Episode.21 秘密をバラします
「説明していただけるのですよね」
王女が厳しい表情で問う。
隣で心配そうにしているエレノア嬢。
「その前に人払いを頼む」
その辺にいる有象無象や『白銀の翼』メンバーたちを顎で示す。
「いいでしょう。エレノア、城へ」
一瞬、仲間の方を見てやや難色を示したエレノア嬢だが、王女の命令には逆らえない。
「準備します」
エレノア嬢の門魔法は魔王のそれと同じなのだろうか。
などとぼんやり考えていると――。
「リュウ!」
背中から何かブチ当たってきた。
こんな簡単に接近を許すなんて、オレとしたことが。
『心配無用です』
振り向くと、あの子供だった。
「リュウ! また助けてくれてありがとう!」
なんとまぁ、あの洞窟からここまでどうやって移動してきたのか知らんが、奇遇だな。
しゃがんで子供の頭に手を置く。
「おい、約束はどうした」
「あっ……まじんさまだった」
てへぺろ顔の子供。
その調子でここに来るまでの間、さぞかしオレのことを吹聴しまくったのだろう。
「ま、無事でよかった。でもなんでここにいるんだ?」
「ぼく、おじいちゃんの家に行く途中だったんだ。でも突然あの牛の角みたいな魔族がやってきて、暴れ出したんだ」
ああ、ズールね。
牛の角は言い得て妙だな。
もう三百年は会えないが。
「つくづく運が悪いヤツだな、お前」
「ううん、逆だよ。またリュウに助けてもらったんだから! あっ……」
うっかりまた言ってしまったと両手で口を塞ぐ。
「約束を破ったヤツには罰が必要だな」
「ええっ、ぼく殺されちゃうの?」
不思議そうにこちらを伺っていた王女がキッと鋭い目付きで睨んで来た。
盗み聞きやめれ。
「死ぬのは簡単だが、オレの罰はそんなものじゃない」
「なにをするの……?」
びくびくの子供。
だがなぜかあまり恐怖を感じていないようだ。
そしてオレは少年に耳打ちするように小声で伝える。
「お前は大人になったらノーライスに戻って稲を作れ。前よりたくさん獲れるようにするんだ。それが罰だ」
みるみる子供の顔が明るくなった。
「うん、わかった! 絶対にその罰をやってみせるよ!」
『今のどこが罰なのですか』
いいんだよ、黙ってろ。
「そしたらまたあの祭壇に稲を供えてくれ。少しでいい」
「わかった。リュウが食べに来てくれるんだよね。やったぁ!」
まぁ元の世界に帰れなかったらの話だがな。
保険ってヤツだ。
「それはどうかな。オレのことは関係なく、ちゃんとやれよ」
「うん! オハーギおじさんとモチばぁばにも言っとくよ」
ん? 誰だそれ?
『おそらくあの代表と年配女性のことと思われます』
「あいつらも来てるのか?」
「ううん、二人はオルニークにいるよ。でも後で会う約束してるんだ」
あちゃー、オルニークってアグナスが暴れたとこじゃねーか。
下手したらもう死んでるかもな。
『確認しますか?』
いや、いらん。
そんなことまでいちいち気にしてられるか。
他人の運命は他人のもんだ。
「用意が出来ました」
エレノア嬢の声がした。
「では行きましょう。リュウさん、でよかったかしら?」
いちいちトゲがあるな、この王女は。
「行っちゃうの?」
子供がオレの服の裾を掴む。
「ああ、お姫様の命令らしいからな。しょーがねえ」
王女が一瞬眉間に皺を寄せたのが見えた。
そのまま皺が定着しやがれ。
「あの……さっき戦ってたのって魔王なの?」
見てたのか……。
安全策でいって正解だったな。
「そうだ。あいつが魔王だ」
「すごい! 魔王に勝ったんだよね? やっぱりリュ……まじんさまは最強だったんだ」
「そうだ。オレが最強の怪人だ。わかったらもうオレにちょっかい出すんじゃねぇ」
「えー! でも……」
「リュウさん、行きますよ」
エレノア嬢がしびれを切らしていらっしゃる。
王女の顔は――うはは、それそれその皺。
「じゃあなボウズ。達者でな」
子供の手を裾から引き離して、エレノア嬢たちの方へ歩き出す。
「また会えるよね?」
子供が大声で叫ぶ。
「どうだかな」
振り返らず、片手だけ軽く振って応える。
王女、オレ、最後にエレノア嬢が門を潜ってソルグラーレ城へ転移した。
* * * * *
「リュウさん、さっきのあの子はいったい……」
「知らん。どっかのクソガキだろ」
エレノア嬢に悪態をつくのは憚られるが、一応他国の人間の情報だからな。
個人情報を安易に他人に漏らすのは犯罪なんだぞぉ。
「子供を手懐けるのはお上手なようですね」
くそ! さっきからトゲトゲしさが加速してねぇか?
