20 歪んだ砂時計
「ウィル……!」
シアーズだった。カニバーリェス卿が血だまりの中に倒れているのと、ローランド卿の頬に鮮血が付いているのを確認した。
「また殺したのか?」
「人がいつも見境なく殺しているような言い方をするな」
抑揚の無い声で答えた。
「お前敵にはほんと、容赦ないよなー。敵に回すとあんた、やっぱ怖いぜ。……遅いから心配したんだ。そろそろ限界だ、船が出せなくなるぞ。早く来い」
ローランド卿は剣の血を振り払うと、シアーズについて走り出した。
「船はもう出した、だから崖から海へ飛び込む。船まで泳いでいくんだ。お前はレディに乗れ。俺と一緒の方が動きやすい」
「私の部下は!」
「今のところ、無事だ。全員とは言えないがな」
ローランド卿が悲しげに眉間に皺を寄せる。仕方ない。仕方ないのだ。何かをするには犠牲は付き物。この世の理だ。
シアーズは崖から海へ飛び降りた。崖といっても大した高さはない。ローランド卿も飛び込んだ。イギリスの船が数隻、もう出港していた。周りを見ると、スペインの艦隊が動き出していた。
太陽がまだ、目も眩むくらいに輝き続けている。海へ飛び込んで浮かび上がった時、あまりの光に目が痛くなった。本当にこんな太陽、見たことがない。残像で、目の前に深緑の斑点がちらついた。目を閉じると、それは暗い赤色に変わって、瞳を動かすのにつれて揺れ動いた。
シアーズに続いてローランド卿も海へ入る。海は冷たかった。水を吸ってだんだんと服が重たくなる。下へ引っ張られる。限界に近い力で、必死に水をかき分けた。
何のために生きようとする?あの女王に忠誠を誓うほどの価値はあるのか。自問自答してみても分からない。だが、一つだけ確実に言えることがある。死んでいった部下は、何を守ろうとしていたか。上官であり、命令を出した責任を俺はとらなくてはいけない。




