旧友の騎士
ぐしゃり音を立て魔物の肉が草の上に落ちる
「切っても切ってもきりがない」
「うん 数が多すぎるね」
フェルノが俺の背後で腰に刺した二本の短剣で魔物の攻撃を弾き返しながら言う
『風よ 我が魔力を糧に 眼前の敵の体を風の刃で切り刻め』
《 ウィングカッター》
目の前の魔物を風の魔法で倒す
「ふう 一通りは片付いたな」
「うん まさか国境越えたらこんなに魔物がいるとはね」
フェルノが短剣の血を拭いながら言う
「と言うかフェルネは良いよね~ その剣手入れとかいらないし」
「まあ これは特別な剣だからな」
腰に刺した剣に視線を落とす
持ち手の部分には青い六角形の宝石がはまり、刃の部分は軽い魔法金でできていてきらきらと金色の光を放っている
まあ、それじゃあ目立つから、いつもは地味な革の柄に入れてるんだがな
「戦ったら暑くなってきたね」
そう言いながらフェルノは羽織っていたマントを脱いで肩掛け鞄にしまう
明らかにマントが入りそうにない大きさなのにするりと入っていくので思わずツッコミを入れる
「なあフェルノ、前々から気になっていたんだが…… その鞄どうなってるんだ?」
「どうなってるって何が?」
小首をかしげてフェルノが言う
「お前のその鞄、鞄よりでかい物も入るだろ」
「ああそれのことか…… う~ん 秘密~」
「おい」
まあ、そういうマジックアイテムの類いだろう
そう思ってフェルノを見る、マントを外すと首筋の赤黒い傷跡が露わになる
エリクサーで切れた首を繋げたが、さすがに跡までは消せなくて何百年たった今でも残っている
「フェルノ……首の傷のこと本当にごめんな」
自分のせいでフェルノに冤罪がかかり、一生残る傷をつけてしまった そのことに罪悪感が募り、とっさにフェルノに謝ったが
「いいよ、そんな昔のこと あとこの傷は自業自得って言うか……やっぱり何でもない」
少し遠い目をしてフェルノは言葉を濁した
「と言うか、魔物がまた来る前に早く移動しよう この近くに安い宿があるからさ」
その場の雰囲気を取り繕うようにフェルノが言う
「ああ、そうしよう 俺も疲れた」
そうして草原の端に見える町に向かって歩き出した
町に入るとフェルノと俺はマントのフードをかぶった
この国では大丈夫だと思うが、隣の国で指名手配されていたんだ 追っ手が居たっておかしくない
「こっちだよ〜 フェルネ〜」
フェルノが裏路地に手招きする
「ここの宿だよ」
薄暗い裏路地の怪しい雰囲気の建物にフェルノは入って行った
俺もそれに続き建物に入る
建物の中は外のような雰囲気はなく普通の宿屋のようだった
入ってすぐのところにあるカウンターで宿屋の店主のような大男とフェルノが親しげに話していた
フェルノが他人と親しげに話すなんて珍しい、そう思っていると胸に見覚えのある銀色のペンダントを下げていた
それは俺たちがアルフォント王国に捕まっていた時に脱獄を手引きしてくれた元騎士のマルド・リーズレブの持っていたペンダントだ
「お前、マルド・リーズレブか?」
カウンターの近くまで行って問い掛ける
すると店主がこちらを向き
「ああ そうだがお前は誰だ? フェルノの連れか?」
「フェルノの双子の兄のフェルネ・リーフェルドだ」
そう言ってフードを取る
「お前、本当にフェルネか? フェルネはもうちょい雰囲気が………いやなんでもない」
フェルノが警戒してないってことは本当なんだろうな と言って納得したようだ
「そんなことよりさあ 僕達を泊めてくれるって言う話は?」
「ああ、そうだったな フェルネ、フェルノ、お前たちをこれから5日間ただで泊めてやる」
「いいのか?」
そうマルドに問い掛けると
「ただしそのあとはちゃんと金を払って貰うぞ、こっちも商売だからな」
と答えた
「それぐらいには金を稼ぐさ」
「うん」
俺の返答にフェルノが頷いた
「ああ、いい返事だな よし! お前らの部屋に案内するぞ」
ニカッと笑ったマルドは鍵を手に取りカウンターからでてきた
「こっちだ」
そう言ってカウンターの横の階段に上った
俺たちもそれに続いて上る
2階に上がるとマルドが廊下の突き当たりの部屋を指して
「あそこの部屋がお前らの部屋だ ほらっ」
チャリンと音を立て銅色の鍵が投げ渡される
両手でキャッチする
