三十六話
「それで、婿殿の名は何と言うんじゃ?」
シェイランが名乗った後必然的な流れとして皆で自己紹介というかそれぞれ名前を名乗った。
「ほほう、テイルとな。竜の儂と巡り合ったのが尻尾とは。はは、これは何やら恣意的なものを感じるのう」
そうして僕が自分の名前を名乗った時シェイランは笑ってそう言った。その時はシェイランの発言の真意はよく分からなかったが、ずっと後になって思い知る事になる。
全てが何者かによって導かれ整えられた道を進んでいたのだという事を。
「それで、何故竜を呼ぼうと思ったんじゃ?」
「え、だからワイバーン達を何とかする為に……」
不思議そうな顔をして聞いてくるシェイランにそう答えるのだが、ますます変な顔になる。
「これは異な事を言うのう。そなたらの力ならワイバーンの群れ如き十分倒せたであろうに。」
「「「え……?」」」
皆がキョトンとしてるのが面白かったのか、シェイランは呵呵大笑としながら言った。
「カッカッカッ、これは面白い。Sランク級の者が揃いも揃って、己の強さも正確に把握しておらんとは。」
「……戦っていれば、倒せたと?」
「そう言っておるじゃろう。まあ、負傷者も死亡者も出さずにという事なら婿殿の取った行動は間違ってはおらんがの」
シェイランの言う通り、僕は一人も退場者を出さないようにと竜神の泉を使って新たな竜を呼び出す方法を選んだ。結果としてシェイランを呼び出しそれは大成功といっていい成果を得た訳だが、それは成功したからこそ言える事で、はっきり言って成功する見込みがあった訳では無い。
あの状況では他に手はないと僕は思っていたが、シェイランの言う通り僕達の力でワイバーン達を十分倒せたというなら、それは彼我の戦力をきちんと把握出来ていなかったという事に他ならない。
何か一つでも間違っていたら、もっと悲惨な状態に置かれていたのかもしれないと思うと自分自身が不甲斐なく思えてくる。
……と物思いに耽っていたら何やら柔らかくて暖かいものに挟まれていた。
「ゴアアアア!! な、何をやっとるでありますか!」
レンカの人間とは思えないような叫び声を聞いて僕は自分の置かれた状況を把握した。シェイランがその豊満な胸で僕の頭を挟み込んでいたのだ。
「『ぱふぱふ』というやつじゃ。人間の雄を元気にするにはこれが一番じゃと聞いた事がある」
「レンカが言ってるのは何でその『ぱふぱふ』を急にやったんだという事だと思うけど……」
「なんじゃ、随分冷静じゃのう、つまらん。婿殿は情欲に流されるタイプではないのじゃな」
この状況で流される奴がいたらそいつは色んな意味で失格だよ……。と僕は呆れ返っていた。一方レンカは自分の胸とシェイランのそれを比べて何やら唸っていた。
「お主のその『ひんにゅー』では挟んでやりたくても出来んのうレンカ」
「け、喧嘩売ってるでありますかこのエロ竜! これから、これから大きく成長するでありますよ!」
「カッカッカッ! そうかそうか! それは重畳、楽しみにしていよう」
「くっ! なんでありますかこの上から目線……キイイイ~~!」
シェイランには別にレンカをバカにしようとかそういう意図はないようだがレンカの方がコンプレックスが刺激されるのか、果敢に神竜に立ち向かっていっている。相手にされていない気もするが……。
「まあ何はともあれ元気になったようで何よりじゃ。落ち込んでいても何も得るものは有るまい?」
「シェイラン、ひょっとしてその為に……?」
「はて、何の事かのう。儂はただ婿殿を誘惑したかっただけじゃ」
シェイランの行動は突拍子もないが、彼女程の力の持ち主にしては過ぎる程に僕達に気を使ってくれているのが分かる。
はっきり言って、僕達と彼女では象と蟻程の力の差がある筈なのだ。気に入らなければ踏み潰す事だって容易い。
僕達は、ワイバーン達から救って貰った事を含め、彼女に感謝しなければならないだろう。
「ありがとうシェイラン」
「ん?」
「仮に僕達にワイバーン達を倒せる力があったんだとしても、僕は無理だと思ってた。そんな気持ちで戦えばやっぱり負けていたと思う。だから、やっぱり僕達が助かったのはシェイランのお陰だよ。ありがとう」
「ふふ、婿殿は素直で可愛いのう」
そう言ってシェイランは僕の頭を撫でた。
「あ、頭を撫で撫でするなんて私でもやった事ないのに……! きいい~!」
「まあ、素直じゃないのもそれはそれで可愛気があるというものじゃがのう」
シェイランは悔しがるレンカを見てそう言った。レンカ、殆ど子供扱いされてるよ……。
「さて、いつまでもここに留まっていてもしょうがあるまい? ひとまず帰るとするか」
シェイランがそんな事を言うので皆が、え、何処に? と疑問符を浮かべた。
「フラム族の集落じゃよ。ワイバーン達の群れが現れた事と言い、ちょっと気になる事があるのでのう。集落の長に会って少し話をしたい」
竜神の泉に関する伝承が間違って伝えられていた件といい色々気になる事があるのだろう。僕達としても族長から与えられた依頼は果たしたのだから、ここはシェイランの言う通り一旦フラム族の集落へ戻るべきだろう。
行きと同じように徒歩で戻ろうとしたのだが、シェイランがそれでは時間がかかり過ぎるから竜の姿に戻り僕達を乗せてくれるという。
(言い忘れていたがシェイランの竜の姿の時は全長10メートルはある。ピピの場合は横幅だけだがシェイランの場合は縦も10メートルはある)
僕はピピの背中に乗り、後のメンバー(ヘルメスとレンカとアイル達フラム族の若者)はシェイランの背に乗って空を飛びあっという間にフラム族の集落へと戻る事が出来たのだった。
レンカは『ひんにゅー』らしいです




