022
気付けばもうすぐ12時になりそうだ。
ティアちゃんは自分の仕事に戻り、俺は一人で冒険者の対応を任されている。
結構疲れた、お昼休憩って何時からなんだろうか……
「次の方どうぞー」
若干声に力がなくなってきているけど、仕方なし。
次の冒険者はかなり若い。元の世界基準で言えば中学生ぐらいだろうか。
大人しそうな見た目で冒険者っぽくない。
「あの、すみません。薬検はどこで受けられますか?」
知りません。
じゃダメだよなー……
薬検って薬草検定の事かな。
俺は他の受付嬢に解答を求めようとするが、
「フロストベル薬草検定であれば、ナリアさんのところで受けることができるわ。場所はわかるかしら?」
いつの間にか後ろに立っていたモニカさんが答えてくれた。
俺簡単に背後取られすぎでは……全然気づかなかった。吸血鬼の本能はお留守のようだ。
「はい、それです! あとすみません、場所わからないので教えてもらってもいいですか?」
「わかったわ、簡素なもので申し訳ないけれど、ここからの地図を書くわね」
モニカさんはそう言って近くにあった紙とペンを手にとり、すらすらと書いていく。
すごい綺麗な字と線だ……地図もわかりやすい。さすがモニカさん。
地図を書き終えると、それを薬草少年に手渡す。
「これでわかるかしら」
薬草少年はそれを見て「すごくわかりやすいです! ありがとうございました!」と言って帰っていった。
「モニカさん、ありがとうございます。対応がわからなかったので助かりました」
「ウフフ、どういたしまして」
モニカさんと話していると、ティアちゃんがやってくる。
「モニカ姉、お疲れ様ですにゃ」
「ええ、ティアちゃんもお疲れ様」
「新人、ちょうどいい時間にゃ、お昼休憩に入るにゃ」
やったー、やっと休憩だ! 本当に疲れた、もう午後働きたくない。
「受付午前の部はこれでおわっりー♪ 次の対応は十三時からとなりまーす。お昼だひゃっふー♪」
フェリス先輩は変なテンションになっている。
これがお昼休憩の魔力、疲れた体に魅惑の時間か。
……いや、フェリス先輩はいつも変なテンションだな。
「食事の用意はもうできているわ。ルルちゃん行きましょうか」
俺はウキウキ気分で二階へと向かった。
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それから俺は、ランドさんとモニカさんと午前の初仕事について楽しく話をしながら、食事を摂る。
それが終わった頃には、もうかなり眠い感じになっていた。
吸血鬼だから昼は眠いのか、それとも食後だから眠いのか、どっちだろう。
とにかくこれじゃぁ仕事にならないので、十三時までお昼寝することにした。
目覚まし時計はないので、申し訳ないけど代わりはモニカさん。
十三時に起こしてくださいと言っておく。
うがー、ねむいー……とベッドに入れば、すぐに意識が落ちた。
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そして、十三時になったようで、モニカさんに起こされ、再び仕事が始まる……
眠い、もう嫌だ。
「ルル後輩眠そうだねー、あたしが起こしてあげるねー♪」
ロビーに戻り、眠い顔をしていたらフェリス先輩に両頬をムニムニされる。
「やばー、やわらかー、クセになるぅ♪」
「二人とも何やってるにゃー。もう仕事は始まってるにゃ」
「はいはーい、あたしは受付いくねー♪ えっと、ルル後輩は……」
「ルルちゃん! 午後は私がお仕事教えます! 教えたいです!」
いつの間にか後ろに立っていたノーラさんはそう言って、俺を後ろからギュッと抱きしめる。
……やばぁ、胸やわらか、やばぁ。これは良いものだ。実に良い。
今回はちゃんと力加減はしてくれているようだ。
