107 ちょっとした非常食
「うぅ〜〜……やばい、もう……だめだ」
ドウクツの要望に誠心誠意応えるべくサバンナが人間たちの作った建造物の方へと走り去ってから、ドウクツはずっと空腹を堪えながらサバンナの隠れ家の中で横たわったままでいた。立ち上がることさえも億劫に感じるほど疲弊しており、いい加減エネルギー不足で気絶しそうだった。
あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。突然、横たわった身体全体を激しく揺らす地響きが遠くから伝わってくる。残った気力を振り絞り入口の方まで壁伝いにゆっくりと歩いていくと、遠くのほうから地響きの元凶であろうなにかが砂埃を舞い上げながらドウクツのいる方へと向かってくるのが見える。
「サバンナ……? よかった、やっときたんだ……」
しかし、ドウクツの希望はすぐに打ち砕かれる。必死の形相で疾走するその人影は、サバンナではなかった。そしてドウクツはその姿を見たことがある、他のドームにいるアーサーを探していた時に遭遇した最後のアーサーと呼ばれる特別な個体だ。砂埃を上げていたのはドウクツがサバンナに届けたプログラムで作られた生物らしく、前を走るアーサーに襲い掛かっているらしかった。
「なぁんだよ、もう……腹減った……」
絶望的な状況に耐えきれず、そのままドウクツは力なくその場に倒れ込んだ。
「ハァ、ハァ……よし、やっと見えてきたぜ……これがサバンナが護っていたアースの記憶か」
惑星リバイブの荒れ果てた土地とは少し違う、ゴツゴツした岩場ではなくアースの植物があちこちに生え茂っている。歩きにくいとまでは言わないが、足先に触れるくすぐったいような感覚はリオンにとっては初めてだったので少しだけ走る測度が落ちる。
背後から響く振動を感じながらリオンは後ろを振り返る。当然クロサイもリオンのことを追って着いてきている。太い脚で生い茂る雑草を踏みならしながら進むその姿は、まるで隕石を退けながら進む巨大な宇宙船のようだ。
「クロサイってのは確か、草食動物だよな。こういうやつは食べないのか!? なんでまだ追いかけてくるんだよ、こいつは! 」
リオンは試しにベンディングシステムを起動して、しゃがみながら近くに生えている草を背後にいるクロサイの方へと弾き飛ばす。自分に向かって飛んでくるちぎれた草を視界に捉えるとクロサイは走りながら大きく口を開ける。
やはりクロサイはこの草を食べられるようでムシャムシャと口を動かした後、同じ物が足元に生えていることに気づき夢中になってその辺りの草を食べ始めた。
ひとまず暴れることはなくなったようだが、クロサイの空腹感が収まればきっとまた動き出すだろう。
それに、この場所を形成しているのも恐らくゼルだ。食べ続けばそれだけ大きく力強くなってしまうだろう。一撃でケービロイド達を破壊し吹き飛ばすほどの威力なのだ、なんの対策もせずに近づく事は危険な行為だ。まずはこの近くにあるであろうサバンナの隠れ家を探すことにした。
「……それで、お前はなんでこんなところで寝てんだよ? ドウクツ」
「待ってんだよ……美味い食べ物…ちゃんと火が通ってるやつ」
サバンナの隠れ家を発見したリオンは、入り口の辺りでぶっ倒れているドウクツの前にしゃがみ込む。さすがに疲れ切っているようで、その後頭部をリオンが何度もペシペシと叩いても微動だにしないほどであった。
リオンはしばらくの間考えた後、アラムのように腰にぶら下げていた蜜飴の予備袋を取り出した。
この蜜飴は、アラムが持たせてくれたものだ。先日の地区代表会議の最中に生まれたレオナルドがリオンの体内に入った事が原因だった。これからリオンにどんな異常が起こるのかもわからない、何かあったときにせめて少量でもエネルギーを補充できるようにということらしかった。
「ほら、これ食えよ。ちょっとした非常食だ。味はほんっとに不味いけど、多少は楽になるぞ」
ドウクツはリオンの声にぬるっと顔を上げて、小刻みに震える手を差し出す。リオンは蜜飴を袋から1つその手に渡すと、ドウクツは慌てて体を起こしてそれを頬張る。
「うげぇ! ……全然おいしくないよ、これ」
「だから、言っただろ? そもそも俺らに合うような味には作られてないよ、これ」
「そうなの。でも、確かにかなり身体は楽になった気がする」
そう言うとドウクツは腕を大きく振り回したり、身体を前後左右に倒したりしながら自身の体の動作確認をしている。