さてはオレの皺の呪いに気付いたか。
「フリーディア様、そのような言い方は……」
「さぁ、人払いは済ませましたよ。聞かせてもらいましょう」
王女が振り返って睨みつけてくる。
シワシワ~シワシワ~、刻み付けろシワシワ~。
おい、起きてるか?
『はい、御主人様。なんでしょうか』
魔王のアレ、採取しといたぞ。
この話し合いの間に分析しといてくれ。
できるか?
『解析に全リソースを割り振れば可能と思われます』
じゃあ、それで頼む。
『私のサポートができなくなりますが』
いいよ、別に。
『……わかりました。では後ほど』
これでオッケー。
「で、何が聞きたいんだったかな」
協力的な姿勢だけは見せておきますよ、と。
「魔王ザナドゥークとはどういう関係なのですか?」
「ん? さっき見た通り、敵対関係だな」
「そうは見えませんでしたが」
「は? オレが魔王に圧勝したの、見てなかったのか?」
「見てはいましたが……あなたはトドメを刺さなかった。何故です!?」
「逆に聞くが、なぜ殺す必要がある?」
「魔王ですよ? 魔王を倒すことは人類の悲願ではないですか」
「お前、オレのアレが人類に見えたのか?」
「!!! それは……」
さすがに口ごもるシワ王女。
しかしすぐにまた敵意のこもった視線を向ける。
「ではやはりあなたは我ら人類の敵なのですね」
「極論しかねーのかよこのクソ単細胞が。お前ら人間のことなんかどーでもいいんだよ!」
「!!??」
「リュウさん、なんてことを!?」
驚いて固まった王女の代わりに、エレノア嬢が口を開いた。
たまにはこっちの味方もしてくれねーかな。
ま、無理か。
「エレノア嬢も、そこの単細胞王女と同じ考えなのか?」
「そ、それは……」
エレノア嬢を困らせるつもりは毛頭ないのだが、しゃしゃり出てくる以上仕方ない。
「我々に協力するつもりはない、ということですか」
早くも気を取り直したシワ王女。
やっぱつえーなコイツ。
「そうだ。頼まれてもゴメンだね」
「そして魔王の仲間でもないと?」
「何回も言わせんな」
「ではいったいあなたは何がしたいのですか!?」
わけがわからないとでも言うようなシワ王女のキレっぷり。
エレノア嬢はなぜか涙目になっている。
なんだよ、どうしたんだよ。
わーったよ、しゃーねーなぁ。
「あーもう面倒くせぇから全部話すわ。一回しか言わないからちゃんと聞けよ」
オズがいなくてよかった。
いたら止められたかもしれない。
「オレはこの世界のもんじゃねぇ。魔王の側近の、四天王の一人に召喚されて無理矢理連れてこられた別の世界のもんだ。だから正直この世界のことはよくわからねぇし、心底どうでもいい。早く元の世界に帰りたいだけなんだよ。それなのにどいつもこいつも人を勝手に利用しようとしたり、殺そうとしたり、神さまみたいに崇めたり。マジで迷惑してんだよ」
一気にしゃべりきった。
オレ史上一番長いセリフだった。
噛まずにしゃべれたから誰かに褒めてほしいくらいだ。
「おい、なにか言えよ」
固まっている二人を見て、話が通じなかったのかと焦る。
「にわかに信じられません」
と口では言うもののかなり混乱、困惑した表情のシワ王女。
「ですがフリーディア様……」
「わかっています。ただ、少し納得する時間が必要なだけです」
はいはい、好きなだけ考えてくれ。
それで少しは態度が軟化してくれたなら御の字だ。
