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第62話 守衛

 破戒神と名乗る幼女に連れられて、通り沿いのカフェテラスへと向かった。

 彼女は『内密に話があるのです』なんて言ってたけど、そのわりにオープンテラスを選ぶ辺り、どうなんだろう?


「こういうのはヘタにこそこそしない方が、人目を引かないんですよ」

「そういう物ですか……?」

「そもそも今から話すことなんて、世間では与太話の範疇なので、誰も気にしませんけどね!」

「だったら何で、わざわざ場所変えたの!?」


 見も蓋も無いことを言い放つ、自称破戒神(笑)。

 テーブルに着くなり、ケーキセットを注文して水を一口。

 身長に合わない席に着いて、両手でグラスを抱え、んくんく水を飲むその姿は、どう見ても育ちのよい幼女にしか見えない。ただし首輪付き。


「あの……」


 リムルが用件を切り出すべく声を上げる。

 その視線はやはり最大の違和感を発している首輪に注がれている。


「うん? ああ、この首輪ですか? これは――夫の趣味です」

「いや、聞いてないし。というか聞きたいのはソレじゃない」


 これが破戒神……イーグの言うところの、わたしの先祖?

 イーグの話で粉々だったわたしのご先祖への敬意が、更に微塵に磨り潰されていくのを感じる。

 これは敬意を感じる対象じゃない。どちらかといえば、愛でて萌える対象だ。


「まぁ、料理が来るまでにチャッチャと本題を済ましてしまいましょうか」

「ええ、そうして頂けると助かります。というか、本当に破戒神様?」

「イーグがいるのが証明になると思ったのですけど?」

「あうぅぅ」


 そばには借りてきた猫状態のイーグが座っている。

 空気は読むけど天衣無縫な彼女にしては、珍しい。


「まず、例の地下室の物品に付いてですが」

「やはりそれですか」


 そりゃそうだ。

 神様のへそくりを、わたしがごっそりと盗み出したようなものなんだし。場合によっては力尽くで取り上げられてもおかしくない。

 その場合は……敵わないだろうなぁ。

 そんなわたしの反応に気付いたのだろう、彼女はニッコリ笑って手を振って見せた。


「いまさら返せとか言いませんからご安心を。でも危険な物も多いですから、イーグに監視はさせておいてもいいです?」

「それは、もう。彼女にはボクたちも世話になってますし、一緒にいてくれるならこれほど心強いことはないです」

「よかった。後、ファブニールのあれやこれやに関しては、イーグに指示を仰いでください。色々と扱いが難しいので。イーグの指示としておけば、厄介事が起きてもコイツのせいにできるんで」

「ユーリ様、ヒドイ!?」

「だまらっしゃい、管理責任者。『温泉旅行中に噴火が起きて庵が潰れました』とか報告に来た時は、どう処理してやろうかと思ったのですよ」

「ふえぇぇ」


 うん、そりゃ怒られるわ。

 でもまぁ、自然災害だけはどうにもならないし?


「でも噴火だから仕方ない。怒らないであげて?」

「……いい子ですね、この子」

「オヤビンは萌えるでしょう?」

「持って帰ってもいいです?」

「ダメです。彼女はボクのなので」


 速攻否定したリムルに、破戒神がニマリとした表情を浮かべた。


「へぇ? ほぉぉぉぅ?」

「なんですか?」

「いえ、なんでも。それではこちらが本題ですが」


 からかうような表情を引っ込めて、懐から紙束を取り出す。

 中には……あの暗号?


「これは?」

「まぁ、あの手記用の辞書ですね。自作なので使用感は悪いと思いますし、単語の抜けも多々有るとは思いますが」

「辞書!?」


 しかも、あの破戒神お手製の!

 これ、ある意味神器なんじゃ……?


