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ランタナ・パーティ  作者: 鈴木まる
第5章 整備士
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第23話 喪失

 リアム、アベル、ルイの三人は地下水道を通り、店の近くまで来て地上に出た。空に月はなく、星だけがぽつぽつと散っていた。


「こっちです」


見えない糸を手繰り寄せるかのように方向を示すリアムに、アベルは首を傾げた。


「そっちは林だな。一体誰が何を依頼したんだろ」


リアムがもうすぐだと思うと言ってすぐ、ブノワの切羽詰まったような声が聞こえた。弱々しい灯りが、二人の男の影を地面に映している。


 アベルが工具を持って駆け出した。ルイとリアムは木の陰に隠れ、アベルたちの様子をこっそりとうかがった。


「……というわけだから、すぐ一緒に来てくれ!」

「無理じゃ! さっきも言った通りわしにはわしの計画が……アベル?!」


驚愕するブノワの顔を見て、工具を片手にアベルはぽかんとしている。


「これ、忘れてたから届けに来たんだけど……」

「アベル……? お前カジミールの息子か!」


アベルは眉間にしわを寄せ嫌悪感を露わにした。ブノワははっとして謎の男の方を見た。


「違う、この子は……」

「悪いな、アベル。死んでくれ!」


謎の男はなんの躊躇もなく銃をアベルに向け、引き金を引いた。短く、しかし鋭く弾ける火花。ルイが銃を構える暇もない程だった。




 銃弾は胸の真ん中に命中した。赤黒い血が流れ出る。


「え……?」


愕然として工具を取り落とすアベル。


「な……何で!」


謎の男は唇を震わせる。闇夜を切り裂くルイの銃声。弾丸はその男の手にかすり、男は銃を落とした。ルイに一瞥をくれ、男は銃をそのままにし逃げていった。


 胸から血を流し、地面に仰向けに倒れたのはアベルではなく……ブノワだった。アベルを守るため、壁となり弾丸を受け止めた。


 ルイとリアムは彼に駆け寄った。酷い出血だ。リアムが爪の間に土や小石が食い込むのも構わず地面に不思議な模様を描き、ブツブツと呪文を唱えた。冷気が立ち上がる。


「応急手当にもなっていないですが……急いでマイリさんに見せましょう」


リアムはブノワの傷口を凍らせたのだ。止血はかろうじてできているようだった。


「じいちゃん!」


大粒の涙をこぼしながら抱きかかえようとするアベルの胸元を、ブノワは掴んだ。


「待て……奴らはここを……爆破する……」


ブノワはゴホゴホと血を吐いた。白い髭が真っ赤に染まる。


「しゃべんな!」

「ポケットの……手紙を……」


ルイの言葉を無視して、目を血走らせながらブノワは言った。リアムがポケットに入った手紙を取り出し広げた。


〈  親愛なるブノワへ


 俺たちはやっとお前がこの島で生きていることを突き止めた。何年もかかって本当にすまなかった。お前を救出する手はずとお前を苦しめた島の奴らに復讐する準備はできている。

 爆弾を島に取り付けた。試しに関門のところで一つ起爆させたが、上手くいった。お前の死刑を確定させた議員カジミールの自宅と島の主要ないくつかの場所に爆弾はセットしてある。起爆は明朝五時。

 今晩九時にお前の店の裏の林で待つ。一緒に脱出しよう。


          フィルダー      〉


 先程の男はブノワの仲間だったのだ。方法はわからないが、ブノワが生きていることを突き止めて助けに来た。アベルの父親は、ブノワの死刑を確定させた。息子のアベルが復讐の対象に含まれていても不思議ではなかった。


「わしはもう……助からない……。この手紙の『爆弾をセットしてある』という部分だけ手に……ここでこのまま……」


確かにそうすれば、冷たくなったブノワを見つけた警備隊が爆弾処理に動く可能性は高い。そしてアベルがブノワをかくまっていた事実を誤魔化す必要はなくなる。


「何言ってんだよ! 置いていくわけないだろ! まだ助かる!」


アベルが悲痛な顔で叫んだ。血がつくのも構わずブノワを固く抱きしめる。


「そうですよ! 方法は色々あります!」


リアムが励ます。すぐさまもう一度、氷の魔法をかけた。


「アベルが警備隊に話をつければいいだろ!?」


ルイは焦点の定まらないブノワの瞳を睨むように見つめた。


「こっちから人の声がするぞ!」


ランタンの明かりが木々の間から見えた。銃声を聞きつけたのか先程の男が通報したのか、もう警備隊が近づいていた。


「……頼んだぞ、アベル。空賊の皆さん」


アベルへ顔を向けたブノワの口が「ありがとう」と動いたようにルイには見えた。次の瞬間、ブノワの目からすっと光が消えた。


 リアムが脈を測った。しばらくして、俯き加減に首を振った。


 草を踏みしめる足跡。揺れるランタンの光。近づく警備隊員の声。


 アベルは大きく目を見開いたまま、短く息をし小刻みに震えている。ルイは胸が締め付けられるようだった。その痛みをしまいこむように、ルイは唇を噛みアベルから目を逸らした。


 時間はない。仲間のために、ブノワのために、やるべきことをやらなくてはならない。ルイはブノワの手紙を破き、該当部分だけをブノワの手に握らせた。まだ体温が感じられるのが余計に苦しかった。


 ルイはその場を動こうとしないアベルの腕を掴んだ。


「行くぞ!」

「俺は、置いて行けないよ……」

「動け! 何のためにブノワはお前を守ったんだ! すべてを台無しにするためじゃねぇだろ!」


自分の言葉が無力なのは重々承知だった。ルイはリアムに目をやった。目に涙を溜めたリアムは頷き、アベルの腕を取った。二人で半ば引きずるようにして、アベルをブノワから離した。


「ほっといてくれ! 俺は、もういいんだ……」


体をひねりルイとリアムの腕からアベルは逃れた。警備隊はもうすぐそこだ。


「じいちゃんがいないんじゃ……俺はもう生き……」


ルイは銃のグリップ部分でアベルの後頭部を殴った。気を失ったアベルをリアムが抱きとめた。


 喉に迫り上がってくる酷く苦く固い塊のような想いを無視し、ルイはランタンをひっつかむ。


 共に旅立つはずだった仲間を一人置き去りにし、ルイたちは隠れ家へ向かった。


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