29、新聞記者がやってきました
橘 信司は戸惑っていた。
「こんにちは、新聞社のエレナと言います!」
「はい、はじめまして」
信司はエレナの首にに入場時間を書いた紙を下げた。
その間もエレナは信司に話しかけ続けた。
「愛想がわるいけどリピートしてしまうお店の人気ナンバー1に輝いたんですよ!?」
「それは、ありがとうございます」
信司は喜んで良いのか迷いながら返事をした。
「あ、可愛いねこちゃんですね」
「はい、猫様は可愛らしいです」
エレナの足下ににゃーさんがやって来た。
「それでですね、橘さん、この店を取材させて欲しいんですよ」
「おことわりします」
信司が間髪入れず断った。
エレナが不服そうに頬を膨らませた。
「何でですか? うちの新聞、結構評判良いし良い宣伝になりますよ!?」
「これ以上、お客さんを増やすつもりはありませんから」
信司はそう言って、エレナにメニューを出した。
「ご注文は?」
信司の無愛想さにエレナは腹を立てた。でも、お腹も空いていた。
「この店の一番人気をお願いします」
「それでは、紅茶とパンケーキのセットでよろしいですか?」
「はい、それをお願いします」
信司は注文を聞くと台所へ移動した。
「猫ちゃん達は可愛いのに、ほんとに愛想のないご主人様ですねー!」
エレナはそう言って、にゃーさんを撫でた。
にゃーさんは気持ちよさそうに、のびをした。
「お待たせ致しました」
「あ、パンケーキに猫の似顔絵が描いてある!」
エレナはにゃーさんの似顔絵を見て、ニヤニヤしている。
「ヘタウマですね。可愛い」
「よく言われます」
「それで、今回の取材の結果を新聞に載せてもよろしいですか?」
エレナは姿勢を正して、信司に再び訊ねた。
「お断りします」
信司はぶれなかった。
「そこを何とか!」
エレナはもう一度頼んだ。
「お客様、そろそろお時間です。お帰りいただけますか?」
「もう! きっと後悔するわよ!?」
エレナは信司に啖呵を切った。
信司はいつも通りの落ち着いた態度でエレナを店から送り出した。
下の階から、女将さんが騒ぎを聞きつけて出てきた。
「あら、新聞記者のエレナが来てたのかい?」
「はい、ですが記事にしないようお願いしました」
信司の言葉に女将さんが驚いた。
「あらあら、もったいない」
「いいえ、下手に新聞などに載ると、お客さんが荒れてしまいます」
信司はそう言って店の中に戻っていった。
「あいかわらず、商売っ気がないねえ」
女将さんはやれやれ、と言った様子でため息をついた。