「それとこちらを。これはキミたちの『目的の魔法陣』です」

「目的――まさか蘇生の?」


 さすがに大きな声で聞き返すことはできず、声を潜める。


「はい。安心してください。未完成とか、偽物とかそういうのは一切ないです。正真正銘、本物の『アレ』の陣です」

「じゃあ、これでわたしたちの目的は完遂?」

「これで……父さんと母さんが……」


 感無量と言う態で、リムルが魔法陣を手に取る。

 そこには複雑怪奇な魔法陣が何重にも重なった難解極まる術式が記されていた。


「残念だけど、それだけじゃ術は動きませんよ?」

「え……でも、完成品で本物だって――」


 突然水をぶっ掛けるようにして放たれた否定の言葉に、疑問符を浮かべる。

 術は四百年ほど前には使用されていて、完成してて、これは本物で……なのに使えない?


「どういうこと?」

「んー、そもそも蘇生の術式と言うのはですね――」


 声を潜めて説明を続ける。

 さすがに声が小さいので、顔を寄せてボソボソと会話するわけだけど……ちょっとリムルの顔が赤いのが気になった。


「世界樹信仰の大原則って知ってるです?」

「はい、『この世界の生命の全ては樹より生まれ、樹に帰る』ですね」

「それです。なぜ魂が樹に帰るかというと、魂を回収するシステムがあの世界樹に存在したから、なのです」

「なるほど」


 自動的に魂を回収する機能が世界樹に有るから、樹に生まれ樹に帰り、そして生まれ変わるというサイクルが成立するわけだ。


「で、わたしは五百年前に世界樹を破壊した。これによってその機能を秘めた部位も一緒に壊しました」

「だから、蘇生魔術が開発できた、と?」

「ぶっちゃけると、そうです。ところが、世界樹も生命ですから、再生とか成長とかするんですよ。わたしは成長しませんけど」


 神話によると、五百年前の世界樹は、へし折られて今より二割ほど低かったらしい。

 それがこれまでの間に成長して、現在の高さまで復活したとか?

 あと最後のは、別にどうでもいい。


「ということは、その機能がこの五百年の間に再生されたってことですか?」

「ご名答、というには少し足りないかな? 実際は前より更に強固に再生されてしまったのです」

「ダンジョンの敵が強くなっちゃったみたいに?」


 わたしは、フォルネリウスの首都ベリトで聞いた、『世界樹の持つ免疫』についての話を思い出していた。

 世界樹は攻略されたことにより、更に強い敵を配置して、侵入者を排除するようになったという話だ。


「まぁ、その一種なんでしょうね。そのシステム……集魂機構(ヴィゾフニール)と言うんですが、これがちょっと厄介なことになっていてですね」


 破戒神の話によると、その機構――魂魄回収システムが用意した守護者(ガーディアン)が大きな問題になっているとか。

 このヴィゾフニールシステム自体は大した問題ではない。

 世界樹の中に設置された、五十センチ程の宝珠を破壊すればいいだけだ。

 ところがこれが五百年前に破壊されたことで、世界樹は宝珠にガーディアンを配置するようになった。

 しかもこのガーディアンは、その時点で迷宮に存在した最強の存在を取り込み、手に負えない化け物になってしまったらしい。


 その時、迷宮内に有った最強の存在……すなわち『魔王』の遺体。


 魔王の持つあらゆる攻撃を跳ね返す完全耐久のギフトや、ドラゴンすら殴り倒す豪腕のギフト。これにより最強の攻撃力と、防御力を手に入れてしまっていた。

 しかもその生命力は世界樹とリンクすることによって、再生力はほぼ無限。

 風神と破戒神、二柱を持ってしても手に負えない、どうしようもない存在になっているらしい。


「わたしたちは死なないので、何度か挑戦してみたんですけどね。何をやっても通じない、通じるようにしても再生される、しかも一撃でフロアが崩壊するほど馬鹿力。もう手に負えません」

