今宵ばかりはご馳走を
「クックックッ………!そいつは傑作だな…!」
シルバが牙を剥き出しにしながら愉快そうに笑う。
「ちっとも面白くないわよ!もう!」
テーブルに頬杖をつきながらアレクシアはむくれた。
なんだか今日は集合やら着替えやらばかりで疲れた。
各々再び私服に戻り、”翼馬の酒場”の一卓にて集まったところだ。
外はすっかり日が沈んで暗くなり、酒場や宿屋から漏れ出る黄色やオレンジの灯りが、とても暖かく感じられる頃合いである。
町民も、冒険者も、この酒場で一日の疲れを癒やす為に酒を煽り、腹を満たす為に飯を頬ばる。
流しのリュート奏者が来ているようで、哀愁漂う曲や、軽快な楽曲を披露しては店内を賑わせていた。
無駄に慌ただしくなってしまった一日だったが、めでたい事に変わりはない。
慰労会というか、さらなる冒険へ向けての決起集会というか、今夜は仲間達に酒やご馳走を振る舞うことにしたのだ。
「さぁ今日はケットくんの奢りだよ!男に二言はないね?よぉし、お嬢!じゃんじゃんいっちゃおう!」
スゥが「イッヒッヒ」と気味の悪い声を漏らしながら、煽るようにしてアレクシアにメニュー表を手渡し、ウエイトレスを呼んだ。
アレクシアは数秒の間、メニューに視線を泳がせると、小さく息を吸い込んだ。
「ビール3つにシードル2つ、シルバはミルクよね。骨付きチキン6本、ニシンの塩焼き6尾、ゴロゴロミートポトフ、インゲン豆と鹿肉のミルクシチュー、こっちで取り分けるからなんか適当な器にお願い。おすすめ野菜グリル、今日は?人参とタマネギ?ええ、結構よ。旬の花の塩茹で畑、明るい色ね。トカゲとカエルの串盛り、黒焦げで。おまかせキノコの串盛り、こっちは程良く。ほうれん草ゼリーのエメラルドサイズ。胡桃パイをワンホール、白パン、木苺ジャム、あと蜂蜜。まずこんなとこかしらね。できたのからよろしく。」
途中からウエイトレスも困惑していたが、筆を忙しく動かしてオーダーを無事に書き留めたようだ。
俺も困惑した。
どう考えてもいきなり注文を飛ばしすぎだ。今すぐにでもメニュー表を取り上げて大体の金額を計算しておきたいところだが、今日はぐっと堪え、そんな気持ちはビールと共に飲み込んでしまうことにした。