VS召喚術 チィータの街3
「本気で……スパルタだねぇ」
「……そうだね」
しかし、夕霧は複数の召喚獣と契約することに成功した。
コツさえ掴めば契約は簡単で、力の強さを見せつければいい、それだけ。
つまり大きな召喚獣を後ろに控えさせていればいい……増えていくにつれて、あっさり契約されていった。
そして今日、夕霧が契約して使えるようになった召喚獣は、
ブリッツ・パンテーラ(稲妻豹)
ジェノサイド・レオ―(虐殺獅子)
この二匹。
かなり厨二臭い、と夕霧は思ったが契約してからはまったくそうは思わなくなった。どうやら夕霧は動物にとても弱いらしい。
ちなみに、スピードがありそうなものを中心に探していたがクリフの全体攻撃があると便利、という言葉でレオ―と契約した。
絶対怖い、と腰が引けつつ召喚してみたのだが、契約して具現化してみたら結構甘えん坊だったというギャップ萌えの持ち主だった。
パンテーラも中々に可愛い。一緒に修行をしていると、だんだんと愛着が沸いてくる。
リヴィの氷龍もヴィペールの大蛇程の大きさまで育てることができた。
こうやって結果だけをまとめてみると一日でよくやった、という感じだが、夕霧はもうここで体と魂がバイバイするのだと思ったし、リヴィも疲れ果てて憔悴していたから、クリフのスパルタ加減がわかる。
夕霧は不安を感じる。絶対に、起きれない。
じっくりと疲れを取って次のところへ行きたいのだが、それは無理そうだ。
夕霧はちらりとリヴィを見る。クリフのスパルタ教育もだが、火花を散らしていたリヴィは夕霧以上に疲れているはず。
しかもリヴィはこれから白虎と契約するのだ。体力は完全に回復しておきたい。
クリフが用意してくれたという部屋に向かっている今、交わした会話はさっきの一言だけだ……相当疲れているだろう。
「リヴィ」
「なに」
「私今日起きないから」
「そう」
重傷だ、と夕霧は冷や汗を流す。
しかしそこまでリヴィに鎌ってられる程、夕霧も体力が残っていない。ネームプレートがかかっている部屋に入ると、風呂も入らずベッドに倒れこんだ。
「夕ちゃん大丈夫?」
パンテーラだ。スマートで、金髪をポニーテールに纏めている。
釣り目で八重歯がある、きつそうな見た目をしているが、実は世話焼きで心配性だ。
「うん、だいじょぶ、だいじょぶ。眠い」
呂律が回っていない。夕霧は心配そうに見つめるパンテーラを気にかける余裕もなく、眠りの世界に落ちて行った。
夕霧の耳に、周りで誰かが話し合いをする声が聞こえる。
「主、起きねぇな……どうする……」
レオ―だ。高校生くらいの年齢だが、金髪の髪の毛をつんつん立てて、数本落ちてくるらしい前髪はカチューシャで止めている。特徴的な釣り目は心配そうに揺れていた。
「でも、夕ちゃん疲れてるから……」
パンテーラもレオ―と同じく心配そうに夕霧を見つめる。
「夕霧が寝ぼすけなのは今に始まったことはないけどねー。」
ファーチャだけは悠々と夕霧の眠るベッドに横たわりくつろいでいる。しかし夕霧の頭を撫でたりと、結構甘やかしているのは否めない。
「でも主、もう二日くらい寝てるぜ? いい加減やばいんじゃね? 人間だし」
レオ―はあまり人間の知識がないが、夕霧と契約したことでこの二日で人間について学んだようだ。覚えたての知識をフル稼働だ。
そのレオ―の言葉を聞いて、夕霧はがばっと飛び起きる。
「二日寝てたのか? 嘘ぉ!」
起きないとは言ったけれど、本当に自分が起きれないとは思ってもいなかったようだ、前科があるだけに学んでも良さそうだが。
大慌てで身支度を整えると、ばたばたとクリフを探し始めた。
彼は中央の部屋でオレンジジュースを飲んでいて、夕霧が
「クリフさんおはよう! リヴィは?」
そう尋ねると、クリフさんは首を振った。
「俺は知らないよ?」
邪魔ものが消えた、とでも言うようなすがすがしい笑顔。夕霧はパニックに陥っていてそんなことには気がつかない。
