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追憶のEarth-er  作者: だーぎー
106/370

106 サバンナ侵入

 地区長不在の【翡翠社】にけたたましく警報が鳴り響く。館内の誰もが突然の出来事に狼狽える中、牧場区の柵の内側から一階の窓ガラスを頭突きで砕きながらサバンナが館内へと飛び込んできたのだ。背中には怪我をしたアラムを背負ったままだ。辺りにいた職員が逃げ惑う中、サバンナがアラムに問う。


「おい、人間。お前もうその辺に放っておいてもいいか? 」

「えっ!? なんでだよ! ここまで人質してやったんだから医療室にくらいは運んでくれよ、お前のせいで腕折れてるかもしれないんだぞこっちは! 」


「いやいや……よくそんな事偉そうに言えるな、お前。あの場にいた奴らの包囲網切り抜ける為の人質だった訳だから、ここまで辿り着いたらもうお前を担いでいく必要ねぇじゃん。重いだけだしよ」


「んなっ……まぁ、たしかに……」


あの場面でアラムが人質として機能したのは、ケービロイド達の指揮権がアラムの友人であるジュノにあったからだ。アラムのことを攻撃してはいけない対象であるという判断を下す人間がいないこの状況下では、ケービロイド達がどんな判断をするかはわからない。下手をすれば、サバンナがアラムを抱えたままであっても容赦なく侵入者を攻撃してくるかもしれないのだ。


「そういう事だ。じゃあな、人間」


 反論できなくなったアラムを乱雑にその場へ放り出すと、サバンナは館内の匂いを嗅ぎながらキッチンを探して走り出した。


 アラムは腕の痛みに耐えながらヨシノの花弁を取り出すと、モールス信号を使ってヨシノに信号を送る。ヨシノは信号に気づいて起きたらしく、すぐに反応があった。アラムが事情を説明すると、まもなくヨシノが一階へと現れた。ヨシノとほぼ同時に、リオンと別れたジュノも【翡翠社】へと戻ってきた。


「アラム……大丈夫なの? 怪我してるの」

「オイラが医療室へ案内するでありますです」



 小柄なヨシノとジュノがなんとか2人がかりでアラムを医療室へ運び込む。医療室には事務員が2人いて、突然鳴り響いた警報に慌てて部屋中からかき集めた武器になりそうなものを両手に握ったまま部屋の端で小さくうずくまっていた。


「……だ、代表! 良かった、連絡がとれなくて心配していたんです! 一体何が起こって……他の皆は無事なんですか!? 」


「色々説明したいところでありますですが、その前にこのアラムの治療を頼みたいでありますです。先程の侵入者の攻撃を食らってしまったでありますです。多分腕が折れているでありますです」


「お願いなの! アラムのこと助けてほしいの! 」


事務員は2人が連れてきたアラムの様子を見ると、頷いて寝台に横にする。手際よく折れた腕を固定すると、治療用のゼルの在庫を探し始めた。



幸いなことに、すぐにアラムの治療を始めることができた。事務員たちが治療用のゼルを折れた腕に注射していく。徐々に熱を帯びていく腕を抑えて唸るアラムに、事務員が説明を始める。


「少し熱いけど、このゼルは【ホスピタルウォール】で使われているものと同じものだから効き目はバッチリだと思うよ。

 個人差はあるけれど恐らく明日までに骨自体はくっついてるはずだ。ただしゼルがある程度固まっていくまで無理に動かしちゃ駄目ですよ」

「……わかりました」


 






 「……うっま、うっま! 肉って味付けして焼いただけでもこんなにうっまいのか!! チョウリってのはすごいじゃねえかよ、面白い事知ってんぜドウクツのやつはよ!!」


 食堂は大混乱であった。突如やってきたサバンナによって、食堂にあった料理のうちいくつかが既に平らげられてしまっていた。さらにあろうことか、逃げ遅れたコックの1人を人質に取ると「調理の仕方を教えろ」と脅して働かせているのだ。


 焼き加減をマスターしたサバンナは、調理道具や食材をいくつか近くの窓から外へと放り出していく。


「なぁ、チョウリのおっさん! 」

「な、なんですか……命だけは助けて」


「おいおい。俺のこと何だと思ってんだよ、全く。それよりもよ、外でも火が使えてチョウリができるような機械はないのか? 」

「それならあそこに……」



そう言ってコックはサバンナを食堂の倉庫の方へと誘導し、持ち運び用のガスコンロを指差した。

 サバンナはまるで宝物を手に入れた少年のようにそれを高く掲げながら眺めていたが、やがて笑顔でコックの方を振り向くと握手を求めてお礼を言う。差し出されたその手に装備された爪のような武器が鋭利な輝きを放つのが、嫌でもコックの視界に飛び込んでくる。コックは恐れを押し殺して言いなりになるしかなく、


「よぉ、色々と教えてくれて本当に助かったぜ。ありがとよ! 今度あったらまた何か食べさせてくれよな、おっさんの料理! 」

「は、はぁ……」



 サバンナはそれだけ言うと倉庫を飛び出して、食堂の窓から外へと出ていった。生命の危険から解放されたことに安心したコックはその場に力なくしゃがみ込む。


 少ししてから、館内を巡回していたケービロイドたちを引き連れて食堂へと駆けつけたジュノが倉庫の方へとやってきた。


「もしかして、両手に大きな爪みたいな武器をつけた男がここにきたでありますですか? 何もされなかったでありますですか? 」


「えっと……すこし、料理を一緒に……」

「りょ、料理? ……それであいつは何処へ行ったんでありますですか?」


コックは力が抜けたまま、食堂の方の窓を指差した。ジュノは開け放たれた窓の方から外を見る。窓の向こうにある柵の中に、あのサバンナがいた。何やらまたゼルに細工をしているらしく、出荷直前まで成長させたゼルを拾い集めている。


 しかしケービロイド達には窓を乗り越えるような動作が出来ないため、柵の入口の方から回り込むしかない。ジュノは苛立ちながらケービロイド達を連れてまた走って食堂から出ていった。



「一体何だったんだ……」

誰もいなくなった食堂に、コックの呟きだけが響いた。


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