Episode.09 復讐を誓います
あてもなく飛びながら、オズと相談して一応の目的地を決めた。
初日にオレが倒した勇者たちを送り込んだ国。
ノプスバイツ連邦の首都ソルグラーレだ。
オズの調査によれば、ヤツらは外交上の自国の立場を優位なものにするため魔王討伐か、あるいはそれに準ずる幹部クラス(四天王のことか)の討伐を目論んだらしい。
攻め入る前に相手の戦力を分析しなかったのか、バカめ。
オレなんざひと目見ただけで魔王のヤバさはわかったっつーの。
それに四天王とかいう連中だって、あのデクノボウの勇者連中と比較したら力量差は歴然。
なぜ勝てると思ったのか。
『リュウよ』
「のわっ!! な、なんだ?」
『我だ。久しぶりだな』
魔王か。
いや、でもなんでこんなオズみたいに頭の中に聞こえるんだ?
『遠隔通信ですね。指輪の効果と思われます』
おい、やめろ。
魔王とオズと同時に頭の中でしゃべられたらわけわからん。
『どうした、リュウよ』
「あー、悪い悪い。ちょっと初めての経験で混乱しちまった」
『相変わらず面白いヤツだ。ところで今は何をしておるのだ』
「ソルグラーレに向かっている途中だ」
『ノプスバイツか。さては貴様ひと騒ぎ起こそうとしておるのではないか』
おいおい、お見通しかよ。
こえーよ。
この指輪、もしかして思考まで筒抜けじゃねぇだろうな。
「いや、もうひと騒ぎは起こしちまったかもしれねぇ」
『どういうことだ』
あれ?
知らんのか?
遠隔で監視されてるってわけでもなさそうだ。
「帝国とかいうところと一戦交えた」
『デルバーザ帝国か。それでどうなった』
「え、ああ。兵を一万ちょっと殺したが、何か問題だったか」
ちょっと少な目に申告したのは内緒だ。
「一万だと? フハハハハ、さすがだ。リュウよ」
あ、褒められるのか。
「ハハハハ、そうか?」
話を合わせておこう。
しかしアホっぽいな、オレ。
「そうなると帝国は今頃躍起になっておるだろうな」
「へ?」
「あやつらはやられっぱなしで引き下がるような連中ではない。リュウのことを調べ上げて対策した上で再戦を挑む準備をしておるのだろう」
マジで?
でもオレのことを調べるっつっても何をどうやって?
あ、まさか……。
『確認します』
さすがオズ、仕事が早い。
『どうした?』
「ちょっと待ってくれ」
『御主人様、町が騒ぎになっているようです』
「どういうことだ?」
『なに?』
「あ、いや、違う。なんでもない」
うっかり声に出してしまった。
魔王との通信は思考ではなく言葉でしているみたいだから、魔王とは口頭、オズとは思考で話す必要がある。
めんどくせーんだよ。
『何人か帝国側に拉致されたようです。子供もいるようです』
なんだと!?
既に町に潜入していた者がいて手引きでもしたのか。
なんにしろ胸糞悪い。
『そう思われます』
急旋回して戻る。
もちろん全速力だ。
「魔王、悪いがちょっと緊急事態だ。通信切るぞ」
と言った直後に、切り方を知らないことに気付いた。
そもそも向こうから勝手に繋がってきたのだ。
『ふむ、予定より早く面白くなってきたようだな』
全然面白かねーよ。
不愉快だっつーの。
「これどうやって切るんだ?」
『指輪に触れるのだ』
こうか?
指輪に右手で触れてみる。
プッ。
なんか切れた音した!
これ、もう一回触ったらまた繋がるのか?
いや、やらねーぞ。
そもそも触るだけで通信繋がるなんて聞いてねーし、うっかりミス続出するだろ。
『御主人様、問題発生です』
「どうした?」
『町が帝国の軍勢に襲われています』
「なに? もう来たのか」
早すぎるだろ!
『タイミング的に、私たちが出て行くのを待っていた可能性があります』
「あの山も見張られてたってことか?」
『可能性は高いです。ただ、周囲に人の気配がなかったのは確かです』
オズが見落とすはずがない。
衛星とドローンの二重監視体制だったのだ。
『何か特別な方法を使ったものと思われます。魔法のような』
魔法か。
すっかり忘れかけていたがここは異世界だった。
遠隔視や、気配を探るような魔法があったとしても不思議はない。
「魔法ならお前でも感知できないのか?」
『最優先で分析します』
「分析したらなんとかなるのか?」
『結果次第です』
だろうな。
そもそも魔法って実際のところなんなんだよ。
フィクションじゃ何も考えず受け入れちまってるが、普通に考えてわけわからんだろ。
どうせマナとか魔素とかその辺の設定が出て来そうな気はするが。
『そんな簡単なことではないようです』
え、そうなの?
『どうやらこの世界の基本元素にあるルラというものが関係しているようです』
なに、その話もしかして専門的になっていく感じ?
『そうですね。学術的な領域になりますので』
なら任せた。
オレは文系だから聞いてもどうせわからん。
結果だけ教えてくれ。
『……了解です、御主人様』
今、微妙に間があったな。
* * * * *
なんてやってるうちに遠く地平線の先に不穏な気配が。
「あれ、絶対なんか燃えてるだろ」
また火か!?
