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番外編④ 悪友からの手紙【SIDE アベル/ミカエラ】

※本編終了から一ヶ月後くらい

ノルベルトが俺の正体を知ってから、一ヶ月が経った。

リュトムスは春に包まれている。

朝晩はまだ冷えるけど日中はやや汗ばむ日が続いていた。

畑にはうっすらと緑の芽が出ている。ジャガイモや豆類は成長が早い。


村人たちがわいわいと畑仕事をしているのを横目に、俺とノルベルトは村中を歩き回る。

村人の相談事は多いけど穏やかな日々を過ごしていた。




「すいませーん。郵便でーす」


ややくたびれた荷馬車が村の入り口に到着した。

外部からの手紙や贈り物は、こうして定期的に郵便配達員が届けてくれる。



笑顔で受け取り、ノルベルトとともに教会の居住スペースに運ぶ。あとで俺がみんなに手渡す予定だ。

ひとつずつ分類していく。

村人たちに宛てられた手紙、都市部へ出た村人からの手紙、そしてーーーー


俺は一通の封筒を手に取り、ふっと笑った。


「どうした、アベル」

「…………いえ、」


ノルベルトが尋ねる。俺の手には白い封筒。

俺は咄嗟にぼかそうとして、そしてーーー


そっか、別に。

もうノルベルトには嘘をつかなくてもいいのか、と。

気づかれないように口角を上げた。


「……ミカエラからですよ」


封筒を見せるも、ノルベルトは首を傾げていた。

見たところはただの納税通知書だ。

けれど。


俺は封筒から中の紙を取り出して、手をかざす。小さく呪文を唱えた。

通知書はぱぁっと淡い光を発して、紙の色が白から黒に変わる。

そして、光る文字が浮かび上がった。


「……すごいな」


ノルベルトは目を見張った。キラキラと楽しそうに輝いている。


「誰にも言わないでくださいね。人間に気づかれないように、魔物の間で手紙をやりとりする方法です」

「……よく考えられてるな」

「でしょう。魔法が使えないと読めないので。便利ですよ」


ただの納税通知書は、一通の黒い手紙となった。

ミカエラはよくこうしてヴォーゲンの公的書類に紛れさせて手紙を送ってくる。


俺は遠い地の悪友からの手紙を読んだ。



『アベルへ。

どう? 無事? あんたまだリュトムスにいる?