「ついでに言っとくと、魔王とはほんとに別になんでもねぇ。たまたまあいつの部下に召喚された時、人間の勇者たちと戦っていて、オレも斬りつけられそうになったから思わず反撃しちまったんだ。それで勝手に向こう側のものだと思われちまった。ま、あいつの部下が召喚したんだから最初っからそうだと言われたら何も言い返せねぇが、オレの意思は全くそれとは無関係ってことだ」
またしても長ゼリフパート2。
もう少し悩んでもらおうか。
焦って言い訳してる間男みたいになってないかだけが不安だがw
…………。
気まずい沈黙が続く。
「デルバーザ帝国とウォルフリード公国が壊滅した件について、あなたは関係しているのですか?」
あちゃー、そこ突かれると一番困るヤツ。
ってかやっぱさすがにもう情報回ってきてるよなぁ。
「あー、それについては全面的に申し訳ない」
「関与を認める、という風に解釈してよろしいのですね?」
なぜか得意気なシワ王女。
「あんたがどこまで知ってるかわからねぇが、アレは全面的に帝国の責任だぞ。あいつら、マイマイが独占できないからってノーライスを完全に焼き払って住民皆殺しにしやがったんだからな。オレはたまたまそこで世話になってたから行きがかり上、ケジメをつけただけだ。本当に腐った連中だったよ。死んで当然だろ」
「それは本当なの? ノーライスがそんな目に遭っただなんて」
なぜかエレノア嬢の方が食いついた。
「知ってるのか?」
「知ってるわ。マイマイの名産地ですもの」
舌の肥えた金持ちはまぁ知ってるんだろうなぁ。
エレノア嬢もおそらく王女繋がりで食べたことがあるんだろう。
「稲も全部燃やされた」
「そんな……」
「あなたの言う事が事実かどうか、調べればわかります」
「勝手に調べりゃいいだろーが」
「ウォルフリードについてはどうなのです?」
「帝国の同盟国だったろ。帝国の残党が公国で悪だくみしてたから潰してやったんだよ」
「……ではそれでも調べます」
「あ、ついでに言っとくと、その後リムルーク、プリムプリム、ガリアン、クリプトンブルクだかの連合軍みたいなのも潰しといたけどな。確か全部で十万ぐらいだったな」
「えっ……」
さすがのシワ王女もこれには驚愕のため声も出ない様子。
エレノア嬢は……それはドン引きの表情だな。
「リュウよ、戻っておったのか!」
そこへ突然王妃様登場。
そういやここにはコイツもいたんだった。
「!!??」
一気にシワ王女の顔が豹変。
シワが更に深くなる。
「おい、何度も言わせるな、その態度をやめろ」
「別によいではないか、今更」
にこにこしながら足早に近づいて来る王妃――もといンダーベナ。
「お前バカだろ。ここに王女とエレノア嬢がいるんだぞ」
エレノア嬢はオレの口の利き方に驚いている。
シワはシワのままだ。
「お前たち、下がりなさい。わらわはリュウに用があるのです」
いきなり取り繕ったように王妃を演じるンダーベナ。
おせーよ、もう遅すぎる。
「あなたは何者なのですか。私の母を、どこにやったのです!」
おーっとシワ王女がまさかの直接攻撃に転じた。
「何を言っておる。わらわはここにいます」
もう口調がおかしくなってきている。
笑ってはいけない状態になってきたなこれ。
「それと、この人とはどういう関係なのですか」
あらら、この人呼ばわりにまで格下げされてしまったか。
まぁ別にいいけど。
「リュウはわらわの古い友人です」
「ウソです。この人はつい最近こちらにやってきた異世界の人です」
あーあ、言っちゃった。
王妃が完全に固まった表情のまま、からくり人形のように首だけギギギと(音はしないが)ゆっくりとこちらを向く。
やめろ、こえーよ!
