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到着

ヴァルヴァラは、固い表情で輿の中に座っていた。

マトヴェイの城へ挨拶に向かい、約束通り共に出発して島の龍の宮へと向かっている。

マトヴェイが、心細かろうと道中、島の礼儀などを教えてもらえと、エフィムがこちらの輿に共に乗っている。

エフィムは、一から丁寧に挨拶の仕方を教えてくれて、文の文面と同じく穏やかで親切な神だと分かった。

ヴァルヴァラはら居心地悪く身を動かした。

…戴冠式もしていないので、こんな正式な衣装を着たのも初めてだ。

王冠はさすがに外出にはそぐわないので被ってはないが、アマゾネス時代に作らせていたと思われる、大量のダイアモンドで作られたティアラを着けていた。

それは、宝物庫に嫌になるほど多く収められており、臣下達が見付けて来た物の一つだった。

宝物庫の奥で誰にも知られる事なく長年置き去りにされていたのか、それを収めてあった箱は埃だらけだったらしい。

エラストの治世になってから、どうやら捨て置かれていたようだった。

エミーリアは、男漁りに夢中で、そんな物にも気付かず逝ってしまったのだ。

すると、エフィムが言った。

「…ヴァルヴァラよ、そのように固くなる必要はない。島の神達も、主の戴冠に異論などなかったのだろう。問題ない。」

ヴァルヴァラは、答えた。

「…エフィムは男であるからそのように。我など、まだ三百ほどの小娘であろう。それが、女を下に見る習慣のある土地で、奇異な目で見られるのは覚悟しておる。が、どのような扱いになるかと案じられるのよ。」

エフィムは、答えた。

「だから案じることはないのだ。皆我が、王座を蹴った事は分かっておるし、主が面倒を引き受けてくれたのは確かなのだからの。疑っておる輩が居ったら我が申す。ゆえに、共に参ったのではないか。」

ヴァルヴァラは、それには感謝していたので、頷いた。

「手間を掛けたの。本日だけでなく、様々相談に乗ってくれるので助かっておるのだ。そも、我は野育ちで、城の中へなどつい最近に入ったばかり。知らぬ事も多いゆえ、それでも馬鹿にされてはと気を張る毎日で…いっそどこかへ行けたらと思う事もしょっちゅうよ。」

エフィムは、困った顔をした。

「…主には悪かったと思うておる。が、我が王座に就いたより、ずっと主の方がやりやすいと思うぞ。何しろあの城の臣下は、愚かと分かっていながらエミーリアを女王にした。古くからの軍神家系の奴らが、我には従わぬだろうから父上と同じ事になっておったやも知れぬ。主なら賢しい上に優秀であるのだし、何よりその気の大きさよ。大丈夫、問題ない。」

ヴァルヴァラは、ため息をついた。

「…だが、ベンガルは?あやつらの書状は見せたであろう。昔の女王の治世の時に、あちらの男を拐って参って面倒を起こしおったゆえ、女王である我のことは歓迎できぬのでは。」

エフィムは、言った。

「仮にそうだとしても、それは終わったことぞ。主とは関係のない所で起こった昔の話だ。イゴール殿は妃が月の宮へなど行ってしもうて、機嫌が悪いのではないかとお祖父様は言うておった。何しろ若い女神を見初めて、かなりゴリ押しで迎えておったらしいからの。お祖父様からしたら、若い見た目ではあるが、かなりのお年であるのよ。イゴール殿も友で同じくらい。無理があったのではと申しておる。そういえば、確かその妃はベンガルだがアマゾネスに育てられた女だったと聞いたな。その辺りから、気が強うて思い通りにならなんだ可能性はある。それゆえなのやもしれぬぞ。」

イゴールの妃は、我が眷属に育てられた女だったのか。

ヴァルヴァラは、何故かその話に引っ掛った。

が、外から龍の宮に到着しますと声が掛かり、そんな事は忘れてしまったのだった。


龍の宮とは、なんと大きな…まるで街でないか。

ヴァルヴァラはら輿からそれを見下ろして、驚いていた。

あの敷地内に、自分の城は幾つ入るだろう。

あまりの大きさに愕然としていると、エフィムが言った。

「大きいであろう?神世最大最古の宮と言われておる。最近に、世界の神を一同に集めて大会合を開く事を決めた龍王が、場所がないとわざわざ会合の宮という建物を増築したので、更に大きくなった。」と、指を差した。「その、手前のやつが会合の宮、脇の大きな宮が、手前が外宮、内宮、奥宮となっておる。我とて造りは知っておるが、実際に降りたら己がどこに居るのかわからぬようになるぐらい大きいのだ。主も迷うたら、とりあえず侍女を呼べば龍の侍女が出て参るから、それに案内させよ。我とて何度控えに行く道が分からぬようになってそうしたことか。」