このままおっぱいを枕にして眠りたい……
「じゃぁ、あとはノーラお姉ちゃんにまっかせるねー」
フェリス先輩はそう言って受付の仕事をしに向かった。
「私達は午後の分の依頼書を片付けてしまいましょうか」
「ふぁーい」
俺が返事をするとノーラさんは俺から離れ、事務机にあった紙の束を手に取り掲示板へと向かう。
あぁ、柔らかな感触ががが……はぁ、仕事しよう……
俺もノーラさんと一緒に掲示板の方へと向かう。
気付けば冒険者達のほとんどが掲示板に注目している。
「午後の依頼書貼りは少し特殊なんですよ」
「特殊?」
「ええ、冒険者さん達に見えるように貼っていってください」
俺は言われた通り、冒険者達に見えるように体を少しずらし、一枚一枚貼っていく。
「ホーンラビットの肉調達もらった!」
一人の冒険者が手を挙げ、俺たちに向かって大きな声で言うので、俺は「え?」と答えてしまう。
「午後は貼っていってる間から争奪戦なんです。早く手を挙げて宣言した人が依頼を受ける権利を手に入れるんです。ルルちゃん、その依頼書を冒険者さんに渡してあげてください」
俺はせっかく貼った依頼を剥がして、それを冒険者に渡す。
「ルルちゃん、ありがとよ」
冒険者は依頼書を受け取り、受付の方へと向かった。
周りは「くそっ、よく見たらいい条件だった! いつも早すぎだろアイツ!」と悔しそうな言葉を垂れ流す。
俺が次の依頼書を貼ろうとすると、悔しそうな声も聞こえなくなり、隣の酒場から聞こえる声がうるさく感じる。
冒険者達のほとんどが掲示板の方に目を向け、集中しているようだ。
なんだか、俺まで緊張してきた。
微妙な依頼書の時はどこかで息をつく声が聴こえるし、良い依頼書の時は一斉に声があがった。
よく一瞬で良い悪いの判断がつくなーと感心する。
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それから十分から二十分ぐらいかけて、全ての依頼書を捌き終えた。
「ルルちゃん、お疲れ様です」
「ノーラさんもお疲れ様です」
依頼書を手に入れられなかった冒険者達の方を見れば、うがーって感じになっている。
おじさん達今日は働かないの? って追い打ちをかけたくなってくる。
「それじゃあ、このあとは事務仕事を少し覚えましょうか」
うげ、事務仕事……ペンは持ちたくない。
俺が嫌だなーって顔をしていると、フェリス先輩が大きな声でノーラさんを呼んだ。
「ノーラお姉ちゃーん。紙そろそろきれそうだよー」
フェリス先輩は手に紙を持ち、その手を目一杯挙げて、ぶんぶんと振る。
「あらら、それは困りました。うーん、それじゃあ私とルルちゃんでお買い物に行ってきますね」
「えぇぇ! ノーラお姉ちゃんしか依頼作成の対応できないよー、まっずいよー。仕事まわんないよー!」
フェリス先輩はさっきよりも激しく手をぶんぶんと振る。
「うぅー、ルルちゃんとお買い物に行きたいです……ダメ?」
「ルフレ先輩がいる時ならいいけど、今日はいないからダメー」
ノーラさんは捨てられた子猫のような表情でフェリス先輩に訴えかけるが、フェリス先輩は両手でばってんを作って却下した。
「わかりました……仕方がないので、十五時からフェリスちゃんとルルちゃんでお買い物に行ってきてください……」
「やったー♪ 計画通りっ♪」
計画って最初から俺と一緒に買い出しに行くことを狙っていたのだろうか、と考えていると、ティアちゃんが会話に参加してきた。
「本当なら買い物は昨日のうちに行くはずだったにゃ。でも、新人と買い物に行きたいからって紙が少なくなっていたのを隠していたにゃ」
「ちょっとっ!? ティアちゃんっ! それバラしちゃダメなやつだよっ!」
フェリス先輩はノーラさんにジトーっとした目で見られていた。




