Episode.11 四天王と共闘します
まだ夜明け前のこと――。
久しぶりに見る縦長の渦、門が現れた。
オレはほとんど寝ない性質だからいいけれども、他のヤツならまだ爆睡中だぞ。
せめて事前に一報入れるだろ普通。
非常識にもほどがある。
などと魔族に常識を説いても無駄なのでおとなしく眺めるしかない。
一息置いて、中からアグナスとドラグレッドが続いて出てきた。
その気配から、なんとなくイヤな予感が的中しているのを悟った。
「フン、貴様如きが我ら四天王と行動を共にするなど、魔王様は何を考えておられるのか」
脚がたくさんあるデカい馬に乗ったアグナスとかいうヤツが、こちらを睨みながら大声で愚痴を飛ばしてくる。
精神年齢が幼いんだよキミィ。
もう少し社会勉強が必要なんじゃないか。
まあ、ここじゃ無理だろうけれども。
「アッサリ負けたヤツが何言ってんだ。だせーんだよ」
おっと思わず売り言葉に買い言葉が。
「何を貴様ッ!」
「やめろアグナス!」
いきなり飛び掛かろうとしたアグナスを止めたのが、ドラグレッドか。
確か決闘の時は竜に変身してたヤツだ。
今は体が亜人、頭が竜みたいな感じだがこれが普通なのか。
『竜人、という種族のようです』
ふぅん、それも魔族なのか?
『厳密には魔族というわけではないようですが、種族ごと魔王の傘下に入ったものと思われます』
じゃあ、種族の代表みたいな?
『そのようですね』
とこっちが脳内会話している間も、まだ揉めている二人。
「止めるな、ドラグレッド。お前とて再戦を望んでいたであろう」
え、そうなの?
往生際悪すぎじゃね?
「それとこれとは別だ。今回は魔王様直々の命であるぞ」
「ぐぬぅ……」
そうやって上にへつらっているうちは本当に強くはなれないんだぞぉ。
わかるかなぁボクちゃんたち。
『リュウよ』
「のわぁっ! 魔王か。いつも突然過ぎんだろ」
『作戦はお主に任せる』
「話聞けよ、ってかアレだ。お前まず自分の部下の躾からやり直せ。一緒に仕事すんの無理だろこれ」
『健闘を祈る』
プッ。
「おい!!!」
相変わらず言いたい事だけ言って切るんだな。
『あれはわざとですね』
だよな。
オレもそう思うわ。
ふと殺気を感じて見ると、四天王二人がめちゃくちゃ怒った表情でこっち見てた。
今のやりとりが魔王とのものだというのはわかったらしい。
ははーん、さてはオレの口の利き方がお気に召さなかったクチだな。
だが、謝る義理はない。
知るか。
「おい、状況はどんな感じだ?」
『民間人は昨夜のうちにほぼ逃げ出したようです。問題ありません』
昨夜のうちにあちこちで脅迫めいた言葉を喚き散らした甲斐があったというものだ。
「ならもう残ってるヤツらは自殺志願者ってことだから全部殺すぞ」
『全く問題ありません』
「おっしゃ! さ、仕事だ仕事!」
まだプンスカしている二人に歩み寄って、両手をパンパン叩く。
「とりあえず帝都を全部燃やしたい。できるか?」
まだ話がわかりそうなドラグレッドの方に聞いてみる。
「無論だ。造作もない」
あ、そ。
「じゃ、よろしく。そんでお前は西の方から来る連中をやってくれ」
「西? なぜわかる」
「勘だよ勘。おそらく出征に出ていた軍が戻ってきたんだろうな」
これはオズ情報だ。
主力が演習で帝都を出ていたらしい。
