109 集う仲間
「くぁぁ〜あ。なぁお前ら、もう帰ってもいいか? 流石に馬力の足りないそいつらじゃ、勢いあるこいつの巨体は止めらんねぇって」
軽々と吹き飛ばされて機能を停止したケービロイドが山のように積み重ねられていく。【翡翠社】の方では、建物の中にいる職員たちが皆窓際に駆け寄りその光景を絶望したように眺めている。中には写真や動画を撮影しているものもいて、サバンナはまるでアイドルにでもなったかのように無邪気な笑顔でピースを向けている。
ジュノは目の前で起こっている出来事が信じられないとでもいうような表情で、震える声で呟きながら数歩後ずさりする。
「なんで……なんでこいつがここにいるでありますですか」
驚愕するジュノの視線の先には、あのクロサイがいた。サバンナは悠々とクロサイに跨り、ジュノと動かなくなったケービロイドの山を見下ろしている。
「この生物は…‥.リオンが足止めをしてくれているはずでありますです。もしかして……もしかしてリオンはもう……!
絶対に許さないでありますです。その部品の欠片一つたりとも原型を残さないくらい、砕いてやるでありますです」
涙を堪えながら叫んでいたジュノは、サバンナの方を睨み声を詰まらせる。サバンナはジュノの勘違いに気づいたらしく、慌てて自分の爪を自慢するように突き出しながら弁明する。
「違う、違う。こいつはあのクロサイとは別のやつ、俺の言うことに従うようにちゃんと微調整したクロサイだよ。ほら、このかっこいい爪とドウクツが届けてくれたプログラムがあれば俺は何度でもアースの生物を生み出せる」
サバンナの言葉にジュノはひとまず安心する。しかし、それでもリオンが無事だという保証はない。どうにかこの場を切り抜けてリオンを探しに行かなければならないのだが……ケービロイド達も全滅だ。か弱いジュノ単独ではこいつを止める手立てがない。
「それじゃあ、俺はもう行くぜ。せっかくだからよ……他の生物も見せてやるよ」
そう言うとサバンナは、爪にセットしていたプログラムを取り替え始める。そしてあらかじめ拾っていた牧場区のゼルを持ち、爪を突き立てててプログラムを撃ち込んでいく。それも一つだけでなく、次々と。
プログラムを得たゼルは地面に投げ捨てられると、やがてその姿を変化させていく。四足歩行の生物たちは皆同じような姿をしており、ふさふさの毛並みと黒いまだら模様が特徴的だ。ジュノも最初は警戒していたが、段々とそのつぶらな瞳に心を奪われそうな感覚にとらわれる。
「か、可愛いでありますです……」
「その気持ちはすごーくわかるぜ。でもな、こいつらは骨まで砕いて食っちまう肉食動物……ハイエナだ。油断してるとお前、跡形もなくなっちまうぜ? 」
サバンナの言葉に背筋が寒くなる。慌ててジュノは周りにいるハイエナ達の方を順に見ていく。ハイエナ達は陣形をとりながら、ジュノをぐるりと囲うように動いていく。ハイエナたちの数はジュノから見えるだけでも10体以上になっていた。もはや逃げ道さえない。甲高い鳴き声が響く中、サバンナが笑顔で叫ぶ。
「そんじゃ、俺はもう行くからよ。運良く生きてたら、その時はまた会おうぜ! あ、世話になったコックにもよろしく伝えといてくれ。そんじゃあな、人間ども! 」
サバンナはそう言い残すとクロサイに指示を出す。クロサイは頷き、巨体に似つかわしくない速度で牧場区の奥地を目指して走り出した。取り残されたハイエナ達はサバンナには興味がないらしく、群れに囲まれ追い詰められている小柄な獲物から一匹も目を離すことはしなかった。
ジュノは心を恐怖に支配されていた。先ほどまで愛らしく思えたつぶらな瞳、じりじりと詰め寄ってくる彼らの動作一つ一つ、またその息遣いにすら自分に向けられた殺意が感じられる。なす術もなく、自分は殺され喰われてしまう。そんな未来が彼の脳裏によぎる。助けを求める声の出し方さえも、もう思い出せない。
「代表! 早くそこから逃げてください! 」
「そうですよ、このままじゃ……」
【翡翠社】の方から、職員たちの声が聞こえてくる。しかしジュノは動けない。
永遠にも思えるその沈黙を破ったのは、ハイエナの方だった。突然鳴き声をあげたかと思うと、一斉にジュノに向かって飛びかかっていく。誰もがジュノの死を覚悟し目を閉じる。
しかし、ハイエナ達がその牙をジュノに突き立てる寸前で一人の人影がジュノを抱えて通り過ぎる。続けて誰かの叫び声が辺りに響き渡る。
「はぁぁぁっ! 【狐火】! 」
2人を追跡しようとするハイエナ達の前に、突如として炎が一直線に上がる。ジュノは自分が死んでいないことに驚きながらも、自分を抱え上げてくれている誰かの顔を見上げる。褐色に焼けた肌の青年はジュノの怪我がなさそうな様子を見て安堵する。
「ふぅ、間に合ってよかったッス。【ブーストボード】、一つ持ってきておいて正解だったッスね。流石にこのゴツゴツした足場で上手くバランスをとるのは難しいッスけど」
その青年は何か細長い板のようなものに乗っており、加速したその勢いのまま柵の外へと飛び越えると急停止してジュノを下ろす。
ジュノは呆気に取られていたが、事態を把握する為に慌ててハイエナ達の方を向く。柵の中に立っているのは、3人の子供だった。
「なんでハイエナがこの惑星に!? アタイら、夢でも見てんのかね」
「そんなことないと思うけどなぁ。だってほら、あんなに可愛いもの」
「あ、あの……フゥさん。理由になっていないと思います」
ハイエナを前に全く緊張感のない会話を繰り広げる子供達を眺めながら呆気に取られているジュノに、青年は質問する。
「アースの生物ってことは、きっとあれもアーサーのせいッスね」
「そうでありますです。……あの、あなた達は一体? もしかして……」
ジュノの質問に対して返答したのは、ジュノを助けた青年ではなく2人の近くへと歩いてきた白衣を着た青年の方だった。
「君がアラムの友達だね。あとは任せてよ、ここからは……僕たちの出番だ」