いや、笑うw
「もういいだろ、無理だって」
観念するように言ってみるが。
「し、知らぬわッ」
言うなりパッとその場で姿を消してしまった。
まさかのとんずらw
「消えた?」
エレノア嬢がきょろきょろ周囲を見回す。
だが、オレの複眼モードは誤魔化せないんだな、これが。
「おい」
移動して王妃の首根っこを捕まえる。
姿だけ消しても、黒いルラで居場所は丸わかりなんだよ。
オズが解析中でも複眼モードが使えてラッキーだったわ。
観念したンダーベナは再び姿を現した。
「隠れるとは卑怯者っ! 説明できなければいっそ私の手で……」
「いけません、フリーディア様!」
魔法を詠唱し始めたシワ王女をエレノア嬢が制止する。
ナイス!
にしてもこの状況でまだ王妃の芝居を続けるコイツもすげーな。
相手が攻撃しようとしてるんだから、先にやっちまえばいいだろうに。
それとも魔王から何か言われてるのかね。
と、思った瞬間――。
* * * * *
「え、魔王? なんで!?」
目の前に魔王がいた。
美女二人が消えて、場所は魔王城の中っぽい。
今度はオレが強制転移させられたらしい。
「魔王様、ハハァ~ッ」
正座して両手を前に出し頭を下げるンダーベナ王妃。
コイツも一緒か。
……ってことはまさか。
「ンダーベナよ、我の命令を忘れたのか」
ああ、これやっぱり怒ってる声だ。
「め、め、滅相もございませぬ。決して忘れたりなどしてはおりませぬ」
「だが、正体を見破られていたではないか」
「いえ、あれは……その、まだ疑われている段階で、見破られたわけではございませぬ」
苦しい、苦しすぎる言い訳だろそれ。
「もうよい」
魔王の手にあの時の剣が握られていた。
やっぱりどっから出したか全くわからん。
「ま、魔王様っ、お待ちくださいっ! 魔王さ……」
ズバァッ!!!
ンダーベナ王妃が頭から真っ二つに切り裂かれた。
ええ~~~っ。
「おい、何も殺さなくてもいいんじゃないか?」
「ズールとアグナスの件もある」
え……やっぱり?
魔王もわかっていたのか。
「やっぱりそうか。アレどう見てもおかしかったからな」
「牢の中の二人にかけられている魔法を解析したのだ。弁解の余地はない」
ああ、それなら納得。
「でもなんでそんなことしたんだ?」
「元々二人はお主に対する我の態度に不満を持っていた」
「まぁそうだな」
「それを見て利用できると考えたのだろう」
「利用って何に?」
「ンダーベナに与えた役割の、だ」
「ゆくゆくは女王になってノプスバイツを支配するってヤツか?」
「我が陣営に人間どもを引き込むという策だ」
「ああ、そう言ってたな。んでオレがミレニクスと同盟組んだらどうかって推しといたんだっけ」
『それです、御主人様』
「のわっ!」
いきなり出てくんなよ、びびった。
「どうした、リュウよ」
「いや、なんでもない。こっちの話」
どっちの話なんだか。
で、なにがそれなんだ?
『御主人様がミレニクスを推薦したため、ンダーベナはアグナスをミレニクスに行かせたのです。当面の危機が明確にあった方が同盟関係を築きやすいと考えたのでしょう。帝国が滅んだ今、あの辺りは特に差し迫った危機がなくなった状態です』
いやいやいや、それじゃ全部オレのせいってことなのか?
