買い物帰り
必要な物資を買い揃えたレオンとアッシュは、再び街の中心部へ戻っていた。
縄。
ランタン。
保存食。
予備の水袋。
洞窟探索に必要な道具を一通り買い終えた二人の荷物は、行きとは比べ物にならないほど増えている。
「これ以上増やすと流石に動きづらいな」
アッシュは肩に担いだ荷物を持ち直しながら、ふぅと息を吐いた。
「必要最低限で正解だったかもな」
レオンも背負った荷物の重みを感じながら頷く。
「あれもこれもって買ってたら、探索する前に疲れそうだ」
「違いねぇ」
アッシュが笑った、その時だった。
「あ、レオン」
聞き慣れた声に二人が振り返る。
前方から歩いてきたのはユージンとケンジャだった。
「ユージン」
レオンが軽く手を上げる。
「そっちの用は済んだのか?」
「……うん、まぁね……はは」
ユージンはどこか疲れたような笑みを浮かべた。
その様子を見たアッシュが眉をひそめる。
「なんだ、疲れたか?」
「荷物持ってやるぞ?」
「いや、大丈夫」
ユージンは慌てて首を振った。
「アッシュ達の方が荷物多いでしょ」
「まぁそれはそうなんだけどよ」
アッシュは苦笑する。
そんな中、レオンの視線がケンジャへ向いた。
「……」
完全な手ぶら。
驚くほど綺麗に何も持っていない。
レオンの目がじとっと細くなる。
「……お前」
「手伝うんじゃなかったのか?」
少し怒ったような声。
しかしケンジャは悪びれる様子もなく答えた。
「誰も荷物を運ぶとは言ってない」
「……おい」
「だが、ちゃんと役割は果たしたぞ?」
「役割?」
レオンが眉をひそめる。
するとユージンが苦笑しながら口を開いた。
「実は……」
そして――。
ヘイルズのこと。
ケンジャの義手と義足のこと。
そしてシンのために、新しい義足を作ってもらう話。
ユージンが簡単に説明を終えると、
「……なるほどな」
アッシュが納得したように頷いた。
「疑って悪かった」
「シンの為にありがとな」
「当然だ」
ケンジャがふん、と鼻を鳴らす。
「私も世話になっているからな」
「仲間の為に動くのは当然だ」
珍しく素直な言葉だった。
だが――
「……いや」
レオンだけはまだ少し納得していない顔をしていた。
「それでも持ってやれよ……」
「はは……」
ユージンが苦笑する。
「いいよ、別に」
「もう少しの辛抱だし」
「お前が優しいから甘やかされんだよ」
アッシュが呆れたように肩をすくめる。
「こいつ、絶対次も同じことするぞ」
「否定はしない」
「する気もないのかよ」
思わずアッシュが吹き出した。
そんな他愛のないやり取りをしていると、
「あ」
前方に一人の人影が見えた。
長い紫髪。
静かな佇まい。
レイだった。
「皆さん、お疲れ様です」
軽く頭を下げる。
「宿にご案内します」
「お、助かる」
アッシュが肩を回しながら笑う。
「流石に歩き回って足がだるくなってきた」
レイは小さく微笑み、そのまま先を歩き出した。
レオン達も後に続く。
夕暮れのドワーフ街。
赤く染まる石造りの建物の間を、心地よい風が吹き抜けていく。
しばらく歩いた頃。
レイがふと思い出したように振り返った。
「そういえば……」
「宿の近くに温泉があるみたいなんです」
「食事前に行きませんか?」
「――マジか!?」
アッシュの目が一瞬で輝いた。
「行こうぜ!」
勢いよくレオンを見る。
「なぁレオン!」
「あぁ」
レオンも思わず笑みを浮かべる。
「長いこと入ってないしな」
「うん、行こう!」
ユージンも嬉しそうに頷いた。
船旅。
森での移動。
そして連戦。
気付かないうちに疲労は溜まっていた。
温泉という言葉だけで、身体が癒やされる気がする。
「決まりだな!」
上機嫌になったアッシュが先頭を歩き始める。
するとその横で、ケンジャがぼそりと呟いた。
「私は熱いの苦手なんだが」
「じゃあ留守番な」
アッシュの返答は即答だった。
「酷い」
「大丈夫だろ」
レオンが笑う。
「ぬるい場所くらいあるんじゃないか?」
「むぅ……」
「それなら我慢してやる」
「上から目線だな」
アッシュが呆れたように笑う。
周囲にも自然と笑いが広がった。
そんな他愛のない会話を交わしながら。
夕陽に染まるドワーフ街を、レオン達は宿へと向かって歩いていく。
束の間の休息。
明日から始まる洞窟探索を前に、仲間達の表情には久しぶりの穏やかな笑顔が浮かんでいた。




