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源頼光

ときは995年、平安時代まで遡る。

「キャーーーッ!」

夜深く、甲高い女性の悲鳴が京の町に響き渡った。

静まり返った闇を切り裂くような声に、何人もの住人が「なんだなんだ!?」と慌てて外へ駆け出す。

しかし、そこにはただ冷たい夜風が吹き抜けるだけで、人影一つ残されていなかった。

そしてその次の晩。

都でも評判だった大店の娘が、忽然と姿を消した――。


「フンッ! ――ハッ!」鋭い呼気とともに、一振りの太刀が虚空を切り裂く。

強く振り下ろされるその姿は、荒々しくも、息をのむほどに美しかった。

彼の名は、源頼光みなもとのよりみつ

後に教科書で誰もが習うことになる、平安時代屈指の武将である。

彼が仕えているのは、この時代に「摂関政治」を行い、富と権力の絶頂を極めていた藤原氏。

その中でも、最も大きな権力を持っていたとされる男だった。

「頼光」背後からかけられた厳かな声に、頼光は刀をピタリと止めた。

振り返ると、豪奢な衣装をまとった男が立っている。


「今日も欠かさず剣の稽古か。相変わらず懸命であるな、頼光」

「これは、道長様。もったいなきお言葉にございます」


そう、声をかけてきたのは、頼光の主君である藤原道長ふじわらのみちながその人であった。

頼光は刀を鞘に収め、深く頭を垂れる。


「道長様、このような場所へ直々にお越しになるとは、何か御用でしょうか?」

「うむ。実は、帝がお前をお呼びなのだ。急ぎ参るぞ」


帝――すなわち、時の天皇である一条天皇いちじょうてんのうからの直々の呼び出し。

ただ事ではない。頼光は表情を引き締め、道長と共にすぐさま内裏だいりへと向かった。


「帝、源頼光、ただいま参上いたしました」


御帳台みちょうだいの前に平伏する頼光の前に、若き最高権力者・一条天皇が姿を現す。


「来たか、頼光」「ははっ」一条天皇は傍らの従者に短く合図を送った。

「晴明。説明を頼んだぞ」「御意にございます」

暗がりの奥から静かに歩み出てきたのは、一人の男だった。

その名を聞いて、知らない者はいないだろう。

平安時代最強の陰陽師――安倍晴明あべのせいめいである。

一条天皇や藤原道長からも絶大な信頼を寄せられる、怪異の専門家だ。

道長もまた、頼光の少し後ろで静かにその言葉に耳を傾けている。


「頼光様。まずお聞きしたいのですが、京の町で度々起きている『神隠し』の事件をご存知ですか?」

「いえ、詳しくは知りませぬ。ただ、不穏な噂は耳にしておりますが……」

「では、お話しいたしましょう」


晴明は、深く淀んだ瞳で頼光を見つめ、静かに語り始めた。


「数年前から、京の町から何人もの人々が消えているのです。消えるのは美しい女や若者が多く、最近ではついに、貴族のお方までが犠牲になりました。……そこで私、安倍晴明が占いましたところ、元凶が判明いたしました。京の西北にある大江山おおえやま――そこに棲まう、凶悪な『鬼』の仕業にございます」


「鬼……」

頼光の背筋に、冷たい緊張が走る。


「その鬼どもは、さらった貴族や女を側に仕えさせ……飽きれば、生のまま貪り食っているとのこと」


生きたまま人を食うだと――!?頼光は思わず拳を強く握りしめた。

なんと惨く、非道な所業か。武士としての血が、怒りで激しく沸き立つ。


「なるほど。……つまり、その鬼どもを討伐せよ、ということですね?」

「その通りにございます」


晴明の言葉を受け、一条天皇が力強く口を開いた。


「大江山の鬼どもを放置すれば、都は滅びかねん。頼もしいな、頼光。頼んだぞ」

「御意。――この源頼光の名に懸けて、必ずやその鬼どもを討ち果たしてご覧に入れます!」


頼光は力強く応じると、一礼して部屋を辞した。胸に宿るは、都を護るという熱き覚悟。

ここから、源頼光の壮大なる鬼退治の幕が上がる――。

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