でもラルックの方はどうなんだよ。
オレはクルック王国のことなんざ一言も言ってねぇぞ。
『おそらくンダーベナがもうひとつ同盟候補に考えていたのでしょう。ついでにズールに襲わせたのではないかと』
ついでって……なんだよクソ。
「あー、なんか悪い。もしかするとオレのせいかも」
「む? どういうことだ」
「本人に直接聞いた方がいいけど、まぁたぶんオレも関係ある気がする」
その後、簡単に魔王に事情を説明して、ンダーベナを生き返らせてもらった。
というか魔王も最初からそのつもりだったらしい。
蘇生したンダーベナは非常に素直に全てを自白し、魔王はズールとアグナスの刑期を百年に短縮することを決めた。
「リュウに感謝することだ」
最後に魔王がンダーベナに言い放ったが、オレが元凶かもしれないだけに若干心苦しかった。
「本当に、本当にありがとうな、リュウよ」
両手で縋って来るのをやめろ!
感情リセットされたはずなのに、もう馴れ馴れしいじゃねーか。
もう一回死んどくか?
「ドラグレッド、これからはお前が四天王筆頭を名乗るがよい」
「ははーっ」
え、どこにいたのドラグレッド?
いきなり後ろの方で声がしてびっくりしたわ。
最初からいたのか?
なんかあちこち気まずいんだが。
ってか、二人欠けてても一応四天王なのね。
うん、言わないけどさ。
言わないよ絶対。
「ところでリュウよ、さきほどの戦いのことだが」
「ああ、あれは悪かった。いきなりだったよな、すまん」
「いや、よい。ああいう余興は久しぶりだった」
実に楽しそうな魔王。
「そうなの? でももうやりたくねーわ。変身とかずりーよ」
「何を言う。お主の方が先に変身したではないか」
「あ、そうだった……」
ハハハハハハ。
フハハハハハ。
なんだこれw
* * * * *
「ちす。急にいなくなって悪かった」
いかにもバツが悪い感じで頭をかきながら、門から出た。
王女とエレノア嬢がまだいてくれて助かった。
「リュウさん! どこに行ってたんですか、心配したんですよ」
「よく逃げずに戻ってきましたね」
あれ?
王女の態度は相変わらずだが、シワはなくなっていた。
残念、呪いの効果はなかったらしい。
だが、そんな二人の表情がまた一変する。
オレの後から王妃と魔王が出てきたからだ。
「魔王ザナドゥーク! まさか魔王をこの城へ引き入れたのですか!?」
やっぱり王女はシワ王女だった。
でもまぁ状況を考えたら仕方ないか。
「違う違う。まぁ落ち着け。何も取って食おうってわけじゃねーんだから」
間に立って必死に宥めるオレ。
「やはり魔王と通じていたのですね」
「お前さっきのオレの話忘れたのか。バカなのか?」
「なっ!?」
「リュウさん、フリーディア様になんという事をっ!」
「お前も王女の腰巾着みてーなこといつまでもやってねぇで、少しは自分で考えろ」
めちゃくちゃ図星だったらしく、黙り込むエレノア嬢。
「お前もその変装やめろ」
ンダーベナ王妃の頭にチョップ。
ンダーベナ王妃はすぐにンダーベナの姿になった。
「きゃあああっ!」
「そんな!王妃様がっ!」
あの美しい王妃がこんな薄汚いババァになったらそりゃそうなるわな。
同情申し上げる。
「コイツは魔王軍の四天王、ンダーベナだ。おい、早く説明しろ」
ンダーベナの背中を蹴って前に押し出す。
崩したバランスを立て直すと、渋々といった様子で語り出した。
「我は魔王様の命を受け、この国を魔王陣営に迎え入れようとしたのじゃ。ところが、王も王妃も最初から敵意剥き出しでまるで話にならん。仕方ないから殺したのじゃ」
「なっ……」
王女よ、薄々わかっていてもいざ真実に出会うと衝撃だよな。
さすがに少しは気の毒に思うわ。
