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アマゾネスの城

ヴァルヴァラは、精力的に外との交流を深めていた。

正式に王座に就いた事を、改めて全ての城、宮に書状を書いて送り、その上でその場所に合った品を共に贈って、挨拶とした。

マトヴェイからもエフィムと共に記した丁寧な返礼が来て、布なども送られて来た。

ドラゴンからも、金杯など王座に就いた祝いの品が送られて、北はそれで一気に祝いの品を送って来るようになったので、やはりドラゴンは、コンドルと二分しているとはいえ今も北の中心なのだとヴァルヴァラは思った。

が、ベンガルだけは何やら突き放すような、ぶっきらぼうな文面で、返事が来た。

理由は分からないが、イゴールは何やらアマゾネスに個神的にあるらしい。

そういえば、最近に妃を離縁して月の宮へ預けたとかいう噂を聞いた。

イゴールがその妃をかなり気に入って娶ったと聞いていたので、もしかしたら八つ当たりなのかもしれない。

が、ヴァルヴァラは好意的な他の書状に混じって、やたらと目立つその突き放すような文面に、眉を寄せていた。

「…ベンガルだけが、この様子。」と、多くの書状を前に、ヴァルヴァラは考え込んだ。「島の龍の宮でも好意的な文面で送って参ったのに。やはり、以前アマゾネスがあちらの男を拐って来て使っておったことを、未だに恨んでおるのか。」

しかし、重臣の一人の、エゴールが言った。

「いえ女王よ、それはエラスト様の代で、解決したことでございます。そのような事があったからこそ、アマゾネスの女王は下ろされ、エラスト様が王座に就くことになり申した。その時になくなった遺恨のはずでございます。」

エゴールは、エラストにも仕えていた重臣の一人で、重臣の半分を占める男の臣下だった。

「ならばなぜに?他と比べて明らかに我が王座に就いた事に不満なようぞ。他は祝いを述べて品も共に送って参ったのに、ベンガルだけがこのあっさりとした書状のみ。いろいろ書いておるが、内容は相分かったと、それだけぞ。」

確かに目立つ。

エゴールが黙ると、アイーシャが言った。

「女王、やはりベンガルは迷惑を掛けられたという記憶があるゆえ、女王が再び王位にとなると、その頃を思い出して素直に祝えぬのかも知れませぬ。そも、最近でもまた、ベンガルを利用した術が発生して龍王よりかなり強い叱責を受けたとか。こちらと関わると、仙術を思い出して面白うないのでは。」

アンジェラは、黙っている。

ヴァルヴァラは、アンジェラを見た。

「主はどう思う?」

アンジェラは、ハッとした顔をして、首を振った。

「いえ…我には皆目見当もつきませぬ。」

ヴァルヴァラは、息をついた。

「仕方がない。懸念は残るが、他は概ね好意的であるのだ。とりあえずは、大会合は問題なく務められそうぞ。何事も、初めが肝心なのだ。我が真っ当に治めようと思うておることを印象付けるには、根回しは必要ぞ。ベンガルとは、また話す機会もあるだろう。その折に理由を模索していけたら良いかの。」