それとももうパディアンに移動しちゃったかしら。まだクソ田舎にいるといいんだけど。

とりあえず、あんたにこの手紙が届くことを祈ってるわ。


ヴォーゲンの状況を教えとこうと思って。

”掃討作戦”は一週間くらいで終わったわ。

ていうか、思ったより姿を偽装した魔物が多くて騎士もビビったみたい。

全員捕まえると街の経済が終わるからね。

適当な言い訳をして尻切れとんぼみたいに終わった。


バーは営業を再開したわ。魔法に頼らない姿の偽装方法を考案中。

カラコンの売れ行きがいいわね。おかげさまで売り上げはうなぎ登り。


レベッカはアタシのバーで手伝いをしてもらってる。

目は治んないけど、話を聞くのは得意な子だから。魔物のお客さんたちの間でも人気。

とりあえず心配しないで大丈夫。


ヴォーゲンはいつもの活気を取り戻したところよ。良くも悪くもね。

もしあんたがまだクソ田舎で神父やってんなら、来年来ても大丈夫だと思う。

けど、来るなら念のため一週間前くらいには連絡ちょうだい。準備ができるかもしれないし。


あんたがどこにいたって別にいいんだけどさ。

あんた、そのクソ田舎が気に入ってるみたいだからね。


今後ともぜひ、ごひいきに。

ミカエラ』



俺はそっと手紙を閉じて、また魔法をかけた。

黒い紙は一瞬にしてただの納税通知書に戻る。


「ミカエラはなんて」

「ヴォーゲンの掃討作戦は終わったようです。来年の報告書提出も、多分大丈夫だろうとのことでした」

「……よかった」


ノルベルトはほっと息を吐いた。

神父を続けるなら、毎年ヴォーゲンに行くのは避けられない。一時はどうなるかと思ったけれど、来年も俺は神父の仕事を続けられそうだ。


「ミカエラのおかげで無事に帰ってこれたからな。感謝しかない」

「ええ。次に会ったときは何かお礼しないとですね。……色々ぶんどられるなぁ」


ミカエラの顔を想像して、くすっと笑った。

金の亡者のミカエラのことだ。とんでもない金額をふっかけてくるかもしれない。

けど、まあ、世話になったから。


あのときは大変だったな、と思い返す。


ミカエラが俺に真っ先に情報をくれた。

ノルベルトが俺の盾となって走ってくれた。

シャロンが急いで馬車を出してくれた。

みんなのおかげで、俺は今もリュトムスで神父をすることができている。


隣に立つノルベルトに目を向ける。

胸の奥が温かくなった。


「ノルベルト。来年、また一緒にヴォーゲンまで行ってくれますか」

「ああ、もちろん。今度はクレープでも食べよう」

「ええ。食べそびれちゃいましたからね。あと、プリンも」


にこりと微笑みかけた。

あのときのジェラートの味が蘇って、ちょっと口寂しくなる。

やっぱヴォーゲンは飯が美味いんだよな。

ヴォーゲンでは辛いこともあったけど。楽しい思い出もいっぱいあった。

またノルベルトと一緒にスイーツ巡りしたいし、買い物もしたい。



「……来年は、一緒にミカエラのバーに行きますか」


俺がぽつりと呟くと、ノルベルトはぱっと瞳を輝かせた。


「いいのか」

「ええ。ミカエラにも伝えておきます。私の夫も連れてくって」

「……ありがとう」


ノルベルトが嬉しそうに口角を上げる。

まさか人間と東地区へ行くなんてね。全然想像もしてなかった。

ミカエラに教えたら絶対ニヤニヤしてからかって、「へぇ、あのアベルがねぇ?」って笑うだろうけど。


まあ、自慢の旦那様だから。

早く悪友に紹介したくなった。





『ミカエラへ。

手紙、届いた。ヴォーゲンの近況をありがとう。

あのときは本当に助かった。今度ちゃんとお礼をする。


バー、再開したみたいだな。お疲れさま。

レベッカも一応無事なようで良かった。心配してたんだ。

それにしてもヴォーゲンの騎士はムカつくな。

ま、今更って感じだけどさ。


俺はまだリュトムスで神父をやってる。

物好きだなってのはわかってるんだけどさ。

やっぱり俺はこの田舎が気に入ってるみたいだ。


それで、俺は、あのとき一緒にいた騎士と結婚した。

俺の正体も知ってるけど、それでも一緒にいてくれるみたい。

とりあえず、こっちはうまくやれてる。


来年ヴォーゲンに行くときはミカエラのバーに連れてくよ。

結婚祝い、よろしくな。


じゃ、また。

アベル』


俺は魔法で返事を書いた。







****




ーーーヴォーゲン、東地区。バー・フェアベーゲン。


「はああああああっ!!!???」


アタシはリュトムスからの手紙を読んで、叫んだ。

差出人はアベル。インキュバスのくせに神父をやってる物好きな客だ。

教会からのありがたいお説教が書かれた手紙には、魔法でアベルの近況が書かれていた。


アベルが結婚。

ええ? あいつが? あの人間嫌いのアベルが? 騎士と?

全部が意味わかんなくて呆然としてしまった。


「どうした、ミカエラ」


店の奥で作業をしていたシャロンが慌てて表に来た。

まだバーは営業時間じゃないから、掃除やら準備やらをしてたところ。


「あ、ああ……。ええと、アベルから手紙が来た」

「! 無事か、あいつは」

「……ええ」


シャロンはほっと胸を撫で下ろした。ずっとアベルを心配してたからね。

手紙が届いて安心したってのはあるけど。

正直、斜め上以上の内容が書かれていた。


ちらりと手紙に目を落とす。何度見ても光る文字は変わらない。


「……アベル、あの騎士と結婚したみたい」

「は?」


シャロンが目を丸くする。

わかる、わかるわ。意味分かんないわよね。

全然信じらんない。あの騎士嫌いのアベルが、騎士と結婚なんて。


ーーーでも。


あのとき隣にいた騎士様はマジメで優しそうだった。

アベルのことも、リュトムスなんてクソ遠い田舎までちゃんと守ってくれたみたいだし。

……アイツが信頼するなら、まあ、いいのかな。



「結婚祝い、何がいいかしらね」

「…………え、わ、わからない。人間には何を贈ればいいんだ……?」

「さあ……」


人間の結婚式なんか出たことないわ。

ていうか、魔物と人間が結婚するなんて、聞いたこともないけど。

……とりあえず、調べるか。アタシはプロの情報屋だし。


ふふっと笑う。

なんだか面白くなってきちゃった。


アベル、あんたが次、ヴォーゲンに来たときは。

とびっきり面白い結婚祝い、渡してあげるからね。

こちらでネトコン受賞のお礼番外編更新は終わりになります!

コミカライズ関連、続報はまた追ってご連絡いたしますので、

ぜひぜひブクマしてお待ちいただけると嬉しいです☆(評価も……!してくれると!嬉しい!!)


この度は素敵な賞をいただき、ありがとうございました!

みなさまの応援のおかげです!!これからも頑張りますので、ぜひよろしくお願いします!

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