74、現世でも猫カフェを開くことにした
橘信司は目を覚ますと、まばゆい光に包まれていた。
「何でしょう? これは?」
信司が戸惑っていると、アレスがやって来た。
「信司さん、どうしたんですか? 何か光っているようですが?」
「アレスさんにもそう見えますか? おや? 指先が透けているようです」
アレスは息をのんだ。目の前の信司の姿が、だんだん薄くなっていったからだ。
「信司さん!? 大丈夫ですか!?」
「……アレスさん、もしかしたら私は、もといた世界に帰る時が来たのかも知れません」
信司は猫達に駆け寄ると、一匹ずつ抱きしめて匂いを嗅いだ。
「猫様、私はもうお別れしないといけません」
「にゃーん、にゃーん」
「にゃんにゃんさま、寂しいのは私も一緒です」
信司の頬に涙が伝った。
そのとき信司のからだがまた発光した。アレスは目を閉じた。
次の瞬間、信司は消えていた。
「信司さん!!」
アレスの呼びかけに返事は無かった。
信司は暗闇に吸い込まれていた。そして気を失った。
信司がもう一度目覚めたのは、大分時間が経ってからだった。
「信司!? 目を覚ましたの!?」
「……母さん?……猫様達は?」
「何を言ってるの!? 信司、あなたは一年も昏睡状態だったのよ?」
「一年?」
信司は異世界で猫喫茶を始めた日のことを思い出していた。
「私は仕事に疲れ切って、確かトラックにはねられてしまったのでは」
「そうよ。それで、職場には退職願を出してあるわ」
「そうですか。では、私は今は無職と言うことですね」
「命があっただけでも奇跡だったのよ」
母親は泣いていた。信司は母親の細くなった手をとって握りしめた。
「私は長い間、幸せな夢を見ていたようです。そうですね、田舎に帰っても良いですか?」
「ええ、私も父さんも、貴方の帰りを待っているわ」
「わかりました。私は田舎に帰ります」
信司は少し寂しそうな顔をした後、微笑んだ。
「そして、猫達を飼って猫カフェをしたいと思います」
「あなたに出来るの?」
「はい、そのためには一刻も早くリハビリをしなくては」
信司はそう言って、目をつむって考えた。
「ロイさんやアレスさん、アリサさんにラインさん、レインさん、おかみさん、私にはまだ居場所があるようです……」
「信司?」
「いえ、ちょっと夢の中のことを思い出していただけです」
「あら? なにかしら? 貴方の頭になにかふわふわした白い者がついているわ?」
母親に言われて、信司は自分の頭を撫でた。手についたのはにゃんにゃんの毛だった。
「皆様、お元気で」
信司は白い毛を見つめて、そっと呟いた。
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