猫探し任務その1
それは丁度、女子寮の罰当番が終わったタイミングであった。
三希はきょとんとしていたが、春奈、千成は飛び跳ねるようにして喜んでいた。
「青龍学園からちょうど東に10Km行った町に住む依頼人から猫探しの依頼だ」
千曲先生から三人に一枚の紙が渡された。
そこには依頼人の住所と氏名が書かれていた。
「達成期限はなし。ただし、未達だと次の依頼は受けられないから気をつけろ。授業の時間以外はこれに費やして良いが、授業中は寝るなよ」
そう言い残して千曲先生は職員室へ戻った。
残った女子3人でそのまま教室で作戦会議が行われた。
「あの、全然ついていけていないんだが」
「あれー、三希ちゃん、もっと喜ぶとおもったのだけど」
千成が戸惑っていた。その隣の春菜が「しょうがない」と言いながら説明をした。
春菜の説明をまとめるとこうだ。
”普通”を演じる学校ではあるが、仮にも忍者を育成する学校であるため授業時間外を使って任務を受けられる。
しかし、ポイント(規律・内申・成績etc)がいちじるしく低いと任務すら来ない。
私たち三人はずっと低い状態であったが、三希がまじめに学校生活を送るようになって徐々にポイントが加算され、ようやく先生から声がかかったというわけだ。
ポイントの加点方法や任務が来る基準は教員にしか明かされておらず不明。
今回は猫探しであるが、ポイントごとに来る任務も違う。
ポイントが高いとそれなりに難しい任務が来る。
また、ポイントが高かったとしても任務を依頼する側が年齢や性別、体格、顔つき、人数など、条件を付けてきたり、逆に先生側で任務の内容を見て最低条件を判断したり様々ある。
任務を受けないこともできるが、成績表の「忍務」欄が1のままになってしまう。
「1学期の忍務成績ほぼあきらめてたけど、ほんと良かった・・・」
「羽黒家は結構、厳しいからね」
「すまない……」
「三希、あんたにはしっかり働いてもらうからね。さ、準備して」
「え、いや…あんた、どういうつもり?」
「なにが?別に普通だけど」
「わたしも、それはやめたほうが…」
「二人とも、私のどこがおかしいんだ?」
「「忍び装束は無いわー」」
きれいにハーモニーを奏でる二人の声に、思いもよらず三希はうろたえた。
「任務の話聞いてた?住宅街よ住宅街!一般市民が住んでいる住宅街!そんな中、忍び装束で突入したら目立つし警戒されるでしょ!!!!!もう一回着替えてこい!!!!」
春菜の声が寮の中庭に響き渡った。
寮生が何事かと窓からのぞいているのが見える。三希は不服そうな顔をしたが、千成に優しく諭されてしぶしぶ着替えにもどった。
春菜は三希が着替えている間、「アホお嬢」とぶつぶつ文句を言っていた。
千成は「まあまあ」と春菜を落ち着かせるが中々怒りは収まらず、秋葉くんのおにぎりが恋しいと考えていた。
数分後、三希が戻ってきた。
動きやすいスエットにパーカー、運動靴と思春期の女子が着る衣服としてはいかがなものかという突っ込みはあるものの、大分忍者服からは離れたので二人は良しとした。
「町まで10キロあるけどどうやって行く?自転車借りる?」
「そうだね、30、40分くらいかな。山道だし、電動の借りようか」
「走る」
「そうだね、三希ちゃんも…ってええ!?」
「自転車なんか乗らない。私は走る。10キロなんて余裕だから気にしないで飛ばしていいよ」
「さすが武闘派の東雲家……じゃあ、私たち自転車借りてくるからここで待ってて」
「うん、わかった」
三希は二人を待つ間、準備運動を行った。
家から学園まで直線距離を助蔵と走ってきた。ほとんど人目につかない山道を通り、休憩も野営だった。
それが唯一、家の外を出た経験で、それまではずっと東雲家の敷地内でしか過ごしたことがない。
(服装は忍び装束か着物だった。)
一族以外の人を見たのも、学園にきて初めてだし、ましてや忍び以外の一般人を見たこともなかったから、非常にわくわくしていた。
改めて彼女は”常識”という概念を全く持っていない生粋のお嬢だ。
忍びの訓練はどの家よりも受けたかもしれないが、それ以外のものが全く無い。悲しいほど無い。
ちなみに先ほど着替えてきた服はつい数日前に霧生白狐が制服・体操着・忍び装束しか持たない三希を憐れんで急遽送り届けてくれたもの。
春菜・千成は白狐からちゃんとしたお店でコーディネートをしてあげてほしいと直々に頼まれたそうだ。
「おまたせー、じゃ、行きますか」
正門で外出届を出し、三人は山道を下っていった。




