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異世界奴隷はホワイト労働!?  作者: 武池 柾斗
第一章 転生先でも奴隷!?
21/63

1-20 親睦会

 その日の夜。


 職場近くの飲み屋に、ジャーガン国内水運の四十一人が集まっていた。席の半分以上を水運奴隷が占める店内で、盛大な宴が始まろうとしていた。


 テーブルの上には酒や料理が並び、奴隷たちは椅子に座って宴会の開始を待つ。そんななか、ジャーガンと堅枠大は木製のジョッキを持って同僚たちの前に立っていた。堅枠大の一番近くにはマッコウが座っている。


 全員そろったのを確認すると、ジャーガンが野太い声で話し始めた。


「みんな! 休日の夜に集まってくれてありがとう! 来られなかった人もいるが、今日はそいつらの分まで楽しんでくれ! 今日の飲み代は全部俺持ちだ!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ジャーガンの奢り宣言に奴隷たちは歓声を上げる。

 彼らは十秒ほどで静かになり、再びジャーガンが口を開く。


「では、カタワク! 乾杯の音頭を取ってくれ」

「は、はい!」


 堅枠大は半歩前に出て、同僚たち全員を見渡した。


 彼ら彼女らは皆、堅枠大を優しい目で見ていた。自分が受け入れられていることを実感し、堅枠大の緊張がほぐれる。


 堅枠大は全員の耳に届くように大きな声を出した。


「ジャーガン国内水運のみなさん、今日は親睦会に集まってくれてありがとうございます! ここに来て四か月、みなさんのおかげでこの国にもこの仕事にも馴染めました! プライベートもとても充実していて、これ以上ないってくらいに楽しいです!」


 それは、彼の本心から出た言葉だった。

 堅枠大の演説に、マッコウがすかさず反応する。


「それはよかったぜ! な! みんな!」

「おう!」


 同僚の奴隷たちはマッコウに同意し、拍手をする者まで現れた。


 堅枠大は照れくさくなり、同僚たちが静まる前にジョッキを突き出した。


「みなさんありがとうございます! そして、これからもよろしくお願いします! では、乾杯!」


「かんぱーい!」


 やけくそ気味な堅枠大の音頭に従い、奴隷たちは楽しげな声を上げてジョッキを高く掲げた。


 彼ら彼女らは木製のジョッキをぶつけ合い、豪快に飲み始めた。


 堅枠大もジャーガンとマッコウと乾杯をして酒を飲み始めた。酒はビールのようなもので、温度は少し冷たい程度だった。


 半分ほど飲んだところで、堅枠大はジョッキから口を離して大きく息を吐いた。


「はぁーっ! うっまいなあ!」


 ビールの心地良い苦みを口に感じながら、彼は笑みをこぼした。


 現代日本のものと比べれば味はやや落ちるうえに、のど越しを感じるには冷却が足りていない。酒そのものに対する物足りなさはあった。だが、温かな場の雰囲気に呑まれていたこともあって、転生前の酒とは比べものにならないほど、彼はこのビールを美味しく感じていた。


 その様子を見ていたマッコウが満面の笑みを浮かべる。


「いい飲みっぷりだな! ほら、飲んだら食え食え! 今日はお前が主役だ!」


 マッコウはそう言って、堅枠大の皿に料理を盛り付け始めた。


 白い皿の上に、鶏肉のステーキやポテトフライ、色とりどりのサラダ、トマトソースのパスタなどが次々と乗せられていく。


 見た目もへったくれもない取り方だったが、堅枠大にはその雑な盛り付けがやけに美味しそうに見えた。


 堅枠大はマッコウの隣に座り、その大きな皿を受け取った。


「サンキュー、マッコウ! では、天地の恵みに感謝して、いっただっきまーす!」


 彼は酒が入っていても食前の挨拶を忘れなかった。


 堅枠大は顔と胸の前で右手を縦に切ってから、料理を食べ始めた。この国にしてはどれも濃い味付けだが、その味が酒と絶妙にマッチしていた。


「美味い! 健康には絶対悪いけど美味い! これには逆らえない!」


 この国で芽生えていた堅枠大の健康意識が、この料理と酒に対して彼に罪悪感を抱かせた。しかし、それもマッコウの言葉で吹き飛ぶ。


「一日くらい羽目外したって何も変わらねえって!」

「そうだな! 普段は健康そのものだもんな!」


 堅枠大は自分を許して、食べては飲み、食べては飲んだ。


 いつしか酒を数杯飲み、酔いが回ってきた。酔っ払った奴隷たちは席を立ち、思い思いの場所でそれぞれ楽しみ始めた。


 堅枠大のところには多くの同僚が集まって来た。

 あまり交流のなかった人でも、今は堅枠大と話をする機会が多くあった。


「カタワク、お前学校行ってるんだって? ヒューライ語と魔法はできるようになったか?」


 年上の先輩が赤い顔をして尋ねてくる。

 酔った堅枠大は上機嫌で応えた。


「いやー、まだまだですけど、文字が少し読めるようにはなりましたね! あと、魔法は氷の魔法に適性があるらしいですよ!」


「それマジかよ!? だったらこの酒を凍らせてくれよ!」


 先輩は酒の入ったガラスコップを差し出してくる。


 堅枠大はその薄い黄緑色の酒を見ながら、困ったように笑った。


「いやあ、それは無理ですよ! いや、でも、少し冷やすくらいならできるかもしれませんね!」


「だったらなおさらやってみてくれよ!」


「わっかりましたー!」


 堅枠大は先輩からコップを受け取り、机に置いた。それから両手でコップを包み込み、液温を確かめる。体温よりは低いが、冷たいというほどでもない。だいたい、気温と同じくらいだった。


