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第31話

「フェリックス様がいらっしゃったわ。通しても良いかしら?」


夕食後、残り少なくなった学園生活に見合わない程の大量の課題に取り掛かろうとした私に、母が声をかけた。


フェリックス様の気持ちを聞いたあの日から、もう一週間程が経っていた。

ここから私達の新たな関係を築いていこうと意気込んだは良いが、如何せんフェリックス様が忙しそうで、あれから全く会えてはいなかった。


そこまで考えて、私は一人苦笑する。

今までならフェリックス様に会うのは数カ月に一度。それですら心が重くなっていたというのに。私って意外と現金だった様だ。


すると、ノックが聞こえる。

私は鏡を見てササッと前髪を直してから、返事をした。


「どうぞ」


「マーガレット、ひ、久しぶりだな」


『久しぶり』と言ったフェリックス様の気持ちも、もしかして私と同じだったのかもしれないと思うと、少し嬉しい。


「随分とお忙しそうですね」


私が指し示した椅子に腰掛けながらフェリックス様が答える。


「そうなんだ……。殿下の帰国が早まった事もだが、殿下が客人を連れて帰るらしくてな」


「客人?どなたなのですか?」


「詳しくは教えて貰っていないのだが、どうも留学先の王族らしい」


「王族?!それは大変そうですね」


「あぁ。王宮の使用人達も皆、右往左往しているよ。殿下はこの十年で三カ国に留学したが、どの国の王族かも教えて貰っていなくてな」


「それじゃあ、おもてなしの仕方も分からないですね。国によって風習や好む物も違いますし……」


「だよなぁ。一応、その三カ国のどの王族が来ても良い様に、様々な形で用意しているが、皆手一杯だ。俺達も殿下を迎えに行く班、残って王宮を護衛する班と別れて準備していたんだが、他国の王族も一緒となると、殿下を迎えに行く護衛の数を増やさねばならなくなって、班編成も一からやり直しだ。それに……俺にはもう一つ厄介な奴のお守りがあるからな」


『厄介』

ついこの前までてっきりステファニーに好意を抱いていると思っていたのに、今ではこの言い様だ。


「ステファニー様は殿下の帰国をどのように?」


「それは物凄く喜んでいるさ。だからと言ってドレスを何着も新調したり、イヤリングやネックレスを何個も買ったり、靴を何足も買うのは意味が分からん。身体は一つ、首も一つ、耳は二つだ。そんなにたくさん買っても身に着けられないというのに……。靴など一足で良いだろう。タコやイカじゃあるまいし」

とフェリックス様は思いっきり顔を顰めた。


「女性は自分を美しく着飾りたいものなのです」

私がクスクス笑うと、


「それは……お前もか?」

とフェリックス様は不思議そうに尋ねた。

不思議そうなのもちょっとムカつくが、実際私はあまりお洒落に興味がない。


だけど……デービス様と夜会に行くためにドレスを纏った時には気分が高揚した事は事実だ。


「そうですね……。今まではあまり興味は無かったのですが、夏の夜会に行った時……」


『夏の夜会』という言葉を口にした時、フェリックス様が思いっ切り不機嫌な顔をした。


「『夏の夜会』ね。あのデービスって奴は……何なんだ?サーフィスもみすみすお前達が仲良くしているのを見過ごしやがっ……」

とそこまで言って、フェリックス様は慌てて口を噤んだ。


「フフフッ。サーフィス様からお聞きしました。サーフィス様とご友人だったのですね」


「ど、どこまで聞いた?」


「本を寄贈して下さっていたと。お陰で図書館の本の種類が豊富になった様です」


「クソッ!黙っていろと言ったのに!」


「秘密にする様な事ではないじゃないですか。……ありがとうございます。私が本を好きになったきっかけは初めてフェリックス様から贈られた本です。ずっとフェリックス様に楽しませていただいていたのですね」


「本のプレゼントは……喜んで貰えていたんだな」


「もちろんです!お花も綺麗でしたけど」


「そうか……それなら良かった」

とフェリックス様は少しはにかんだ様に微笑んだ。……が、


「それより、本当にあのデービスって奴……。何故あいつと夜会に行ったんだ?」

と今度は不機嫌そうに私に尋ねた。


「誘われたので……」


「お前は誘われたら誰とでもホイホイと夜会に行くのか?婚約者が居るのに?」


「それ、フェリックス様が言います?」


詰めるフェリックス様に私がそう言い返すと、フェリックス様は言葉に詰まった。

私はその様子に吹き出してしまう。


「やめましょう。喧嘩はしたくありませんから」


「確かに……すまない。つい……。自分が嫉妬深い男だとは思っていなかったんだが、あの夜会でお前とあの男が一緒に居るのを見てカッとなってしまった事を思い出して。だが……お前のドレス姿は……その……美しかった」


赤い顔をして俯くフェリックス様が可愛く見える。こんな風に彼の事を思える様になるなんて……一週間前までは想像もしていなかった。


ここで私はちょっとした悪戯心が湧いた。


「そうだ!フェリックス様知っていましたか?夏の夜会の最後の花火。あれをカップルで一緒に見ると、その二人は永遠に幸せになれるんですよ」


私の言葉を聞いたフェリックス様は目を見開いて固まってしまった。

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