「それじゃ、この術式を手に入れても――!」

「はい、ヴィゾフニールが健在な限り、魂は世界樹に引かれてしまいます。なので蘇生はできません」

「……そんな…………」


 呆然と椅子にもたれかかるリムル。

 望みを絶たれたその姿に、わたしは思わず肩に手をかける。でもそれ以上掛ける言葉が存在しない……


「あなたのご両親、遺体は氷漬けにして保存してるんでしたっけ?」

「あぁ……」

「賢明でしたね。蘇生が利くのはせいぜい死後一週間以内ですが、凍らせることで遺体の腐敗を防ぎ、魂の遊離を防ぐ効果もあります。肉体が存在するので世界樹に魂が引かれないというわけですね。今の段階なら、問題なく術式は掛けれるはずです。ヴィゾフニールさえ何とかできれば」

「それが不可能だから――!」


 リムルがテーブルを叩いて怒りを表す。

 周囲の客がこちらに注目するけど、彼はそれを意に介さない。

 むしろ破戒神の方が慌てて宥めに掛かった。


「落ちついてください。今、わたしとハスタール――風神で対処するために各地を巡っているところです。この国にも世界最古の図書館があるので、寄らせてもらったのですから」

「でも、それにどれだけの時間が掛かるか」

「大丈夫です。こう見えても状況打開能力には自信があるのですよ。長くても数年のうちには、どうにかして見せます」


 そう言って、えへんと薄い胸を張る。

 今までイーグに聴いてきた話では、あまり信頼できそうに無いんだけど。


「今回、こうして腹を割って話に来たのは、あなたたちがその現状を知らずに迷宮に突撃しては、無駄死にしかねないと思ったからです」


 確かに術式を得て、効果が発揮しないとなれば、魔法陣の解析に取り掛かるだろう。

 そして、世界樹に原因が有ると知れば、とりあえず突入していたに違いない。

 そこに無敵を誇る守護者が待ち構える。何も知らずに、突撃するわたし達……


「無策で行っていたら、絶望的だったね」

「でしょ? だからお話しに来たのですよ」

「それで、当てはあるのですか?」

「それは、まぁ……とりあえず、現状取り掛かっているのは二つほど」

「二つ?」


 ほぅ、と溜息を吐いて頬に手を当てる。

 その仕草がいかに面倒な作業にぶち当たっているかを表現していた。

 後、その溜息が妙に色っぽい。これが大人の魅力か。いや、見た目幼女だけど。


「一つはここの図書館に守護者の弱点がないか調べること。なにせ、世界最古の図書館ですから資料は豊富です」

「それは、確かに」

「もう一つは、同じように世界最古の物知りを探し出すこと」

「世界最古の物知り?」


 五百年の時を生きる神話上の神様より古いってこと?


「ええ、最も古い神。竜神バハムート。五百年前の魔王戦で別れたっきり、音沙汰が無いんですよ、あの野郎」

「わたしのおじーちゃんでやんす」

「わたしより長生きしてるから、何か知っているかもしれません」


 そういえば、破戒神は比較的若い神様だった。

 それより古い、最古の神話の登場人物なら、何か知っていてもおかしくはない。でも……


「もう、話が大きくなりすぎて、なにがなんだか」

「あはは、確かに普通はそうですよねぇ。神様絡みだとか冗談じゃねーっての」


 屈託無く笑ってパタパタ手を振って見せる破戒神。いや、あんたのことだよ。


「まぁ、ここの資料探しはわたしたちで何とかします。文字の知識とか豊富ですし。あなた方には出来ればバハムートの情報を探ってもらいたいですね」

「……わかりました。父さんたちを蘇らせるには、それしか――協力するしかないですから」

「連絡はイーグを介してくれれば、いつでも付きますので」


 そう口にしたところで、料理が運ばれてきた。

 神様と一緒に食卓を囲むとか……なんだか美味しいのに、味がぜんぜん感じられない昼食になってしまった。


説明回になるとエイルに話させられませんね……どうにかしないと。

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[気になる点] 余字:の持つ わたしは、フォルネリウスの首都ベリトで聞いた、『世界樹の持つの持つ免疫』についての話を思い出していた。 [一言] ユーリのなら出来そう、ヴィゾフニールを破壊するより世界樹…
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