エゴールが、頷いた。

「はい、女王よ。我から見ても、女王は大変に臣下想いの賢しいかたです。女王ならば、上手く立ち回って来られるはずだと思うておりまする。」

あちらからしたら、小娘だろうがの。

ヴァルヴァラは思いながら、立ち上がった。

「…では、会合を終える。我は戻る。」

皆が、立ち上がって頭を下げた。

ヴァルヴァラは、そんな中一人会合の間を出て、居間へと向かったのだった。


会合の間から次々に臣下が出て行く中、アイーシャは言った。

「…アンジェラ。話がある。」

アンジェラは、むっつりと頷いた。

「なんぞ。」

アイーシャは、アンジェラを睨んだ。

「そのように。我らは運命共同体ぞ。とにかく参れ。洞窟へ参るぞ。」

アンジェラは息を付くと、仕方なくアイーシャについて洞窟へと向かった。

洞窟には、霧が充満しているので、いくら結界の中でもヴァルヴァラからは透視できないのだ。

そこへ誘うということは、結局アイーシャにはヴァルヴァラに言えない何かがあるという事だ。

…なぜに女王に隠れてコソコソとせねばならぬ。

アンジェラが目に見えてイライラしながら洞窟の中へと入って行くと、アイーシャは歩きながら言った。

「そうカリカリするでないわ。ベンガルのあれは、恐らくソフィアの仙術の事が絡んでおると推測出来よう。主とてそう思うたのではないのか。」

アンジェラは、頷いた。

「その通りよ。しかし、なぜにヴァルヴァラ様に隠さねばならぬ。包み隠さず申し上げておかねば、何かあった時にお困りになるのではないのか。」

アイーシャは、息をついた。

「分かっておらぬな主は。我らが女王が、知っていては困るから言わぬのではないか。知らぬからこそ、あの方にご迷惑をお掛けせずに済む。ソフィアは、恐らく死んだ。ダリヤに調べさせたところ、あの日ドラゴン城へイゴールとソフィアは呼び出されて向かっておるのだ。その折、龍王も密かに来ておったらしい。恐らく、ソフィアの仙術の玉を取り除こうとしたのだろう。そこで、術が発動してソフィアは死に、反転術でアナスターシャも犠牲になったとしたら辻褄が合う。そも、腹を焼かれて生き残れる神など居らぬ。月の宮に預けたとか聞いておるが、それは方便だろう。あやつは死んだ。まあ、生きておってもあやつを育てたアニタはとっくに始末しておる。軌跡を追えぬゆえ、こちらがやったという証拠も取れずにイライラしているのだろうて。」

アンジェラは、落ち着こうと息をついた。

「…ならば、問題はあるまい。エラストを殺したのが我らであるのは確かだが、それすら今では証拠は出ぬ。そも、それは内の事で外からは干渉できぬ。ソフィアだけが問題であったがそれもアニタもろとも始末しておって残っていない。この上は、もう外では何もせぬことぞ。全てはヴァルヴァラ様が王座に就くための事であったのだ。我らが足を引っ張る事になってはならぬ。」

アイーシャは、あからさまに嫌そうな顔をした。

「そんなことは百も承知よ。結局は、これまで何かあった時のためにと、準備しておったことの始末がまだ終わっておらぬだけぞ。ソフィアはとりあえず始末できた。後は…まあ、追々話す。」

アンジェラは、眉を寄せた。

「まだ何かあるのか?もし懸念がまだ残っておるのだとしたら、早う申しておかぬか。そうでなければ、ヴァルヴァラ様が後に何も知らずに困られる事になるやもしれぬのだぞ。我には話しておけ。そうでなければ、防げるものも防ぐことができぬではないか!」

アイーシャは、神妙な顔をした。

「…今は、時ではない。とはいえ、アナスターシャがあのように呆気なく犠牲になった手前、我の命もいつ何時同じ事になるやもしれぬの。その時は、ダリヤに聞け。古くから共に来たのは、我とアナスターシャとダリヤの三人のみ。後は主らと同年代で、前女王のお若い頃にいろいろ動いておった時のことを知らぬだろう。ヴァルヴァラ様がお育ちになり、指示を出されるようになるまで、我らは前女王のご遺言に従って動いておった。ゆえ、ヴァルヴァラ様とは違い、かなり精力的に活動しておったのだ。前女王は…何が何でも、己が王座に就くのだという執念が大変に強いお方であったからな。ヴァルヴァラ様をもうけられたのは、時が経ってもしかしたら王座に届かぬかもしれない、と弱気になられた時だった。外の男を攫って来てな。その男は用が済んだら殺したと聞いておる。ちなみに、主の母も同じ男と主を成したのだ。つまり、主とヴァルヴァラ様は半分同じ血を継いでおるのよ。」

アンジェラは、驚いた顔をした。

ヴァルヴァラ様と、我は姉妹…?!

「我は…ヴァルヴァラ様と姉妹であると?」

アイーシャは、頷いた。

「そう。男が同じであるからな。小癪なことに、その男が優秀な奴であったらしく、主らは共に大変に賢しく強く育った。主の母は、その男を殺すのはもったいないと、最後まで反対しておったのは覚えておる。」

父が同じ…。

アンジェラは、尚の事ヴァルヴァラを守らねば、と思った。

アイーシャまだ何やら昔語りをしていたが、アンジェラはもう、ヴァルヴァラの側に戻りたくて仕方がなかったのだった。

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