 彼は魔法の授業を思い出しながら、両手に魔力を込め、頭の中に氷のイメージを描く。そして、黄緑色の酒をまっすぐに見つめて言葉を発する。


「酒よ! 冷たくなれ!」


 その号令とともに、魔法が発動した。


 コップがわずかに冷たくなり、それに伴って酒の温度も下がっていく。堅枠大は額に汗を浮かべながら、対象物に魔力を送り続けた。


 いつのまにか、ジャーガン国内水運の全員が彼の魔法に注目していた。奴隷たちはもちろんのこと、雇い主のジャーガンも固唾を飲んで見守る。


「うぐぐぐぐ……く、くはぁ!」


 堅枠大は授業のとき以上に力を入れていたが、やがて限界が訪れた。


 酒は凍らないまま、彼の集中が切れる。氷魔法も発動が解除され、両手に集まっていた力も抜けていった。


 それでも、堅枠大は満足気にコップから手を離した。

 彼は右手の甲で額の汗を拭いながら、先輩に笑いかける。


「ふう、ふう……これで、ちょっとは冷えたと思いますよ!」

「どれどれ……」


 先輩はコップを掴むと、手のひらで温度を感じる暇も無く酒を飲んだ。一口飲んだところで、彼は目を見開いた。


「ホントだ! 確かにちょっと冷えてる! しかもいい感じの冷たさだぜ! すげえなカタワク!」


 先輩は大げさにそう言って、堅枠大の背中を数回叩いた。


 周囲で見守っていた同僚たちも感嘆の声を上げ、堅枠大を褒めたたえる。アルコールが入った空間特有の、妙な陽気さがここにはあった。


「いやいや、みなさんのほうがいろいろと魔法を使えるでしょうに」


 堅枠大は謙遜ではなく正直な気持ちを述べる。


 ヒューライ国民は子ども時代から魔法の教育を受けているのだ。学校に通い始めてから二か月しか経っていない堅枠大よりも、同僚たちのほうが圧倒的に長く魔法と付き合ってきている。彼ら彼女らから見れば、堅枠大はひよっこも同然だろう。


 それでも、先輩は堅枠大を称え続けた。


「それとこれとは別なんだよ! ほら! 冷やしてくれたお礼に、この酒飲んでいいぞ!」


 そんな先輩の笑顔を見て、堅枠大は完全に力を抜いた。


 この雰囲気に呑まれて、彼はこの宴会を心の底から楽しもうと思った。遠慮する気持ちを心のどこかに持っていたが、それはこの時点で完全に消え失せた。


「ええ! いいんですか! では、お言葉に甘えて、いただきまーす!」


 堅枠大は先輩からコップを受け取り、黄緑色の酒に口を付けた。


 この酒のアルコール度数は低めで、飲んだ瞬間からマスカットに似た爽やかな酸味とほのかな甘みが口の中に広がる。冷やしたこともあって、格段に美味しく感じた。


 彼は一口で止めるつもりだったが、止まらなかった。


 堅枠大の豪快な飲みっぷりにつられて、周囲の人々は彼を囃し立て始めた。


「飲め! あ、それのーめ!」

「ムーノ! サ、ソウ、ムーノ!」


 堅枠大の耳に日本語とヒューライ語が同じ音量で聞こえてきた。


 酔いが回ったことで体内での魔力の流れが変わり、翻訳魔法の効果が一時的に薄くなったようだ。


 しかし、堅枠大はそのようなことなど気にせず飲み続けた。


「のーめ! のーめ!」

「ムーノ! ムーノ!」


 彼は周囲の期待に応えるように背中を大きく逸らして、コップの中の酒を飲み干した。杯を乾かした彼は大げさに息を吐く。


「かぁーっ! ごちそうさまでしたー!」


 堅枠大の声が店内に響き渡る。


 ジャーガン国内水運の奴隷たちはもちろんのこと、他の客や店の従業員までもが彼に拍手を送った。


「いいぞいいぞー! カタワクー!」

「じゃあ俺たちも飲むぞー! 食うぞー!」

「おう!」


 それから、堅枠大とその同僚たちは飲んで食って大騒ぎをした。いつの間にか他の客まで混ざり、この宴を楽しんでいた。


 途中、堅枠大は顔を真っ赤にして同僚たちと肩を組み、歌った。歌詞もメロディーも知らない歌だったが、彼は雰囲気でついていった。


 歌い終わると、堅枠大は心の底から笑い声を上げた。


「ひゃははははっ! 人生たのしー!」


 宴会は騒がしさを増していき、夜は更けていった。





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