裏庭の「実験室」と、憧れの場所へ
「警告、エラー修正、ステータス解放……。これらはすべて、俺が『バグを見つけた』ことに対するシステム側の防衛本能かあるいはお礼としての報酬なのかな?」
頭の中で鳴り響いた電子音声の残響を反芻しながら、俺は実家の古びた裏庭に立っていた。
この裏庭は痩せていて作物の育ちが悪く、母さんは毎日ため息をつきながら、泥のついた服を手洗いしている。
人気が少なくなってきた夕方頃
「……まずは、この土地の『不純物』を洗うか」
俺は地面に手をかざした。【パーフェクト・ウォッシュ】の術式を微調整し、地面へ流し込む。洗浄の概念を「汚れ」から「土壌の悪性」へシフトさせるイメージだ。
『合成候補を確認』
『【洗浄】+【水生成】+【温熱】をベースに、さらに【土壌分析】を調整……』
俺の脳内で、新たな術式を紡ぎ出す。
ふわりと、手元に淡い緑色の光が集束した。
『――新スキル【土壌活性】を生成しました』
光が地面に吸い込まれると、成長に邪魔な雑草類は取り除かれ、痩せ細っていた裏庭の土がまるで生き物のように色づき始めた。
枯れ草は瞬時に豊かな腐葉土へと変わり、地中に眠っていた種子が、数秒後には芽を吹き、驚異的な速度で茎を伸ばしていく。
魔法の世界の植物は環境の影響を大きく受けるのか土の質がよくなった途端成長し始める。
「よし……これで作物がよく育つようになり、我が家の家計の足しになる」
父と母には草むしりと肥料をまいて土壌の質をよくなるよう頑張ったと伝えよう。
こうした「日常的な貢献」を積み重ねることで、俺が外で何をしているかに対する両親の疑念を逸らす。
農業という真っ当な隠れ蓑があれば、5歳児が外を歩き回っていても、怪しまれる可能性は低くなるはずだ。
俺はフフッ、と鼻を鳴らした。
ステータスウィンドウを閉じる。目の前には、みるみるうちに成長する野菜の芽。
突出した才能なんていらない。裏庭の土をいじる程度の『最弱』を演じながら、俺は着実に俺だけの『最強』を積み上げる。
「さて……次は、この小さな手で、どうやって冒険者ギルドへ向かうかだな」
この辺りの町には冒険者ギルドがある。ダンジョンから溢れ出す魔物に対処するため、世界各地に設置されている場所だ。
ギルドカードさえ発行してもらえば、討伐記録や報酬の管理がすべて自動で行われる便利なシステムがあることは、以前父のお使いで訪れた時に町の人々のカードをチラ見した際に知識として得ていた。
簡単な薬草採取などもクエストとしてあるため、小さな子供でも登録可能、という点も確認済みだ。
「……ついに、だな」
前世でラノベやゲームで登場するファンタジー世界で冒険者といえば定番の存在。
その冒険者の活動を支援し、管理する「冒険者ギルド」。
知識としては知っていても、そもそも今世でまだ5歳、ギルドにきたことは数回のみであり、自分一人で向かうのは初めてだ。5歳の身体の中で、高揚感が抑えきれずに跳ね上がる。
……いや、待て。ここで浮き足立ってはいけない。
(俺は『ただの農家の子供』。ギルドに足を踏み入れるときも、あくまで『冒険者に興味津々な子供』のロールを演じ切る必要がある)
俺はわざとらしく、少しだけぎこちない足取りで家の裏口から町へと繋がる路地へ出た。
心臓が期待で早鐘を打っている。魔力がMP枠の180を越えて高ぶっているのがわかる。
周囲の目を気にしつつ、俺は胸の奥で不敵な笑みを浮かべた。
ダンジョンはすぐ近場にある。ギルドへ登録さえ済ませれば、俺の「本当の冒険」は、この小さな5歳の身体と共に幕を開ける。
夕暮れの町を歩きながら、俺は冒険者ギルドの看板を目指して、初めての冒険へ一歩を踏み出した。
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