「主、主」
慌てて追いかけてきたレオ―だ。
「どうした?」
髪の毛をいじるのが彼の癖らしい。指で髪の毛を弄びながら彼は言った。
「リヴァイア君なら、先にトーガ君とフェイちゃんのところに行くって言ってたぜ?」
一瞬安堵の表情を見せる夕霧だが、また苦悩の表情に戻ってしまう。一人では宿に戻ることなんて不可能に近いからだ。
そんな主を見て、
「夕ちゃん、私がいるじゃない!」
とパンテーラが自分の胸を叩いた。
「うっわぁああああ! パンテーラすげぇ!」
稲妻豹の名は伊達ではない。
ものすごいスピードで (それこそ稲妻のように!) クリフの家を飛び出し、夕霧が感動の叫びをあげている間に、宿に着いてしまった。
「トーガさんやフェイちゃんの匂いはわからないけど、リヴァイアさんの匂いなら覚えたからね!」
見た目に反して超良い子だ、契約して良かった。なんて思う夕霧。欲を言えば狸も契約したかったのだが、ぴるぴるに勝る愛着を湧かせられる程の狸はいなかった。
「あら、私だってやろうと思えばそれくらいできるわ」
つん、とファーチャが言う。
「やらなきゃ意味ないぜ?」
レオ―は結構毒舌のようだ。
宿に慌てて入っていくと、召喚獣達は自然に夕霧の精神へと戻っていく。
賢いな、と彼女が感動しながらロビーに入っていくと、
「あ! 夕霧、危ない!」
「え?」
トーガの声と共に、真っ白な獣が夕霧の上に跨っていた。
現状把握、と呟く夕霧。
眠っている彼女を置いて、勝手に白虎を捕まえに行っていたのだ。
「グリス、待て。……待っていようかとも思ったけれど強くなった氷龍を使いたくなってね。一人で行ってきたんだ」
一人? と夕霧が怪訝な顔をする。ならば、トーガとフェイはどうしていたのだ。
「あ! 夕霧お姉ちゃん!」
フェイの声がして振り向く夕霧。
「……フェイ?」
あまりにも変わったフェイに驚きを隠せない夕霧。離れていた二日間で、眠っていた三週間の三倍は成長していたのだ。
ドラゴンとは恐ろしいものである。
「私、トーガお兄ちゃんといっぱいモンスター倒したよ!」
えへへ、と嬉しそうに笑うフェイ。
遅れて到着したトーガも、恥ずかしそうに笑う。
「オレ、もうあんまりモンスター怖くないかも……」
と。
「夕霧。……準備はできたよ、君が寝てる間にね」
リヴィが意地悪く笑う。
「ありがとう。何もしてない分、私はグリフォン討伐に全力を注ぐよ」
自分の父親を思い、握りこぶしを作る夕霧。召喚獣たちがざわめく。
刀はレオ―に預けた。彼は毒で敵を溶かして行くことを得意とするので、似たようなものだろうと預けたのだ。
「……ちょっと待って、何も、っていうのは間違いじゃない?」
「え?」
思わぬところで反論が来た夕霧は間抜けづらだ。
「そうだよ! 夕霧がいなければ、オレたちはずっと旅に出ることはなかった。つまり、ヴィペールの大蛇は倒されることもなくソワレも食べられちゃうし、フェイだって一人ぼっちだった」
リンクスは助けられなかったけど、と悲しげな表情をするトーガ。
「夕霧は、いるだけで回りを動かす不思議な力があるよね。だから、何もしてないなんて、言わないで」
世界不適合者の私に何を言う、と苦笑いの夕霧。しかし、トーガとリヴィは自分を必要としてくれている。フェイも懐いてくれているし、召喚獣達だって、自分についてきてくれている。
「これでいいんだ」
元の世界にいたときよりもずっと生きがいがある。夕霧は迷っていた。グリフォンを倒せば元の世界に帰れるだろうことは気付いている。トーガが戦えるようになった今、グリフォンは仕上げだ。それを終えたら仕事納めだ……
少し寂しい思いが夕霧の胸をよぎったが、ふるふると夕霧は頭を振り、そんな考えを頭から追い出して、顔を上げた。
「……ありがとう。じゃあ、パーっと、グリフォン倒しに行くか!」
頼もしい仲間たちの顔。
いざ、出陣だ。