これだけの広さがあればそうだろうの。

ヴァルヴァラは、龍王の力を宮の大きさに感じて、落ち着かなかった。

祖母のレイティアは、こんなものと戦って負けたのか。

ヴァルヴァラは、ため息をついた。

勝てるはずのないものに向かって行くとは、愚かでしかないだろう。

輿は、ゆっくりとその龍の宮の到着口へと降りて行ったのだった。


かなりの広さの到着口に降り立つと、ここの到着口には多くの神が同じように降り立ち、ざわざわとざわめいていた。

数えたら七レーンもある到着口で、自分達はその真ん中のレーンに居た。

エフィムが、腰を上げた。

「我が先に出るぞ。ヴァルヴァラ、ベールを着けよ。こちらでは女はあまり顔を晒さぬのだ。」

ヴァルヴァラは、頷いてベールを被った。

そも、皆に見られるのは性に合わない。

なのでこの習慣には感謝していた。

先に降りたエフィムが手を貸してくれて、外へと足を踏み出したヴァルヴァラは、高い天井、どこまでも続く回廊にめまいがした。

あちこちの柱には美しい彫り物がしてあり、花が飾られている花瓶すらも見たこともないほどに美しい。

アンジェラが、緊張気味に言った。

「女王。こちらの臣下が控えはこの度、会合の宮に準備してあると。案内してくれるとのことでございます。」

ヴァルヴァラは、頷いた。

「ならば参ろうぞ。」

隣りのレーンから、マトヴェイが話し掛けて来た。

「共に参ろうぞ。控えの間を隣り同士にしてくれておるらしいぞ。」

エフィムが、そちらを振り返った。

「お祖父様、お待ちを。」と、ヴァルヴァラから手を離した。「主は女王であるから、男に手を取られて歩くのはおかしかろう。さ、お祖父様の所へ参って、共に控えに移ろう。」

ヴァルヴァラは、頷いた。

「ではそのように。」

アンジェラが、焦ったように言った。

「女王、軍神はあちらに控えがと言われておりまする。ついて参れるのは侍女達だけ、なのでモニカに行かせます。我にご用の時は、モニカを遣いに出してくださいませ。」

軍神は別なのか。

アンジェラが側を離れるのは少し、心細い心地がしたが、ヴァルヴァラはそれを表に出さずに頷いた。

「案じることはない。何かあれば呼ぶ。」

そうして、ヴァルヴァラは歩き出した。

男ばかりの王達の中、少しでも見劣りしてはならないと、胸を張って歩く様はその場に居る皆の視線を浴びていたが、ヴァルヴァラはそれには気付いていなかった。

エフィムとマトヴェイと並んで歩き出した広い回廊から見える庭は、それは大きく見たことのない美しさだった。

島の文化は北とは違うと聞いていたが、それは確かなようだ。

マトヴェイが、言った。

「本日は大会合なので龍王が出迎えておらぬで良かったの。龍王の気の圧力は、我でも恐怖を覚えるほど。今少し場に慣れてから、対面した方が良いだろう。」

ヴァルヴァラは、それが自分を気遣って言っていることがわかっていたが、何やら面白くない。

まだ未熟だと言われているようなものだからだ。

とはいえマトヴェイは、見た目は若いが祖父のような歳。

ヴァルヴァラは、頷いた。

「できたらあまり、接しずにいられたらと思うております。島の事は島の事。興味もない事でありますので。」

しかしマトヴェイは、言った。

「何を言う、龍王の美しさは誰もが見とれて大変なのだぞ?顔を見ておらぬからそんな事が言えるのよ。懸想せぬようにな。あやつの興味は、王妃にしかない。結局泣く事になる。」

エフィムが、割り込んだ。

「お祖父様、そのように。ヴァルヴァラは王なのです、からかうような事を申されては失礼ですぞ。」

ヴァルヴァラがホッとしていると、マトヴェイは真顔になった。

「…試しておるのよ。こやつの王としての度量をな。これから嫌になるほど我と同じように申す輩が居るだろう。ヴァルヴァラよ、怒るでないぞ。上手く流す方法を考えよ。ここには、百戦錬磨の嫌なジジイが多く集まっておる。王としての度量を見せてやるのだ。初めが肝心。主もそう思うておるのではないか?」

マトヴェイは、わざと言ったのだ。

ヴァルヴァラは、感謝して頷いた。

「望むところでありまする。」

マトヴェイは満足げに頷いて、そうしてそこからは嫌な事も言わずに、和やかに話して歩いて行ったのだった。

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