「それがお前らの部屋の鍵だ 夜中ずっと戦ってたんだろゆっくり休め」
「ありがとう そうさせてもらおうねフェルネ〜」
「ああ」
「じゃあ起きたら1階のカウンターにいるから声掛けてくれ」
「ああ」
鍵穴に鍵を差し込み、木製の扉を開ける
部屋には2つのベットとその間にある机があった
荷物をすみに置こうとした時ボフンと布団に飛び込む音が聞こえる
「おいフェルノ───」
音のした方を向くと、フェルノが寝息を立てて寝ていた
幸せそうな寝顔にふいに笑みがこぼれる
「よっぽど疲れてたんだな おやすみ、フェルノ」
そう言って俺も布団に潜る
何百年ぶりの布団の感触に意識が溶けていく
『今日はこれぐらいにしておくか』
静かな牢獄の中に兵士の声が響くとガチャンと金属音を立てて兵士が牢獄から出ていく
『 ねえ、フェルネ……』
横からフェルノの声が聞こえる
カシャンと音が鳴っているから短い鎖のついた手を必死に伸ばしているんだろう
『僕達、このままここで死ぬのかな……』
ポツリ、ポツリとフェルノは話す
『ねえ覚えてるかな? お母さんが話してたあの崖のこと……』
昔話して貰った夕暮れの崖のことを思い出す
その谷からはとても綺麗な景色が見れると聞いた覚えがあった
掠れた喉を振るわせて声を出す
『ああ、覚えてる』
俺がそう言うとフェルノは嬉しそうに微笑んだ気がする
『こんな場所じゃなくて、夕暮れの崖で死ねたら幸せだろうなぁ』
フェルノの手が俺に触れる、その手から生温かい液体が流れているのを感じる
その直後にガチャン!と大きな音が聞こえて誰かが入ってくる
『お前たち大丈夫か?』
その声はどんどん近づいてきて俺の手枷と足枷を外す
『お前は誰だ?』
掠れた声で尋ねると同時にかろうじて見える右目を凝らしてその人物の方を見る
そいつは銀色のペンダントを揺らし
『お前たちを助けにきた』
と言った
「───ルネ! フェルネ!」
そう呼ぶフェルノの声で目を開ける
「すごいうなされてたよ 大丈夫?」
すごく心配したという顔で見つめてくる
「少し夢見が悪かっただけだから大丈夫だ」
俺がそう答えると 満面の笑みで
「よかった」
といった、夢の中の殺伐とした雰囲気とは真逆の和やかな雰囲気に幸福感が湧き出でくる
「マルドがご飯作って待ってるって」
フェルノはそう言いながら俺に手を差し出した
「マルドの飯なんか久しぶりに食うな、楽しみだ」
その手を取りベットから出る
部屋の扉を開けて1階におりるとパンのいい香りが鼻を掠める
「マルドの手作りパンだ〜」
フェルノが目を輝かせながらカウンターの奥のカーテンを開けて中に走って行く
俺もそれに続きカーテンの中に入る
中はリビングのような作りになっていて、美味しそうな食事が乗ったダイニングテーブルの周りに椅子が3つありそのうち2つにフェルノとマルドが座ってる
「おはようフェルネ」
「おはようマルド 」
マルドに軽く挨拶をして椅子に座る
「3人揃ったことだしご飯食べよ〜」
「ああそうだな」
「じゃあせーので」
「この機会を与えたもう神に感謝を いただきます」
「いっただっきま〜す」
「いただきます」
3人で同時に言うとかなりずれたな、そんなことを思いながらパンを少しちぎってくちに放り込む
「なあお前ら、神への感謝ってしないのか?」
「マルドは熱心な宗教信徒だったか…… すまんが俺たちは神なんか信じてない」
俺の返答に少し驚いた様子のマルドだったが
「信じるも信じないも個人の自由だからいいんだが、昔はちゃんと言ってたからなって……」
ああその事か
そう答えようとした時に
「神様なんかいないよ」
静かにフェルノが答えた
その手に持ったパンを1口かじり続ける
「神さまがいたなら、僕らの人生ももっといいものになったと思うから」
窓の外を見つめながらフェルノはそう言った
金髪が陽の光に照らされてすごく綺麗だった
「でも、もし''全知全能の神''なんてものがいるのなら。そいつが僕達の幸せな人生も、フェルネの左目も奪ったと言うのなら、僕は、僕は、神だって殺す覚悟があるよ」
「まあ、こんな人生を変え送ってたらそうなるな……」
マルドは、銀髪に隠れた俺の見えない左目を見つめながらそう呟いた
そこからは無言の食事になった
ただカチャカチャと食器の音が部屋に響いた