オレが殲滅したのは二軍以下だったってことになる。
ここは弾数&エネルギー節約のためにも、出来るだけ二人に仕事を押し付けたい。
「そんな不確かな情報では話にならん」
「え、出来ないの? 四天王なのに?」
「出来ぬとは言っておらん!」
「出来るなら黙ってやれよ。魔王に恥かかせるつもりか」
少しドスを聞かせて脅してみる。
「ぐっ……」
ほぉら、偉い人の名前出すと何も言えなくなるじゃん。
ちょろすぎだろ四天王。
「行くぞアグナス。しゃべるだけ時間の無駄だ」
ドラグレッドがいい感じに宥めて連れてってくれたが、なんか今の言い方腹立つわ。
やっぱ最終的にはコイツら殺しちゃいそう。
もしそうなったら魔王はどう出るんだろうな。
『あまりよい選択とは思えません』
「だよな、オレもそう思う」
我ながら無謀が過ぎる。
とりあえず今やるべきことをやろう。
ドラグレッドが変身したドラゴンは、炎を吐きまくって帝都を完全に燃やした。
炎から逃げようとする人間は、オレがプチプチと殺していく。
そしてアグナスは――めっちゃ苦戦してるんだがwww
モニターには、アグナスが魔法と矢の集中放火で完全にデカイ的にされてしまっている様子が映し出されていた。
かなり威力のありそうな氷の魔法と、やたらぶっとい矢――あればバリスタのようなものか――まであった。
魔力と矢の数によほど余力があるのか、惜しみなく打ち続けている。
もしかしてあの部隊こそが、帝国軍の主力だったのかもしれない。
アレはオレでもちょっとイヤな相手だ。
「おい、ドラグレッド」
「どうした」
「アグナスが苦戦中だ。助けに行くぞ」
「待て。どういうことだ? アグナスが苦戦など……」
「いいから早くしろ」
オレは飛んでいけるけど、お前はそのデカイ図体なんだから急げ。
ズワァァァッ!
と思ったらドラゴンはやっぱ飛べるんだな。
翼を広げると体が三倍くらいにデカくなった印象だ。
ゆったりした翼の動きの割に結構スピードも出ているぞ。
へぇ。
ま、オレには全然及ばないけどな。
* * * * *
アグナスは右腕、左脚、右脇腹を負傷していた。
結構な深手だ。
馬にもデカイ矢が二本ぶっ刺さったまま、暴れていた。
途中見てなかったが、おそらく強引に距離を詰めたのだろう。
接近してしまえばあの厄介な遠距離攻撃は打てない、と踏んだわけだ。
ある意味正しい。
『指揮官です』
モニターにマーキングが投影された。
「魔法関係はどうなんだ?」
『魔導士隊が後方にいます。バリスタ隊の隣に』
ああ、あれか。
「ドラグレッド、アグナスは任せたぞ」
後ろに言づけると、返事は聞かずに加速。
後方部隊の更に後ろに降り立つと、攻撃開始。
面倒だが各個撃破だ。
まぁ敵はほとんど丸腰同然なわけだが。
コイツらを守る部隊はどうしたんだよ。
片手落ちにもほどがあるぞ、指揮官さんよぉ。
竜化したアグナスがそのままの姿で大暴れ。
上空からの羽ばたきで地上部隊の隊列が乱れていた。
いいねいいね。
敵さん、だいぶ混乱している模様。
あ、火噴いた。
いいぞ、もっとやれ。
火力的にはドラグレッドの方が圧倒している。
広範囲ブレスはやっぱ効くなぁ。
ドラゴンのロマンだよなぁ。
一方のアグナスはというと、こいつは単純なパワータイプなのか?
