッシュが即座に首根っこを掴んだ。


「何だ」


ケンジャが不思議そうに振り返る。


「何だじゃねぇ!」


「何当たり前みてぇに女湯入ろうとしてんだ!!」


「何を言う」


ケンジャは真顔だった。


「私はれっきとしたメスだぞ?」


「…………は?」


一瞬、空気が止まる。


レオン達の視線が一斉にケンジャへ集まった。


「……お前、メスだったのか……」


アッシュが引きつった顔で言う。


「知らなかったのか?」


ケンジャは首を傾げる。


「元の肉体――ケツァルコアトルは雌だ」


「いや待て待て」


ユージンが困惑したように言った。


「でも元は男なんだよね……?」


「魂と肉体は別問題だ」


「難しい話するなぁ……」


アッシュが頭を抱える。


レオンは少し考えて、


「……いや、普通にこっちでいいだろ」


「魔物の性別気にする奴なんていないだろ」


「雑だなお前!?」


「合理的と言え」


結局。


ケンジャは男湯へ連行された。



男湯へ入ると、巨大な石造りの浴場が広がっていた。


白い湯気。


硫黄の香り。


広々とした湯船からは心地よい熱気が立ち上っている。


「っはぁぁぁ〜〜……」


先に浸かったアッシュが盛大に声を漏らした。


「生き返るわぁ〜……」


「お前、親父臭いぞ」


レオンが呆れる。


「うるせぇ」


だがアッシュは満更でもなさそうだ。


一方、ユージンは隅で桶にお湯と水を汲んでいた。


「熱すぎるとダメだよね……」


慎重に温度を調整し、小さな湯桶を作る。


「入っていいよ」


「うむ」


ケンジャが静かに浸かる。


「……うん」


「丁度いい」


「それは良かった」


ユージンも微笑みながら湯船に身体を沈めた。


「ふぅ……気持ちいいね」


「あぁ……」


レオンも小さく息を吐く。


船旅。


森での移動。


戦いの日々。


積み重なった疲労が、少しずつ溶けていくようだった。


静かな時間が流れる。


その時。


ケンジャがぽつりと呟いた。


「……で?」


「いつ覗きに行くんだ?」


「ブッ!!」


アッシュが思い切りむせた。


「バカ何言ってんだてめぇは!!」


「思春期だろ?」


ケンジャは真顔だ。


「行くだろ、覗きに」


「行かねぇよ!!」


「やめとけ……」


レオンが即座に止める。


「命がいくつあっても足りない」


「はは……確かに」


ユージンが苦笑する。


「ヒルデさん怒らせたら怖そうだし……」


「レイも普通に斬ってきそうだよな」


「うむ」


なぜかケンジャだけが妙に納得していた。



その頃。


女湯では。


白い湯気の中、レイが少し恥ずかしそうに肩まで浸かっていた。


「はぁ……」


身体から力が抜けていく。


対するヒルデは慣れた様子で湯に浸かり、ゆったりと息を吐いていた。


レイは思わずその姿を見てしまう。


「……そんなに見るな」


ヒルデが呆れたように言う。


「すっ……すみません……」


レイは慌てて視線を逸らした。


「その……羨ましくて……」


「……」


ヒルデは少し目を丸くすると、ふっと笑った。


「お前だって、そのうち成長する」


「焦る必要はないさ」


「……!」


レイの顔が赤くなる。


「ありがとうございます……」


二人は肩まで浸かりながら、静かな時間を楽しんでいた。


するとヒルデが何気なく口を開く。


「それで……」


「レイは誰か気になる奴でもいるのか?」


「――っ!!?」


レイの顔が一気に真っ赤になった。


「なっ……なな何言ってるんですかヒルデさん!!」


「はははっ!」


ヒルデが楽しそうに笑う。


すると周囲で湯に浸かっていた女ドワーフ達も興味津々に集まってきた。


「お?」


「恋話か?」


「聞かせろ嬢ちゃん!」


「若いのぉ!」


「かっ……勘弁してくださいぃ……!!」


湯気の中に、真っ赤になったレイの悲鳴と、楽しそうな笑い声が響き渡る。


その夜。


ドワーフ街の温泉には、久しぶりに戦いを忘れた仲間達の穏やかな時間が流れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