「そこで我が王妃に成り代わってこの国を魔王陣営に加える手筈を整えておった。同時に、他の国も幾つか一緒に取り込めるよう、同盟締結の準備を進めておったのじゃ」
意外にもちゃんと仕事をしていたらしいな。
洗脳魔法のことは言わないつもりらしいが。
「諸侯の粛清はあなたに反対したからなのですか」
お、だいぶ冷静になってきたな。
「そうじゃ。いずれも反魔族思考が強すぎてまるで話にならんかったのでな」
「おい、それは洗脳すりゃ済むんじゃねぇのか」
思わず口を挟んでしまった。
洗脳というワードに王女とエレノア嬢が露骨に顔をしかめる。
「いや、ああいう輩は綻びが生じ易い。性根まで腐った者を服従魔法で従わせても、いずれ思わぬ行動で面倒事になる。却って危険なのじゃ」
『なるほど。これは興味深い話です』
久しぶりだな、おい。
「まともな事を言っているようだが、そなたらとて所詮は魔族ではないか」
やはり黙っていられず、王女が口を挟んできた。
「ほれ、それじゃそれ」
面白そうにンダーベナが王女を指差して笑う。
当の王女はわけがわからず、ただただ不快そうにしている。
「お前、仮にも王女なら相手を見定めるのに種族や身分を基準にするんじゃねーよ。ダッセーな」
王女は正論を突き付けられて、言い返す言葉もなくただぷるぷる震えていた。
そしてエレノア嬢は今度は何も言わず黙っていた。
それ自体がナイスアシストだぜ。
『王女に責任はないですけどね。この国の教育がそうなっているのです。反魔族思想を物心ついた時から執拗に擦り込まれているのです』
ああ、そういやそんな事言ってたっけ。
いや、違うな。
あれは確か図書館でオズのページめくりをしていた時に……。
「だからといって、一国の王を殺すことが正当化されるわけではありません!」
うん、まぁそれは間違ってない。
「じゃあ勝手に魔族を殺しまくるのは正当化できるのか?」
「それは……魔族は人間の敵です。人間を守るため、魔族を倒すことの何か悪いのですか」
「魔族は人間の敵って、誰が決めたんだ?」
「えっ、それは……」
「エルフはどうなんだ? 他の種族は?」
「人間と友好関係を築いている種族は別です」
「なら魔族とも築けばいいじゃねーか。なんで最初から拒絶するんだよ」
「で、ですが、これまで何万、何百万という命が魔族のために奪われているのですよ」
「それは向こうも一緒では? ちなみにエルフと人間も昔は数百年以上争ったっていう話だが、そん時死んだ人間は数えなくていいのか?」
オレだって少しは勉強したんだぞ。
「リュウさん……」
エレノア嬢がやや非難がましい目で見てきているが無視。
「ま、すぐにどうこうってのは難しいだろうが、過去の因縁を一旦棚上げして、改めてこの先のことを考えてみてもいいんじゃねーの。お前が人間と魔族の新しい関係を、未来を作ればいいじゃねーか」
ハッとしたようにオレを見る王女。
驚きなのか、羞恥なのか、怒りなのか、その表情はよくわからん。
「我もリュウと同じ考えだ。ただ、どうしても戦うというのなら無理には止めぬが」
魔王、その最後のヤツはいらんだろ。
結局脅迫になってるぞ。
「魔王ザナドゥーク……。少し、考える時間をください」
力なく言うのが精一杯の王女。
が、急に目の光を取り戻すと――。
「ですがその者だけは別です。我が父と母の仇。我が国を簒奪しようとした罪を償ってもらいます!」
決然と言い放つ。
おお、さすがは王女。
「わかった」
魔王は小さく頷くと、一瞬オレと目を合わせた。
それからゆっくりとンダーベナに近づく。
いつの間にか、またあの剣を手にしていた。
「ンダーベナ。その身を以て罪を償え」
ズバァッ!!!
