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従う先

炎嘉を取り巻くたくさんの鳥の中から、カラスの長と言っていた、大きなカラスが出て来て、頭を下げた。

《王。我ら決断致しました。》

炎嘉は、頷いた。

「ではどうする?ここへ残るか。」

そのカラスは、答えた。

《いえ、王と共に島という場所へ。王のお側で仕えるのが、一番ではないかということになりまして。》

炎嘉は、息をついた。

「そうか。ちなみに鳥族の王は我だけではなくて、ここより南にもその辺りを収める彰炎という王が居る。そちらの方が広いゆえ、主らが望むなら我から彰炎に話をつけるがどうする?それでも島へ来るか。」

カラスは、答えた。

《我らが王と対面したのは、あなた様が初めてでございます。あなた様を王として仕えようと話し合って決めたので、島へ参りたいと思います。》

どうしても島へ来るか。

炎嘉は、仕方なく頷いた。

「仕方ない。ならば島へ。ちなみに広くはないぞ?島であるからな。縄張りは我が決めてやるゆえ、あちらの烏(からす)と諍いを起こすでないぞ。主らとは種類が違うゆえ、大きさも形も違うしな。上手くやるが良い。」

カラスは、頭を下げた。

《はい。仰せの通りに。》

炎嘉は、うーんと考える顔になった。

「そうだのう…主に名が要るな。ちなみに我は、炎嘉ぞ。主は…体も大きく、青み掛かった美しい黒であるから、大青(たいせい)と名付けよう。これから、大青と呼ばれたら己だと思うが良い。分かったな。」

大青は、戸惑う顔をしたが、頷いた。

《は。我は大青。ありがとうございます。》

名前など考えたこともなかったのだろうな。

炎嘉は思いながら、踵を返した。

「では、我と共に行くカラスだけついて参れ。まずは我が宮に連れて帰る。」

大青は、頭を下げた。

《は!》

そうして、後ろに控えていたカラス達に頷き掛けた。

そうして、炎嘉についてまた、維心達が待つ場所へと戻って行ったのだった。


「お、戻って来たぞ。」

漸が言う。

炎嘉の後ろには、カラスばかりが不自然なほど静かに飛んで、ついて来ていた。

「…連れて帰るのか。」

維心が言うと、炎嘉は頷いた。

「ついて来るというゆえ。一度宮へ連れて帰って、どこへ住まわせるか考える。」と、漸を見た。「主は?それらはどうするのよ。」

漸は、苦笑した。

「置いて帰る。神格化したなら考えるが、これらはまだ犬ぞ。ここらで生活するのを楽しんでおるし、イシードに懐いておるゆえ離れとうないようだしな。」と、イシードを見た。「これらを頼んだぞ。よう世話をしてやってくれておるようで、これらは幸福なようだわ。」

イシードは、頭を下げた。

「は!心して世話を続けて参ります。」

漸は、頷いた。

「我はなんのためについて来ておるのだと思うておったが、来て良かったわ。雷嘉の里を知ることができたし、イシードはよくやってくれておるし、イゴールですらこれらは慕っておるようぞ。ということは、イゴールもこれらを可愛がっておるのだろう。案じる事が無うなった。」

イゴールは、答えた。

「まあ、長く続く犬の血筋であるし、可愛がって来たがの。虎を狩るとか言い出すのだから、複雑であるわ。」

漸は、笑った。

「これらにはまだ虎を狩るなど難しいわ。もっと大きな群れならやりおるかもだが、今は無理よ。言うておるだけぞ。」

イゴールは、だからその意識が問題なのだと言いたかったが、黙っていた。

イシードが、言った。

「そのことなのですが、漸様。実は雷嘉もそうでありましたが、これらは外からメスを連れて来ても全く興味を持たぬで。なので長生きでありますが、先が増えぬのです。どう致しましょう。群れと言うて、大きくなりようがありませぬ。」

大きくなったら虎を狩るようになるのではないのか。

皆が思ったが、黙って聞いていた。

漸が答えた。

「無理ぞ。今も言うたように、神格化しようとしておる犬であり、簡単には盛ったりせぬからの。同じように神格化しようとしておるメスならば、もしかしたらお互いに気に入って子をなすやもしれぬがの、人と同じだと思うが良い。好みがあるし、会話のできぬ相手など興味もないのよ。」

