#55 店主からのサービス券
「顔色大丈夫か?」
青山店長は開口一番に聞いていた。よりによって刑事と会った次の日が店長との面談だった。
「……大丈夫です」
僕は形だけそう言うが、酷い眠気と気持ち悪さで体調不良だった。中年刑事が余計な事を言ったせいで一睡もできなかった。
「あまり無理はするな。勤務中に倒れたら色々問題が起こるんだ」
「……すみません」
「何か悩みがあるのか?」
青山店長は脚を組んだ。その際、フワッと香水が鼻にかすった。相変わらず妖艶な見た目をしている。
そのおかげで目は覚めたが、それ以上は意識しないようにした。もし僕が欲情していると分かった瞬間、即刻クビにされる。
「……本当に大丈夫です。ありがとうございます」
僕はどうにか平静を装って事務所から出た。大量の箱飲料が積まれた壁を通り抜ける際、増田さんと鉢合わせした。
僕は無視を決め込んでいた。増田さんとあまり目を合わせずにバッグヤードから出た。これからほぼ毎日彼女と会うとなると憂鬱だった。
その後は淡々と仕事が進んだ。時々頭の中が破裂しそうになったが、グッと堪えて品出しに励んだ。
ようやく昼休みになり、僕は外に出た。休憩室にいても気まずいだけなので前に食べた定食屋に行こうと思った。
「てめぇ、二度とくるんじゃねぇっ!!」
僕が店の前まで来た時、怒号が聞こえた。勢いよく二人組が出てきて逃げるように去っていった。
次に甘田店主が現れて大きく溜め息をついた。僕は近づこうかどうか悩んだが向こうから気づいてくれた。
「……お? お前は確か……」
「お久しぶりです。野菜炒め食べれますか?」
「あぁ、いいよ。入りな」
甘田店主は喜んで僕を部屋に招き入れてくれた。
*
「はい。お待ちっ!」
甘田店主は豪快な声で野菜炒めを出した。相変わらずすごい量だった。今日は重たいものを運んだからかお腹がペコペコだったので、貪るように食べる。
「いいねぇ、じゃんじゃん食べな。ご飯おかわりあるから」
甘田店主は僕の食べ方が嬉しそうだった。甘辛い味付けだったのでご飯がジャンジャン進み、お言葉に甘えて三杯ぐらいおかわりした。
「ふぅ、ごちそうさまです」
「はははっ、ありがとう。いっぱい食べてくれて嬉しいよ」
店主はそう言ってアイスキャンデーを渡してくれた。サービスらしい。ペロペロと舐めていると、ふと入店前に起きたことを思い出した。
「そういえば二人組の人が慌てて店から出てきたのを見たんですが……」
「……あぁ、あいつらね」
店主は眉間に皺を寄せた。マズイことを聞いたかなと思ったが、彼女は「いけ好かない奴らだよ」と答えくれた。
「普通の客だと思って料理作っていたら、なんかコソコソしてて、おかしいなと思って、少し見ていたら奴ら隠し撮りしてたんだよ」
「隠し撮り? なんでですか?」
「さぁ? そんなの知らないよ」
甘田店主は乱暴にバニラアイスをしゃぶっていた。その動作が少しえっちだったので少し視線を逸らした。
「もしかしたらネットの撮影の企画とかで来たのかもしれないですね」
「うちはそういう遊び半分で来られたら困るんだよ」
「あるいは店主のことを撮っていたのかも。店主さん、美人ですし」
「……は?」
僕はやってしまったと思った。つい本音が漏れてしまった。僕は「美人は本当にそう思っていますが、不快に思われたのでしたらごめんなさい」と謝った。
甘田店主はジッと僕を見てきた。睨んでいるというよりは見つめている感じだった。
「……お前、私のこと美人だと思ってるの? こんな格好で?」
「えぇ、はい」
「……そっか」
甘田店主はアイスの棒を持ったまま少し静止した後、立ち上がって奥へと消えた。僕は後悔した。もしかしてひどく傷つけてしまったのではないかと思った。
が、ものの数分で戻った。アイスの棒の代わりに一枚の紙を持ってきた。
「……やるよ」
「え?」
受け取ると、「サービス券」とだけ書かれた紙を渡してきた。
「10枚集めたらサービスしてやる」
そう言う店主だったが妙にツンとしていた。僕は彼女の意図を理解できなかったが、ありがたく受け取ってお代を払った。
帰り際、甘田店主が見送ってくれた。
「また来いよ」
「はい。明日も来ます」
僕はそう言って別れた。スーパーに向かうまでの間、僕はサービス券を見た。
10枚集めたら食事代が半額になるのだろうか。それとも……いや、あまり変なことを考えるのはよそう。




