22 茨道
後方を見て、船がかなりせまっているのを見た。確実に射程圏内に入っている。一隻の前方への大砲は数が限られるが、それを船の数でカバーしようというのか。それとも、これは単なる警告か?スペインはまだ、海を制することが可能だと。
命令を出そうとした瞬間、イギリス艦隊に火の手が上がった。次々に燃えていく。本当に一瞬、判断が遅かった。シアーズは舌打ちして舵輪をしっかりと握り、大砲を逸らすように船を蛇行させた。コンパスを片手に、右へ左へと器用に船を操る。燃え盛る船では行き場を失った兵が、海へ飛び込んだ。反撃はしているが、向こうにたいした損害はないようだ。海の中でもがく兵を見て、シアーズはもう助からない、と眉間にしわを寄せた。
「私の部下が……!あいつら、殺してやる……!殺してやる!」
ローランド卿が船の手すりを越えようとした。目が遠くを見ている。シアーズはぎょっとした。
「おい、誰かあのバカを止めろ!腕ずくでできないなら、足の骨折ってやれ!」
シアーズの部下が駆け寄り、ローランド卿を背中から抱え込んだ。
「放せ、私の部下が!死んでしまう!」
二人が前後から羽交い絞めにしようとした。
「放しやがれ、この海賊め、その汚い手で俺に触るなあっ!くそおおっ」
シアーズの部下をひっかき、殴ろうとする。前から抑えようとした者を蹴った。どこにこんな力があるんだ、と怖くなるほどだ。結局三人がかりで押さえつけた。それでも彼はまだ暴れていた。
もがくローランド卿の口から、呻きとも叫びともつかない声がする。屈辱に囚われるような、悲痛さを孕んだ咆哮。獣のようだ。