あの足の多い馬はなんのために乗ってるんだか。
と思って見ていたら、ようやく馬が本気を出し始めたらしい。
完全に暴走状態になって兵士たちを次々と踏み潰していく。
馬上のアグナスは槍を振り回して兵士の首を次々チョンパ。
なるほど、これが本来の戦い方か。
近接系だが、馬のおかげで移動力と制圧力が段違いだ。
確かに強い。
こっちは片付いてしまったので中空に留まって高見の見物といこう。
「ちなみになんだが、このパックって他のヤツに打っても効果あるのか?」
『おそらく効果ありません。怪人用に特化した成分ですので』
「あ、じゃあ怪人個々に中身違うの?」
『はい。怪人はそれぞれ遺伝子レベルで異なる個体なので必然的にそうなります』
「ふぅん。でも0時には自動補填されるんだよな? オレが自分の体内で作ってるってことなのか?」
『はい。予め遺伝子に記録してあるプロトコルに基づき、0時に分泌される怪人ホルモンに反応して分化生成されます』
「その怪人ホルモンってのは、なんかうまそうだな」
たぶん食えないだろうけど。
『そっちのホルモンではありません』
「わかってるよ。んなもんジョークに決まってんだろ」
『御主人様のジョークセンスはいまひとつですね』
眼下の戦闘がそろそろ終わりに近づいていた。
* * * * *
ひと仕事終えたアグナスを労ってやろう。
「だいぶやられたみたいだが、大丈夫なのか」
「フン、痛くも痒くもないわ」
絶対ウソだろw
「で、指揮官は誰が?」
「オレだ。この槍で首を刎ねてくれたわ」
「じゃあお前が一番手柄だな。おめでとう」
「なに? ん……おう」
急にキョドり出した。
もしかして照れてるのかな。
「お前も殺した数だけなら一番だろ、ドラグレッド」
一応もう一人も褒めておく。
贔屓はよくないからな、贔屓は。
「フン。貴様がサボった分、余計に働かされたわ」
あ、バレてたのね。
別にいいけど。
そこへまた門出現。
中から出てきたのは予想通り魔王だった。
「魔王様ッ」
「ハハーッ!」
跪き頭を垂れる四天王二人。
オレは片手を上げて軽く挨拶する。
「来ると思った」
「そうか。して、成果は?」
「それはコイツらに聞いてやってくれ」
いい恰好をしたつもりが、魔王は質問より先にアグナスを治療していた。
まぁそうだろうな。
それはお前にしか出来ないんだから。
「お前たち、リュウはどうであった」
え、なにその質問、どういうこと?
「可もなく不可もなく、かと」
「明らかに手を抜いておりました」
は?
なにそれ。
まさか――。
「で、結論は」
「不合格です」
「不合格かと」
なんですとーーーーッ!?
まさかとは思ったが、オレの方が見極められている側だった。
手の込んだことしやがってチクショウ。
だが、不合格でちょっと安心。
下手に合格したら四天王に加われとか言われそうだし。
「そうか、わかった。大儀であったな」
「ハハーッ!」
「ハッ」
二人は立ち上がると、まだ開いたままの門にさっさと入って戻ってしまった。
残った魔王がこちらを見ている。
その目やめれ。
「なんだよ」
「今回は残念だ」
全く残念そうなそぶりもない。
むしろ笑っているように見えるぞ。
「なにが残念なんだか。勝手にわけのわからんことをするな」
「まぁよい。幾らでも機会はある」
結構です。
もうやめてくださいお願いだから。
「お前も戻るのか」
「なんだ、いて欲しいのか」
「そういうわけじゃねーが」
「フハハハ。ではさらばだ、リュウよ」
できれば永遠に。
魔王が潜ると門は消えた。
『試されたようですね、御主人様』
「何を試すんだよ」
『強さだけではなく、共に戦えるのかどうか、といった辺りでしょうか』
「ふん、四天王と仲良くするなんざ御免被る」
『私も結果的にはこれでよかったと思われます』
「なんでだよ」
『余計な干渉をされるのは、御主人様が最も忌避するところですから』
「まぁ……そうだな」
さすが相棒、よくわかっていらっしゃる。
さてと、まだ昼前だが――稲でも食うか。
『御主人様』
「ダメだって言われても食うからな」
『稲はもう残り少ないのでは?』
そうだった。
口寂しいのを解消するため夜中、延々と食い続けてしまったのだった。
「くっそーーーーッ!!」
よし、怒りが湧いてきたぞ。
このまま帝国の他の都市もぶっ潰しに行こう。
オレは羽根を広げて飛び立つと、モニターのマップで最寄りの都市を確認。
既にオズが最短経路まで設定してくれている。
助かるわー。
だが、繰り返すが残弾とエネルギー節約のため、極力省エネで行きたい。
領主とか貴族とか商人とか、そういう連中を優先して排除し、拠点を潰す。
それ以外は全部スルーだ。
あくまで省エネのため、だ。
よし、そうと決まれば善は急げ!





