三十五話
場の空気が硬直していた。
圧倒的な竜の存在感にもそうだが、それ以上にその奇天烈な発言の内容に。
「む……? どうした、我が花嫁よ」
周りの反応や空気がおかしい事に気付いたのか、竜は僕に尋ねてきた。
そう、この竜は紛れもなく僕を差して花嫁と呼んでいる。
「誰が花嫁だ! 僕は男だ! いやそれ以前に種族が違うじゃないか」
毎度の事なのだが僕にとっては女の子扱いされるのは非常に心外であり、侮辱される事なのだ。
つい、強気で言い返してしまったが、これで怒らせてしまったらどうしよう。しかし、竜は怒っている様子はない。ただ、僕が男だという発言に自分の耳を疑っている様子が見て取れる。
「もう一度言うけど、僕は男だよ。何故僕を花嫁と呼んだのかは分からないけど、僕を女の子だと思ってここに来たのなら無駄足だったね」
「…………ふむ。どうやら信じられない事に本当に男らしい。こんなにも可愛らしいのに」
竜の額の部分にある縦筋が横に開いたかと思うと、三つ目の瞳が開き、僕を見透かすように視線を送ってきた。
どうでもいいけど可愛らしいは余計だ。
しかし竜は僕が男だと知っても尚堂々とした態度を崩さず余裕たっぷりにこう言い放った。
「心配するな、種の違いも性別も些細な事よ。何故なら……」
すると竜の全身が眩い光に包まれたかと思うと、目の前に全身をゴスロリ風の衣装に身を包んだ美少女が姿を現した。竜の時の肌の色と同じように緑色の髪と金色の瞳をしている。
「人間の姿になる事も、性別を変える事も我には容易い事だからな!」
衣装はロリロリの雰囲気なのだが身体付きは(というか特定の部分が)とても発達しており目のやり場に困る。
「どうじゃ? そなたら人間達はこういう胸のデカいロリータとやらが好みなのであろう?」
それはさすがに決めつけが過ぎると思う。喜ぶのはあくまで一部の界隈の者達、と人間の尊厳と名誉の為に言っておこう。
「いや、それ以前に……貴方は僕を食べに来たのでは? それが何故花嫁とかそういう話に」
「食べる? 何の事じゃ?」
変身した竜の美少女がはて、と首を傾げた。その顔を傾ける仕草が可愛いのがなんか悔しい。
「竜神の泉に供物を捧げると竜を呼べると聞いたから呼んだんだけど」
「供物? 確かに泉に身を潜らせた者は理想の番を呼び寄せるが……」
「理想の番?」
おかしい。何かお互いの話が食い違っている。竜も同じ事を感じたようで、改めて自分が知っている竜神の泉についての情報を話してくれた。
「どうも間違った解釈で伝わっておるようじゃが……竜神の泉は人と竜とが番となり子を成すその前段階……つまり出会いの為に用意された泉なのじゃぞ」
「人と竜とが番って……」
「そんなに不思議な事かの? 強い竜ならば人間の姿になれるし、雌雄同体じゃからオスメスどちらにもなれる。そうやって人と竜とが結ばれて生まれた種族がそなたの後ろにいるフラム族ではないか」
「「「えええっ!?」」」
僕達の会話を聞いていたのか、後方からアイル達の叫び声が聞こえてきた。そんな彼等の反応に竜はまたも首を傾げ、
「なんじゃ、我が婿だけではなくフラム族の者ですら知らぬのか。どうなっておるんじゃ……子々孫々にまで語り継がれてきた筈の事じゃのに」
と不思議そうに言っていた。
「じゃ、じゃあ……竜殿、貴方は泉の力でテイル殿を知り、結婚相手として見初めたのでありますか?」
何故か顔面蒼白状態のレンカがぶるぶる身体を震わせながら竜にそう尋ねると、
「うむ! まさにその通りじゃ!」
と竜が笑顔で頷いた。
「しかし困ったのう。儂は一目でハートをズキューンされてしまったからここまで来たというのに、どうやら婿殿の方は何も知らずに呼んでいた様子……」
「そうだね。だから申し訳ないけど貴方とは」
結婚出来ない、と言おうとした途端唇を唇で塞がれていた。視界が竜の美少女の閉じた瞼と長い睫毛で埋められていた。
慌てて身体を離す。竜の美少女はしてやったり、といった表情で舌舐めずりしていた。
「ちょ、な、何をっ……!」
「ふふ、甘露、甘露……思った通りそなたは極上じゃ。その身に巡る魔力も、身体の強靭さも人間離れしておる。そなたとなら、強い子が産めそうじゃな♡」
「こ、ここここ子ーーーー!?」
鶏のような叫び声を上げてレンカが猛スピードでこちらに向かってくる。僕の身体を竜から引き剥がし、がるるるっと威嚇する。
「て、テイル殿! こいつはとんだ淫乱竜でありますぞ! 近寄ってはいけません! テイル殿の純潔が奪われてしまう!!」
純潔って……だから僕は男だってば。
「ほほう、そなた……その反応はそなたも婿殿にホの字であるな? カッカッカッ! 流石は我が婿殿、その美貌で落とした女は数しれずか! 心配するな、竜族は強い個体には多数の番がつくものじゃ。はーれむというやつじゃのう。儂は何番目でも構わぬ!」
は、ハーレムって……僕もレンカも竜の発言に翻弄されて顔を真っ赤にしてしまう。
「グギャギャギャ!!」
「ギャウウウウ!!」
鳴き声がしたので見てみると周囲をワイバーン達の群れが囲っていた。竜の登場時には怯え惑っていた彼等だったが、どうやら気を取り直して乱入者に文句を付けに来たらしい。
それまでにこやかに会話を交わしていた竜の美少女が、声の質をワントーン下げてぼそりと呟く。
「なんじゃ、無粋じゃのう……人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえという格言を知らんのか」
微妙に間違った格言を口にしながら彼女の表情は剣呑なものになり、
ギロ、と金色の瞳が人間のものから獣特有の縦型のものに変わる。
「去ね」
竜の姿の時に放っていた威圧感をそのままに周囲のワイバーン達に解き放った。ワイバーン達は堪らず逃げ出していく。その凄まじい圧に、僕とピピとヘルメス以外の者は腰を抜かしてへたり込んでいた。
圧だけでワイバーン達の群れを追い払った竜の美少女は再び笑顔に戻るとこう言った。
「そうじゃ。自己紹介がまだじゃったの。儂の名は神竜。この泉を作った竜神の血を継ぐ者じゃ」
こうして、自称竜神の末裔であるシェイランが僕達の前に姿を現したのだった。
ここでハーレムフラグが




