10.休日にて1
ある日の日曜日、竜一は再び茜に叩き起こされた。
今日は仕事も授業も無いので、ケータイのアラームをOFFにし、ぐっすり昼頃まで眠りたかったのだが、唐突に大きな揺れを感じ飛び起きたのだ。
「うわあ!」
と布団から飛び跳ねるように目覚め、目の前に居る人物を見てまた驚く。
「朽葉さん!?」
茜は人差し指を竜一の鼻先に押し当て、勢いよく言い放つ。
「ようやく起きた! あんまり寝すぎるのも体に悪いよ!」
竜一は思った。
自分は、まだ夢を見ているんだろうか?
何で茜が自分の部屋に居るんだろう。
「これって、夢なのかな?」
寝ぼけ眼でそんな風に独り言を呟く。
茜は豪快に笑ってそれを一蹴。
「何言ってるの! 現実ですよー、起きてくださーい!」
茜は竜一の肩を大きく揺する。
うん、現実だね、これは。
これほど解像度の高い夢は見たことがない。
結論、これは夢ではない。
ならば、茜が自分の部屋に居る理由はなんだ?
自分は招き入れていない。
どうやって入ってきた?
竜一が疑問に思っていると、部屋の窓から春風が吹き込んできた。
カーテンが風になびき、大きく揺れる。
昨晩は窓を開けたまま眠ってしまったのか。
ん? もしかして?
竜一は茜に尋ねる。
「あの、朽葉さん……窓から入ってきた?」
勝手に台所の掃除を始めていた茜は、手を止めて竜一の方へ振り返り反応。
「えへへっ」
えへへっ、じゃないよ。
これは立派な不法侵入だ。
「……次からは止めてね」
「えへへっ」
肯定も否定もなし。
竜一はそれ以上の説得を諦めた。
自分如き人間が朽葉 茜を御するなど、土台無理な話。
天真爛漫かつ天衣無縫。
朽葉 茜を制御できるのは、この世にただ一人。
それは、ほかならぬ朽葉 茜自身。
この部屋は二階。
そもそもどうやって入ったきたのか。
壁を駆け上がって来たとでもいうのか。
という疑問もあったが、竜一は直ぐにその疑問を消去。
朽葉 茜の手に掛れば、そんなものどうにでもなるのだ。
と自分を納得させた。
部屋の掃除をひとしきり終えた茜は、元気よく言い放った。
「さあ、竜一君、準備して! 出かけるよ!」
「出かける? どこに?」
戸惑う竜一に茜は説明。
なんでも、移動型アイスクリーム販売店舗ネフェレーが、現在この街で開業中らしい。
ネフェレーは、若い女性を中心に爆発的な人気を誇る、氷菓メーカー。
設置型の店舗はこの街にもあるが、話題性を重視してか、移動型店舗のみ限定商品を販売しているとのこと。
茜は、竜一と一緒にその限定品を食べたいようだ。
正直言って、竜一は気乗りしなかった。
甘いものは竜一も好きだが、わざわざそれを食べに行くためだけに脚を運ぶほど好きというほどではない。
包み隠さずに言えば面倒くさい。
もう少し部屋でゆっくりしておきたいと思いつつも、それは叶わないことを竜一は理解している。
茜の瞳に宿る強い意志を見た。
これは、自分の手に負えるものではない。
行くったら行く。絶対行く。顔にそう書いている。
まあ、他に予定が無いのも事実か。
嘆息し、竜一は立ちあがった。