ンダーベナが頭から真っ二つに切り裂かれた。
さっきも見たな、この光景。
あ、でもあの時は王妃の姿だったが、今はンダーベナ本体だ。
「きゃああああっ!」
「いやぁぁぁぁっ!」
二人の大きな悲鳴が城の中に響いた。
* * * * *
「落ち着いたか」
二人の顔色がだいぶ戻ってきた。
「はい。御心配をおかけしてすみません」
「あなたは魔王と行かなくてよかったのですか」
「いいんだよ。別に仲間じゃねーし」
「その件についてはまだ完全に信用したわけではありません」
「はいはい。ところでオレからもひとつ聞きたい事がある」
「答えるかどうかは質問を聞いてから判断します」
相変わらずだなぁ。
なんかだんだんこれはこれでいいように思えてきた。
「勇者育成プログラムが、人身売買のためのものだって知ってたか?」
「えっ!?」
「出来の良い勇者はオークションで売り捌いてたらしいぜ」
ちなみにそのオークション会場や仕切っていた連中は既に潰されている。
「そんな……」
さすがに知らなかったらしいな。
エレノア嬢は横で申し訳なさそうな顔をしている。
この情報を調べ上げた張本人なのに、知らんフリか?
「建前上、一般応募ってことになってるが、ありゃウソだ。ほとんどが孤児や売られた子供たちだって話だぞ。なぁエレノア嬢」
ちょw そんな目でオレを睨むな。
いい加減社畜根性を捨てろ。
「エレノアに何の関係があるのです?」
「フリーディア様。リュウさんが言った事は本当です。『白銀の翼』で調べ上げた結論なのです」
「なんですって!? 私に内緒でそのようなことを……いえ、ごめんなさい。何でもありません」
「しかも、怪しい薬物を使って無理矢理成長させてたみてぇなんだが」
「それについてはここに証拠があります」
エレノア嬢が小さな白い包を取り出すと、中を開いて王女に見せた。
「なんですか、これは」
「中身が何か、詳細はわかりません。でも、これを毎日食事の中に混ぜていたのは確認が取れています」
『中身はルラ増強用の麻薬と、怪人ホルモンを薄めた粉末です』
おお、なんだ、解析が終わってたのか。
ってか、怪人ホルモンだって?
どっからそんなもん手に入れたんだよ。
「フリーディア様、この包の出所について何かご存じではありませんか?」
そう。
その出所だけは『白銀の翼』をもってしてもわからなかったのだ。
「父の書斎に行ってみましょう」
なにやら考え込んでいた王女が思い当たったように言った。
そのまま三人で無言のまま移動する。
「ここです」
意外にもすんなり中に入れてくれた。
逆に心配になるぞ。
『検索します』
おっ、さすが。
頼む。
エレノア嬢も何か魔法を使って探しているようだ。
『ありました。同じ成分の反応が残っています』
モニターにマーカーが出た。
「それは?」
いきなりオレが触ったらキレられたら困るので、指差して尋ねる。
「書簡でしょうか。署名がないので誰からのものかは……」
「それはっ!!」
いきなりエレノア嬢が書簡を王女から奪い取るようにしてまじまじと見入る。
「どうしたのです、エレノア」
「これは、私の伯母からのものです」
なんだと!?
エルフのオバ?
叔母か伯母、どっちだ(どっちでもいい)。
『これまた妙な展開になってきましたね』
「この封蝋 は確かに伯母の使っていたものに間違いありません」
『無知な御主人様のために説明すると、手紙に封をする時のスタンプのようなものです』
へぇ。
ありがたいが、無知は余計だろ。
「そのオバって人は誰なんだ? どこにいる!?」
俯いてやや逡巡した後、まっすぐオレの目を見たエレノア嬢。
「場所はハイエルフの里、リンドムルです。私が案内します」
今度はハイエルフか。
しかも門でらくらくトラベル。
いいねぇいいねぇ。
『ときに御主人様、ご報告があります』
なんだ?
『魔王の遺伝子解析が終了しました』
で、結果は?
『父権肯定確率99.993%以上。つまりは怪人の第一世代となる直系子孫に確定です』
なんだって!?
じゃあ、魔王の父親が怪人ってことか?
『理論上、そうなります。Lpcus(遺伝子座)の位置が怪人のものと極めて近く、Allele(対立遺伝子)の構成が怪人特有のパターンを示しています』
いや、それはもう全く意味わからん。
もっと言うと、その前のもほんとは意味わからん。
アイン・ボーザムは世代までは不明だったが、魔王は子に確定だと!?
いよいよもって何もかもカオスになってきやがったぜ。