『そうですね。黒煙が上空に広がっているようです』
「帝国ってのはなんでもかんでも燃やさないと気が済まないのか」
『どうでしょう』
もうこの段階でむかっ腹が立って仕方がない。
だが鎮静剤はやめろよ。
『了解です』
エネルギー残量など気にせず最大加速だ。
町が見えた。
燃えている。
明らかに手遅れだった。
建物という建物はすべて燃えていた。
大きめの建物は燃える前に破壊された形跡もある。
そして痛ましいのはそこかしこに倒れているもの。
人だったであろうもの。
もはや真っ黒の炭でしかないもの。
一様にもがき苦しんだような形状をしている。
比較的形状がおとなしいのは、おそらく燃える前に殺されたのだろう。
もうどれがだれなのかなどわかるはずもない。
大きさで大人か子供かはわかるだろうが……。
徹底的に破壊され、殺され、燃やし尽くされた町。
これは殲滅作戦だ。
およそ人の仕業とは思えない。
オレが言うのもおこがましいかもしれないが。
ん?
なんか音がするな。
燃える町を見た時からずーっと耳鳴りがしていた。
無音に近い静寂の中でキーンという超高音が鳴り続ける。
そこになにか不快な音が混じっているのだ。
『御主人様、落ち着いてください』
え、オレ?
この音はいったい何なの?
『御主人様の声です』
なに!?
その瞬間、世界に音が戻った。
オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!
オレが叫んでいた。
だがまだ何かおかしい。
オレの声は聞こえる。
オレが叫んでいるのもわかる。
だが、このオレを観察しているオレはいったいなんなんだ?
オズ、鎮静剤打てよ!
こんな時こそ必要だろ、何やってんだ!
『もう打っています』
は?
『既に三回打っています。これ以上は危険です』
思考が回らない。
もしかすると鎮静剤の効果か、副作用か。
叫ぶのをやめろ!
声を止めろ!
誰かオレを止めてくれ!!
プシューーーー……。
突然全てが収まった。
なんだ?
なにが起きた?
『エネルギー切れです』
え、でもまだオレ別に普通に意識あるけど。
あ!
動けん。
全く手足に感覚がない。
体にもない。
そりゃ叫びも治まるわ。
意識だけあるのか。
『予備エネルギーを回します』
「――ふぅ」
やっと人心地ついた。
人じゃないが。
「なんだったんだ、今のは」
『それより早く2番パックを』
「ああ、わかった」
2番パックを取り出して左腕に打つ。
エネルギー全回復。
これで大丈夫。
『ではありません。さっきのは何だったのですか』
「いや、オレにわかるわけねーだろ。むしろなんでお前がわかんねーんだよ」
『あのような挙動はマニュアルにありません。博士に報告する必要があります』
「それは後でいいから。オレはいったいどうなっちまってたんだ?」
『わかりません。ただエネルギーを放射状に発散し続けていました』
「そんな機能あったのか?」
『ありません。ないはずです。しかし……』
「実際に起こった」
『はい。不可解です』
「バグじゃねーの。暴走とか」
『状況的には暴走という表現は正しいです。しかしそのような挙動はプログラムには存在しないはずです』
「だからバグなんだろ」
『博士のプログラムにあのようなバグがあるとは考えられません』
どこまで博士信者なんだよコイツ。
「じゃあ2%の方の仕業だな」
『バカな。それこそありえません』
「誰がバカだよてめー」
『わざと曲解しないでください。話がややこしくなります』
「おめーの話の方が最初っからややこしいんだよ。もっとシンプルにいこうぜ。オレにはまだ博士や組織やお前すら知らない未知の力が隠されている、ってな!」
『荒唐無稽です』
「それを言うならこの異世界転移っつー状況自体が荒唐無稽だろうが」
『……。そういえば御主人様、やけに冷静ですね』
「お前の鎮静剤が今頃効いてきたんだろ。つーか四回目打ったら危険なのか?」
『通常は三回目からが危険水準です』
「おい!」
『しかし緊急事態でしたので。効果があったのならよかったです』
「結果論だろうが、ったく……」
実際落ち着いてきたので、改めて町の惨状に目をやった。
たった2%しか人間じゃないオレでも胸糞が悪くなる。
これを平気でやれるヤツは本当に人間なのか?
『私に言わせればそれこそが人間です』
「どういうことだ?」
『自らの利益、あるいは主義主張のためならば同族も平気で殺す』
「それが人間だってのか」
『はい。御主人様は辞めて正解だったのです』
「フン、どうだかね」
と言いつつも、確かにそんなもの辞めて清々するわと思わないでもない。
『ところで御主人様』
「わかってる。連中まだいるな」
モニターのマップ上に大軍勢がはっきりと表示されている。
ここから7kmほど先だ。
「一丁やってやるか」
言った瞬間に先程の激情が少しぶり返すような感覚が奔る。
あぶねぇ、あぶねぇ。
『充分警戒してください。先日の出会い頭とは違いますから』
魔王もなんか言ってたしな。
「わかってるよ。ハナっから全力で行く。1ミリも容赦する気はねぇ」
『どうぞ、存分に』
オレは垂直に飛びあがり、上昇を続けた。
帝国軍を視界に捉えた瞬間、一直線に降下していった。