そういうことか。

雷嘉は、言った。

「そう、なので無理に近付けようなど、迷惑この上ないので、これらにも放って置く方が良い、イシード。必要なら勝手にこやつらなら探して来て連れて来るゆえ。」

イシードは、渋々頷いた。

「ならばそのように。」

一時は10頭近く居た犬が、これらのせいで今は5頭しか居ない。

メスも混じっているのだが、皆兄弟なので興味もないようだった。

なので、イシードの心地は分かった。

維心が、言った。

「もう良いな?帰るぞ、もうあちらは夜中ぞ。維月も寝ておるやも知れぬ。長居してしもうたわ。」

確かにこちらも、昼を過ぎている。

ヴァルラムが、息をついた。

「また時差ボケにならぬように、さっさと帰って寝るとしようぞ。」と、ヴァルヴァラを見た。「主は帰ったらすぐに禁書を月の宮へ。忘れるでないぞ。」

ヴァルヴァラは、頭を下げた。

「は。約した事は違えませぬ。」

アンジェラが、驚いた顔をする。

「え、ヴァレーリア様の書を?」

ヴァルヴァラは、苦笑した。

「もう我には必要ない。母上が我に伝えたかった事は、全て見た。我はこれより、あの地を落ち着いて治めて行かねばならぬから。」

イゴールが、言った。

「…では、ヴァレリーが目覚めたらまた連絡する。これよりは我も、アマゾネスを疎まぬように努力しようぞ。お互いに、平和に治めて行くようにしよう。」

ヴァルヴァラは頷いて、そうして浮き上がった。

炎嘉達は、もう空高く飛び上がって東の方向へと向かっている。

その後ろを、結構な数のカラスがついて行くのが見えた。

そうして、あの膜の術の問題は、一応の終息を向かえたのだった。


島へと戻って来るに従って、どんどんと暗くなり、島ではもう、真夜中だった。

最上位の王ばかりなので、かなりの速度で飛んで来れたにも関わらず、ここまで一時ほど掛かってしまっていた。

途中、炎嘉の宮では炎嘉とカラス達が降りて行き、漸は己の宮の方角へと雷嘉と共に向かい、維心は義心と共にやっとの事で龍の宮までたどり着いた。

維月が、居間へと戻って来た維心を出迎えてくれた。

「維心様、お疲れ様でございました。湯殿ヘ参られますか?それとももうお着替えになられてお休みに。」

維月はというと、もう寝る準備を整えているようだ。

維心は答えた。

「もう疲れたゆえ、本日はこのまま休むわ。」

維月は、頷いた。

「では、お着替えを。」

侍女達が、着物を持って入って来る。

維月は、せっせと維心を着替えさせながら、言った。

「月から十六夜と共に見ておりましたわ。ヴァレリー自身はおかしな性質ではなかったようで、安堵しましてございます。」

維心は、着替えさせられながら答えた。

「誠にの。呪文は消したゆえ、もうあちらがどうしようと我には興味はない。ヴァレリーが、ヴァルヴァラと上手く和解できたら良いなとは思う。」

維月は、着替えさせ終えて頭を下げた。

「終わりましてございます。」

維心は、頷いて維月の手を取った。

「それにしても、鳥やら犬やらは、神ではない眷属の面倒も見なければならぬゆえ大変だなと思うたわ。龍は生粋の神であるから、それがない。言葉がいまいち通じぬで炎嘉と漸が難儀しておった。島ではあんなことがないゆえ、驚いたわ。」

維月は、フフと笑いながら、維心に手を引かれて奥の間へと入った。

「はい。島の鳥達も犬達も、己の王が側に居る事に慣れておりますが、あちらは違いますゆえ。彰炎様がいらっしゃる北西の大陸でもそのような事はありませんのにね。」

維心は、寝台に乗りながら頷いた。

「確かにの。北にはよう考えたら炎嘉のように鳥族全てを治める神はおらぬものな。コンドルはコンドルしか面倒を見ておらぬようだし。」

維月は、維心の横に横たわりながら、頷いた。

「はい。目が開かれるようでした。カラス達が、共に来ると申した気持ちも分かる気が致します。頼る神は、やはり居て欲しいと思うのでしょう。」

維心は、維月の肩を抱いた。

「まあ、眷属は多い方が良かろう。いろいろ役にも立つし。」

維月は、維心を見上げながら言った。

「時に維心様、ヴァルヴァラはいかがでしたか?禁書を読んで、黄泉のヴァレーリア様の事を父から聞いて、話を聞いてみたいと言うたら叱られましたの。安易に言うなと。」

維心は、目を閉じたまま笑った。

「それは我がここに黄泉の門を開いたとて、そこまで来るには気の消費が大きいからの。ヴァレーリアに要らぬ負担を掛けてまで、話すというのもおかしな話よ。呼んでも来ぬだろう…あやつは我らを知らぬのだからの。」

お父様と同じ事を言う。

維月は、言った。

「そうですけど、黄泉の道へ行けばあちらも来るだろうと仰るのに、そんな事に維心様の気を消費させるのはと申されますの。」

維心は、頷いた。

「黄泉の道へ行くには多くの気を消費する。我でもな。碧黎が申すは、もっともなことぞ。無理を言うでないぞ?必ず必要ではないのに、軽々しく黄泉に関わる事はせぬ。さあ、もう休むのだ、維月。我を説得しようとしても無駄であるぞ?」

維月は、ぷぅと頬を膨らませた。

「…維心様までそのように。分かっておりまする。」

誠に分かっておるのかの。

維心は思いながら、苦笑しつつ目を閉じた。

やっと少し、落ち着いた心地になっていた。

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