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六十九話

突如として目の前に現れた、どう見てもシズクの血縁者としか思えない女の子。神事を(つかさど)っていると言っていた通り巫女装束に身を包み、長く伸ばした黒髪を(なび)かせ(たたずん)んでいるその姿は、出会った時のシズクの姿そのものだった。


違うのは胸があるかないかだけで身長も顔立ちも声もそっくりだ。


絶句して何もリアクションを取れずにいると、(くだん)の女の子はいきなり話しかけられたので戸惑っているのだと勘違いしたのか、頭を下げてきた。


「ああ、ごめんなさいいきなり話しかけてしまって。里の外からの、しかも海外の方々を見たのが初めてだったのでつい……」

「いえ……僕らもヤマトノクニの文化には非常に興味がありますし、普段見慣れないものに心が(たかぶ)る気持ちは分かります」


興味がある、と言われたのが嬉しかったのか花のように笑顔を(ほころ)ばせてミコトと名乗った少女はお礼を告げた。


「そう言って頂けると嬉しいです。今日は年に一度の鎮魂祭。まだ屋台が開いている時間ではありませんが準備が整い次第開いていきますからぜひゆっくりしていって下さいね」


両手を握りブンブンと勢いよく上下に振ると、はしゃいだのが恥ずかしかったのかエヘヘ、と照れた笑みを浮かべながら彼女は走り去っていった。



「可愛い子だったなあ」



周りから何の反応もない事を(いぶか)しんで見てみると、皆がじ~っとした視線でこちらを見ている。


「やはり魔獣使い君は女たらしなのかな?」

「まさかテイル君そうやって旅先で現地妻を確保してハーレムを楽しんでいるんじゃあ」

「違うよ! そうじゃなくて、今の子シズクにそっくりで可愛い子だったなあって」


変な疑惑が掛けられたので慌てて否定したのだが、レンカは頬を(ふく)らませてぷいと首を背けた。


「それだったら別に『可愛い』だなんてつける必要はなかったでありますよ」

「そんな、ボクにそっくりで『可愛い』だなんて……///」


う……確かに言われてみれば僕は最初に可愛いとしか言っていない。いや別に変な気持ちがあった訳ではなくて、小さな事にも反応して喜びを隠しきれてない小動物のような様がシズクに似ていて可愛いなと思ったのだ。


しかしそれを語って聞かせたとして薮蛇(やぶへび)にしかならないだろう。これ以上余計な問題が起きる前にさっさと本題に入ろうと、僕はシズクに疑問を投げかける。


「ねえ、シズク。今の子って君の血縁者だよね? 顔がそっくりだったし」

「そうですね。彼女はボクの生き別れた双子の妹です」

「生き別れた……?」

「場所を変えましょうか。少しばかり重い話になりますから」











じっくり腰を掛けられる場所で話そうという事で茶菓子屋の席でお茶を(すす)りながらシズクは語り始めた。


「この地方には昔から伝わる伝説がありまして、山の神ヤマタノオロチを英雄スサノオが退治したというものです」


スサノオという人物はこのヤマトノクニの神話に語り継がれる存在であり、主神であるアマテラスオオミカミの弟で武勇に長けた神であるらしい。


「山の神、といっても守り神とは違い人に災いを(もたら)す恐ろしい祟り神でした。スサノオは自分の兄弟であるツクヨミの領地を荒らすこのヤマタノオロチを退治し、クシナダヒメという妻を(めと)りこの地に留まったと言われています」


そういう経緯があったので、ツクヨミの里という名前がついているのにも関わらずスサノオの子孫であるシズクやミコト達スサノオ家が統治しているのだという。


「今までの話はあくまでも伝説で、実際には少し違います。スサノオの兄弟神であるツクヨミと呼ばれる神こそが山の神ヤマタノオロチと対立していた海の神、(すなわ)ちクラーケンだったのです」

「ぶうーーーー!!」


クラーケンが神、と聞いて思わず茶を吹き出してしまう。そんな僕の様子を見て苦笑いしながらシズクは説明を続ける。


「クラーケンは海、ヤマタノオロチは山、各々の支配領域が被っていなかった事で棲み分けされ平和を保っていたのですが、ヤマタノオロチは山だけではく海も自分の領域にしようと目論んでいたのです」


そうして両者は対立し、クラーケンは邪魔なヤマタノオロチを倒す為の手段を考えた。それがスサノオの存在──兄弟神の力を借りる事だった。


「兄弟神とはいっても実際に血縁関係にあった訳ではなくて、『盟約』によって魂の繋がりを得たんです。陸地に自ら上がる事の出来ないクラーケンはスサノオという仲介者を得る事によって介入する手段を得て、ヤマタノオロチを滅ぼしたのです」

「つまり、実際にヤマタノオロチを倒したのはスサノオというよりかはクラーケンだったと?」


こくり、とシズクは静かに(うなず)いた。あの色ボケゲソ野郎にそんな大変な過去があったとは……。


その後スサノオはクラーケンに協力した見返りとして、人間の味方になる事を了承させ、クラーケンはクラーケンで地上に干渉する為の仲介者としてスサノオの血筋の者と代々盟約を交わしてきたのだという。



「そうしてクラーケンとスサノオ家を初めとした人間達との共存関係が生まれ今日に至る訳です」

「先祖代々君達の家系はクラーケンと盟約を交わしてきたと。そして今代の契約者が君なんだね?」

「はい。ボクは六歳になった時に実家を出てクラーケンとの盟約を交わしました。ミコト……妹とはそれ以降顔を合わせていません」


何処か遠い目をしてシズクは淡々と語る。そうして家族と離れる事になったシズクが年に一度だけ帰省してこっそり顔を見に来るのが、この鎮魂祭の日らしい。


「ヤマタノオロチは恐ろしい祟り神でした。ただ倒すだけでは完全に滅ぼす事は難しい。だからクラーケンはスサノオに命じて倒したヤマタノオロチが復活しないように封印させる事にしました」

「その封印する為の儀式こそが、鎮魂祭?」

「そう。年に一度結界を貼り直しヤマタノオロチの魂を(しず)めること。それにはクラーケンと盟約を交わす仲介者とは別にもう一人適任者が必要なんです。だからなのか、スサノオ家は代々双子の子供が生まれるんです」


それがミコトなのか。片やクラーケンと共に歩む者。片やこの地に留まり続けヤマタノオロチの魂を封じる者。

それは彼等が生まれる前から連綿(れんめん)と受け継がれてきた使命なのだ。



「でもボクは……僕達の代でこの使命を終わらせたいと思っています。ヤマタノオロチを完全に滅ぼし、妹をこの里の外へ連れ出してあげたい」



そう言って遠くを見つめる彼の瞳には静かな決意が見て取れた。それは、妹を呪縛から解き放ちたいと真摯(しんし)に願う兄の顔だった。

クラーケン=ツクヨミという日本神話への冒涜(;´∀`)

暖かい目で見てやってください(^_^;

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