灰色の村
空は、いつも灰色だった。
雲が低く垂れ込め、陽の光は薄く拡散するだけで、地面に影を落とすこともない。
それでも、この村の人間にとっては、それが当たり前だった。
レオンも、その一人だ。
弓を引く。
細い腕に、じわりと力を込める。弦が軋み、小さく鳴った。
視線の先。
雪の残る地面に、灰色の毛並みがわずかに揺れる。
野兎だ。
(……外さない)
息を止める。
風はほとんどない。距離も遠くない。
放つ。
乾いた音と共に矢が走り、次の瞬間、獲物が跳ねた。
だが——
「……っ」
仕留めきれていない。
矢は胴に刺さっていたが、急所を外していた。
野兎は苦しげに地面を蹴り、雪を散らしながらもがいている。
レオンは駆け寄ろうとして、足を止めた。
どうすればいいのか、一瞬、わからなくなる。
その迷いを断ち切るように、後ろから足音が近づいた。
「遅い」
短く、低い声。
カーシュだった。
長身の体を軽く屈め、苦しむ野兎を一瞥する。
そして躊躇なく、腰の短剣を抜いた。
一閃。
ほとんど音もなく、野兎の動きが止まる。
雪の上に、静寂が落ちた。
「……また外したな」
カーシュはそう言って、血を払うように短剣を振った。
レオンは何も言えなかった。
視線は、動かなくなった小さな命に釘付けのままだ。
「なあ」
カーシュが、少しだけ声を和らげる。
「殺すなら、一瞬でやれ」
「……」
「それが優しさだ」
レオンは、ようやく顔を上げた。
「優しさって、殺すことなのか?」
カーシュは、少しだけ目を細めた。
「違う」
短く否定する。
「無駄に苦しませないことだ」
言葉は簡単だった。
だが、その意味は重く、レオンの中に沈んでいく。
カーシュは野兎を拾い上げ、肩にかけた袋へと放り込む。
「次は外すな。無駄が増える」
「……うん」
頷きながら、レオンは自分の手を見る。
弓を握る指が、少し震えていた。




