序、呼ばれなければ行けない小屋
手入れされていない山の中、草を掻き分けながら進む、四人の少年の姿があった。
乾いた土を跳ねる靴の音、騒がしい蝉の声。木々は高く葉は繁り、覗く陽は時々しか姿を見せない。
山の中は空気が澄んでいて、少しひんやりしている。
天気は曇りだ。この辺りでは虫の声が少し遠い。
そのせいか、どこか陰鬱で不気味な気配が漂っている。
一人の少年がはしゃぐように声を上げる。だが、呼応する子供たちの声は、なんとなく上滑りしていた。
獣道が途中で途切れた。
その先は、丈の長い草が倒れている箇所を、目印として進むしかない。
呼ばれなければ行けない小屋がある。
少年たちの中で語られる怪談の内の一つだ。
そこで何が見られるのか、肝心なところは語られない。
小屋を見た者は中に入らず帰るのかもしれないし、そもそも小屋なんて存在しないのかもしれない。
少し開けた場所に出た。
こんもりと生い茂る木々の葉が、日光を遮るためか、この辺りの草の育ちは悪い。
タブノキや薮椿の間を潜るように抜けていくと、合間から白く煤けた瓦屋根が見えた。
小屋だ。
進むにつれ、全貌が見えてくる。それは小屋というより、あばら家に近かった。
「ほんとにあった」
驚いたようにそう言ったのは、四人いるうち、そばかすのある赤ら顔の少年だ。
後ろでは、他の子供たちが興奮して騒いでいる。
あばら家には正面に窓がなく、朽ちた扉が入り口に斜めに立て掛けられていた。
中は土間になっていて奥に畳一畳分ほどのスペースが小上がり状になっている。
床板は干からびて白みがかり、ところどころ湿気で浮いていた。野ざらしも同然の床に、茣蓙が二枚敷かれている。
破けてところどころイ草が飛び出していた。
その上にポツンと祠が置かれていた。
こちらも朽ちてはいたが、あばら家ほどではなく、湿気で膨張し波打った紙垂の奥の扉は、閉ざされたままだった。
あばら家の朽ちように比べれば、祠はまだ形を保っていた。
窓もなく、陽を遮る薄暗い屋内において、それはぼんやりと浮かんで見えた。
異様な光景に怯む彼らの中で、坊主頭の少年が室内に足を進める。
「なんだ、こんなもんかよ。大したことねぇな」
短パンから伸びた浅黒い足が、たたらを踏んだ。
必要以上に声を張っている。だが、語尾は少し震えていた。
「神様がいる。入っちゃダメだよ」
そばかすの少年は慌てて、先を行く坊主の少年の肩を掴んだ。
「こんなところに神様がいるかよ。どうせ中は空っぽだ」
強がる彼の威勢に押されたのか、残りの二人の少年も「そうだよな」「お前、ビビリすぎ」と、幾分か普段の調子を取り戻した。
元来、お調子者の手合いだった。
「呼ばれなければ行けない小屋があるらしいぜ」
最初にそれを言い出したのは誰だったか。
その怪談じみた噂は割と有名で、長い夏休みに退屈していた少年たちの興味を引くには、充分な話だった。
要は肝試しだ。
軽い気持ちでやって来た少年たちは、まさか本当に存在するとは思っていなかった。
興奮と同時に、空恐ろしさも感じていた。
小屋などないと大人は言う。
俺は見たという者もいる。
中に入らなければ大丈夫だよと言う者もいるし、あれに呼ばれれば引き寄せられると言う者もいる。
ならば自分たちは引き寄せられたのではないだろうか。
そばかすの少年は怖気立つ。
坊主の少年が祠の戸に手をかけ、邪魔になった紙垂を無造作に引きちぎる。
「ねぇ、やめようよ」
そばかすの少年が駆け寄り、坊主の少年の手を掴んだ。
「大丈夫だって」
そばかすの少年が食い下がる。
「やめろってば!」
「なんだよ、離せよ!」
揉めるうちに、坊主の少年が勢いよく手を振り払う。
その瞬間、祠を薙ぎ倒す派手な音が響いた。




