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魔法陣

龍の宮では、蒼の訪問を受けていた。

昨日散々に日が暮れるまで炎嘉と話し合ったが、どうしてもその、膜の術を持ち去った誰かのことが分からない。

とりあえず諦めて、その日は炎嘉も暗い表情で帰って行った。

維心も今朝は、なので気分は優れなかった。

蒼が居間へと入って来て、すぐにそれを気取って言った。

「…維心様には、お悩みがあるようですね。北のことですか?」

維心は、頷いた。

「その通りよ。だがまあ、仕方がない。すぐには何もなかろうし。」と、蒼を見た。「して?主はどうしたのだ。訪ねて来るとは最近には珍しいの。」

蒼は、頷いて懐から巻物を取り出した。

「長らくお待たせしてしまいました。もう必要ないかもと思いましたが、あの空間を捻じ曲げる魔法陣の対抗魔法陣から完成したので、お持ちしたんですよ。」

維心は、パッと表情を変えた。

「誠か。これへ。」

侍従が寄ってきて蒼からそれを受け取り、維心へと手渡す。

維心は、それを開いて見た。

「…これが、その魔法陣か?」

蒼は、頷いた。

「はい。あの魔法陣を完全に無効化することに成功しました。これを宮のどこかに設置しておけば、そこから半径10キロメートルはあの魔法陣が発動できません。もっと広範囲となると、それだけ大きな魔法陣が必要ですので、どれぐらい効くのがいいとか具体的に決まりましたら、ご相談ください。」

維心は、頷いた。

「結界内となれば大きな物が必要だが、とりあえず宮だけはこれで何とかなりそうよ。手柄であるぞ、蒼。これでいくらか安堵できたもの。とはいえ…」と、巻物を閉じた。「膜の術を阻む魔法陣も欲しいところよな。」

蒼は、息をついた。

「それはその呪文が必要なんです。どんな術の構造なのか、分からなければ無効化の術は作れぬので。魔法陣は見たら全部そこに書いてあるので、研究もしやすいんですけどね。」

維心は、頷く。

「ならば、膜を消す術もまた同じであるな。実はその呪文が、手に入るやも知れぬのだ。」

蒼は、身を乗り出した。

「十六夜が寝てるので、詳しい事が分からないんです。維月が何か見てましたか?」

維心は、頷いた。

「その通りよ。どうやらヴァレーリアの墓にそれを記した書があるようで、エフィムが探しに参ったのだ。が、その書は墓にはなく、持ち去られたようだった。アマゾネスの軍神達は、あちこちはぐれの神が居ないか探しておる。それでもまだ、見付かったと知らせは来ぬのだ。ゆえにイライラしておる。」

蒼は、月を見上げた。

「オレは、こうしてなかなかゆっくり他の地を見ている暇がなくて、そこまで知りませんでした。」と、ジーッと空を見つめたまま、言った。「…あっちは夜ですね。でも、寝ているヴァルヴァラの横でエフィムと軍神二人が何やら書ではなくて紙を見て…ん?なんだろう、アンジェラがなんか、記憶の玉みたいな物を持って入って来ましたよ。」

維心は、片眉を上げた。

「記憶の?誰の記憶ぞ。」

蒼は、じっと見つめ続けた。

「…アナスターシャ。アナスターシャの母親の物だとか言ってます。アナスターシャの母親のサーシャは、レイティアの側近でヴァレーリアの乳母だったみたいですね。その記憶から、ヴァレーリアの過去を調べたらどうかとか何とか言ってますけど。」

維心は、目を見開いた。

「ということは、それを見たら術者が分かるやも知れぬではないか!蒼、その記憶の玉はこちらから見えるか?」

蒼は、眉を寄せた。

「…うーん、みんなでその玉に手を翳して読んでて、維心様が皆に見せるみたいに壁に投影してとかではないから、オレからは全く。玉を取って来るしかないんじゃないかな。」

蒼なら、いきなりあちらへ行ってそれを手にしてまた戻る事はできるだろうが、そこまでしてはさすがにおかしい。

維心は、息をついた。

「ならば報告待ちか。とにかく知った事は何でもこっちへ知らせよとあちらに書状を送るわ。共に解決策を探した方が、早く膜も消せるだろうと申して。こちらは、術が世に出回って大騒ぎにならぬかと、そればかりが気になっておるのよ。ヴァルヴァラが間に合わぬだろうことは分かっておるが、なので我らも焦っておるのだ。」

