とっておきのおめかしを
大通り、市場、訓練場、砦、方角によっては宿や酒場の窓からも。
街の中心部に高く聳え立つ王城。その天に矛先を向けるかのような塔の数々は、まるで空を眺めるように至る所から簡単に望むことができる。
行く機会があるかというと、話は別だ。
解放された公園があるわけでもなく、舞踏会や演説も全く行われることがない。唯一、過去に迷宮からアミュレットが持ち帰られた時だけは盛大な催しがあったのだとか。数百年も前の話だが。
物資の入城や要人の出入りの為に馬車が通過できるような大きな正門があり、その正門に辿り着くには太く、長く、そしてうねうねとした坂道を登っていく必要がある。
規則正しい菱形に整えられた石が敷き詰められたこの坂道は、まるで竜の鱗のようであり、人々から”竜鱗坂”と呼ばれている。
いつも迷宮に行くときの格好で、いつもと違う場所に集合している。
小さく見えていただけの城が、とても巨大な城であることを改めて確認すると胸が高鳴った。
「王様ってさ、やはりこの国で一番ふかふかのベッドで眠ってるのかな。」
俺とパストア同様に顎をあげるようにして王城を見上げながらスゥが呟いた。
「どうでしょうな。目と鼻の先に魔の巣窟がありますからな。どんなにベッドが良くとも、眠れない日々かもしれませんな。」
確かに。自分達だけで手が足りず、別世界の住人に手伝わせるような事態になっているのだ。枕を高くして眠っているとは思えない。
「それは勿体ないなぁ。私に譲ってくれないかなぁ。」
俺とパストアは青空を泳ぐ雲の流れをゆっくりと見送った。
「お待たせ!」
威勢の良い少女の声に振り返ると、見事なローブを纏ったアレクシアの姿があった。
光を浴びた新緑のような、眩しいようでいて優しい緑の生地。袖や裾などには、岩岩の隙間を縫う清水のような落ち着いた水色が細く控えめに紋様を描いている。
肩くらいまでの金色に輝く髪、間から伸びる長い耳には銀色のイヤーカフス。凛とした表情の、その肌は透き通るように白いのに強い存在感を放っている。いつもバケツ兜の甲冑の中に入っている人物とは到底思えない神秘的な様相であった。
その隣には隠れるようにして、彼自身の顔くらいある真っ赤な蝶ネクタイをつけたホビットの少年が不機嫌そうに俯いていた。