VSリヴィ 夕霧の決断
目が覚めると、見覚えのある天井が夕霧の視界に広がる。ここは、リオンだ。
そして横を見る。きっといるだろう、という確信を持って。
「リオンだよ。……また遅いお目覚めだね、夕霧。おそよう」
リヴィは驚かない夕霧を見て、不満げに口を尖らせた
「つまんないの」
そう何回も驚いてたまるか、と言い捨て洗面所に向かう。
ぱたぱた、と見覚えのある小鳥が部屋に入ってきた。
「おはよう太郎」
夕霧があいさつをしてやると、自分に名前をつけたことを忘れたのか首を傾げる小鳥。
『君は仕事をきちんと果たしてくれたから、報酬を与えに来たよ』
もちろん帰るんだろ? と小鳥は早く準備をするよう促す。
しかし、夕霧は動じずに顔を洗いタオルでごしごしと顔を拭いた。
「その報酬ってさ、どんなことでも叶えてくれるとか、そんな感じ?」
帰るの嫌になっちゃってさー、と言う夕霧。
『え? 良いの? 君、弟君のことあんなに心配してたじゃないか。君がいなくなった今も一人ぼっちだよ』
君しか遊んであげる人がいないんじゃないのかい、と尋ねる神。
「うん、だからさ。私の家族をこっちの世界に呼んでくれないかな……ちゃんと選択権は与えてね」
私はここに残るから、とも伝えてほしいと夕霧は言った。
『……まためんどくさいお願い事だね。いいよ、でも君の家族が嫌がったら君は一人ぼっちだよ、いいのかい?』
ん、と夕霧は神を馬鹿にしたような笑い方をする。
「私には仲間がいるからね」
トーガ、リヴィ、フェイ。そして召喚獣達。
せっかく契約したのに、また元の世界に戻って自分の精神に閉じ込めるなんてできないのが夕霧だ。それに、ぴるぴるのこともある。
『そう。やっぱり産まれた世界から飛び出していくことはあまりよくないことだね……もう少し厳しく取り締まろうかな』
世界渡りの魔法を人の記憶から消してしまおう、なんていう神。
「がんばってー」
神に興味がなくなった夕霧は、洗面所を出る。家族がこの世界に来てくれるかはわからないが、今はそれよりもやることがある。
男耐性がなかった夕霧だが、リヴィはぐいぐいずかずか心に入ってきた。
あれだけストレートに感情をぶつけられては揺らがないわけがない。すべて片付いたら言おうと思っていた。
しかし夕霧は変なところでチキンなのである。
「リヴィー」
自分を待っているであろうリヴィの名を呼ぶ。
「何」
意外に面倒見の良いリヴィは、夕霧がぐしゃぐしゃにしたシーツを直していた。その背中に向かって夕霧は今日の朝ごはんは何、とでも聞くかのように尋ねる。
「私のこと好きか?」
少し背中の方に鳥肌が立つ。こんなセリフを吐こうとは、昔の世界にいたころは思ってもみなかっただろう。恋愛なんて自分には無縁のものだと思っていたし、相手もいなかった。
しかしそれは世界に適合できていなかっただけであり、今は恋愛するのも良いかな、なんて夕霧は思っていた。
「いきなりどうしたんだい?」
リヴィも流石に驚いたらしく、夕霧を見つめていた。その顔が面白くて、夕霧は笑う。
「私、男が苦手なんだ」
「知ってるよ」
人の顔を見て笑うなんて失礼だね、とむくれるリヴィ。
「でも、トーガは平気だ」
「……へぇ」
もしかして振られるのかもしれない、と思ったのだろう。リヴィは今にもトーガを殺しに行かんばかりの顔をした。夕霧はまた笑う。
「まぁ最後まで聞けよ」
「うん」
「リヴィも平気だ」
「当然でしょ」
無理やり馴らしたんだから、と言うリヴィ。
「迷ったんだ」
「うん……?」
脈絡もない言葉に、リヴィは困惑する。
「元の世界に帰るか」
「あぁ」
「帰れなかったよ」
「そうなの?」
夕霧の言い方で、グリフォンごとき倒したくらいでは帰れない、という意味だと取ったのだろう。
「リヴィを思うとさ」
照れ笑いをする夕霧。リヴィは理解した瞬間、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
「……離れたくなかった?」
「離れたくなかった」
リヴィの言葉を繰り返す夕霧。さっぱりしたような表情だ。。
「そう」
それだけ言うと、リヴィは部屋を出ようと整えたベッドを降りて窓へ向かった。
「続き聞かないの?」
リヴィは言ったのに、夕霧は言っていない言葉。これを求めているだろうと思っていた夕霧は拍子抜けした声を出した。だいぶ心の準備をしていたというのに。
「楽しみは後に取っておくよ」
ひらり、と部屋から消えるリヴィ。
「そーかよ」
そんな柄じゃないくせに、と夕霧は苦笑いだ。
さて、と夕霧はこれからするべきことを考えた。これからはこの世界で生きて行くのだ。住む所や仕事も考えなければならない。
しかし、不思議と不安は無かった。
この世界でなら、どんな手を使ってでも生きていけるきがしているのだ。
とりあえず夕霧は、この世界での一般常識を学ぼうと図書館へ向かった。