蒼は、頷いた。

「それはそうですよね。あんな術をあちこちでポンポン使われたらオレ達でも困ります。何しろ、月だってあの膜には囚われてしまいますから。維月が何回囚われてしまったか。」

維心は、何度も頷いた。

「その通りよ。ゆえに早くその、ヴァレーリアの書を回収したいのだ。その上で、まだ残っておった時のために、月の宮で対抗呪文を作っておいてもらいたい。そうしたら、これからは安心していられるだろう。」

蒼は、ため息をついた。

「簡単にできたら良いんですけど。何しろその魔法陣ですら1年掛かっていますからね。仙術は本当に作るのに時間が掛かるんです。呪文が分かったら、まずその仕組みから解明して行かねばならないので…本当に大変なんです。」

維心は、苦笑した。

「分かっておる。それでもいくら時が掛かっても、作っておかねばならないものぞ。すまぬが頼む。まあ、まだ分かっておらぬから、これからだがの。」

蒼は、渋々頷いて答えた。

「はい。時が掛かっても良いのなら、分かった時には命じて作らせます。できたら良いんですけど…結局できない事もあると思っておいてくださいね。」

維心が頷くと、そこに維月が入って来て、蒼を見た。

「あら蒼。来てたの?」と、維心を見た。「維心様、只今戻りました。」

維心は、頷いて手を差し出した。

「これへ。蒼はあの、エラストを殺した魔法陣の対抗魔法陣を持って来てくれたのだ。大きさにより、その効果の範囲は決まるらしいが、この大きさなら半径10キロだそうな。」

維月は、維心の手を取って隣りに座り、その巻物に書かれてある魔法陣を見た。

「まあ。ならばとりあえず宮は何とか守れますわね。ついでに膜の術も阻める魔法陣があればよろしいのに。」

維心は、頷いた。

「我もそのように。だが、呪文から構造を分析するゆえ、呪文が分からぬとできぬらしいのだ。ヴァレーリアの書さえあったら、始められたのにの。」

維月は、ため息をついた。

「…未だ連絡はありませぬか。」と、空を見た。「あら?あれは何の玉かしら。」

蒼が言った。

「アナスターシャの母親のサーシャの記憶の玉だって。ヴァレーリアの乳母だったらしい。」

え、と維月は蒼を見た。

「だったらヴァレーリアの縁者とか、分かるのではない?!もしかしたらそれが、書を持ち去ったのかも知れないの!」

蒼は、頷く。

「維心様から聞いたから知ってるけど、投影して見てないから月からは中身が読めないんだよ。報告待ちだなって。」

維月は、それでも空を見つめてソワソワした。

「…十六夜なら、あちらは夜だし月の光を下ろして中身を見られるのですわ。でも寝ているし…そもそもそんな風に見たものを、知らせて良いのかも分かりませぬわ。私も、霧を使えば見れるんですけど。」

蒼は、え、と維月を見た。

「え、じゃあオレも見れるの?」

維月は、頷いた。

「見れるはずよ。でも十六夜みたいに回りに知られずに見るのは難しいかも。あれで十六夜って、月としてはかなり優秀なのよ。相手に知られずに何でも見える感じ。」

サラリとやっているが、十六夜は月の力を使う事に関してはかなり優秀で何でもできるのだ。

蒼は、息をついた。

「だったら、オレはやめておくよ。月が何をしてるんだって、拗れても嫌だし。十六夜が眠らされてるのも道理かもな。こんな時に、中身を見て大騒ぎで知らせて来そうだもんね。」

確かにね。

維月は思いながら、エフィム達がそのサーシャという軍神の記憶を読むのを見守った。

早く読んで、こちらにも知らせて欲しい。できたら玉そのものを渡してくれないかな。

維月はそんなことを思っていたのだった。


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